第42話 四人目の仲間

 ”元々は人間だった”


「へえ。そうなんだ……って、ええ? えええ?!」


 あまりに軽軽に言われたものだから、一瞬他愛のない内容だとスルーしそうになる。


 いやいやいや。

 すごく重大な情報じゃない!!



 さっきの映像からそうじゃないかなーとは思ってたものの。

 本人の口から聞かされると、やっぱりびっくりする。


「まさか、本当に……」


『ええ。私が、と言いますか、昨今に伝説と呼ばれている武器は皆そうです』


「……まじか」


『大マジです。私は八人兄妹の上から四番目です』


「でもでも、ちょっと待って! さっきの台座にギランダルさんが持ってた”ドーヴァン”の名前はあったけど、カドニさんの”デオ=ダルフ”とリーカさんの”翠天子杖すいてんこじゃく”の名前はなかったじゃない。あれはどういうことなの?」


『”デオン”と”ダルファン”は長男と次男です。二人はそれぞれ片手剣となったはずですが、いつからか双剣として使われるようになったのでしょう。二人は年も近く仲が良かったですから、相性は良かったでしょうね

 翠天子杖は、正確な名前ではありません。元の名は”フルル”、私の妹です。長い年月をかけて呼び方が変わったのでしょう』


「なるほど……。じゃあ、伝説級の武器が今確認されているもの以外に四本あるってことか」


『そのはずです。ですが、残念なことに今どこにあるかはわかりません。あくまで、昔のことを思い出しただけですので』


「そうか……。他の伝説級の場所がわかれば旅も楽になるんだけどな」


 私はラウが人間だったことにまだ驚きが収まらないけど、ネルは相変わらず冷静に今後にどう役立てようか検討してる。


 確かに。

 それも重要なことだと思う。


 けど、私にはどうしても気になることがあった。


「ねえ、どうしてラウの兄妹は武器になっちゃったの?」


『……すみません。思い出したと言っても全てを思い出したわけではなくて。私たちがなぜ武器になることになったのか、それが思い出せないのです』


「……ううん。謝ることないよ」


 思い出せてないことを深掘りしてもラウが可哀想。

 ラウだって知りたいことだろうし。


 本当はもっと聞きたいこともありそうだけど、私は口を閉じた。


 すると、ネルが明るめの口調で仕切りなおしてくれる。


「まあ、いいじゃねえか! ここで使える情報が手に入らなくても、元々寄るつもりもなかったわけだし。むしろ意外なことが知れて良かったんじゃないか? な、ルイ?」


「……うん、そうだね」


「そうそう! じゃ、ここを出ようか。外でフェルルをずっと待たせてるしな」


「……そうだね!」


 ラウのこと。

 不思議だし、気になることはたくさんあるけど。


 今は前を向いて進まなきゃ!


 こうしてるうちにも苦しめられてる人がたくさんいるんだから。



 だが、ネルに続いて部屋から出ようと椅子から立ち上がったところで、勢いよくドアを開けてミノ爺が部屋に入ってきた。


「ちょっと待ったーーーーあ!!」


「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて」


 ゼエゼエと息を切らしながら部屋に入ってきたミノ爺は「こ、こいつを……」と言い、入ってきたドアを指差す。


「こいつも一緒に連れて行ってくれんか!!」


「……こいつって?」


 ミノ爺が指差す方に顔を向けるも、そこには誰もいなかった。


「なぬ?! あ、おいこらバカ者! 勝手に戻るんじゃない!」


 そう言いながら部屋から出たミノ爺は、廊下で誰かと言い争いを始める。


「おい、ジジイ! 話せよ!」

「お前はこの方達と旅をするんじゃ! この遺跡の守人としても役目を果たさんか!」

「役目なら果たしてるだろうが! むしろそれを中断してまでこんな奴らと旅をしろっていうジジイの方がよっぽと不合理だろ!」

「むうう、最近の若いのは口ばかり達者になりおって! いいからこっちゃこい!」

「いででで! 耳引っぱんなよ!」


 ミノ爺は若い男の人を無理やり部屋に連れ込んできた。


 背が高くて細マッチョな体型。

 歳は……私たちよりも少し上くらいかな?


「こいつはワシの孫のロニーと言います。どうかこいつもお主らの旅に加えてくれんじゃろか?」


「……え? それまたどうしてですか?」


「ワシらエポールの守人はこの遺跡を守ることと、伝説の武器の研究を使命としております。あなた方の旅は我々の研究を大いに飛躍させると、ワシの直感が申しておりますのじゃ!」


 熱烈なミノ爺の視線。

 その横でロニーはミノ爺を睨んでる。


「はあ。そうなんですか……どうしよう、ネル?」


 困ってネルを見るも両肩をすくめるだけで、何も行ってくれない。

 もう! 何か言ってよ!


 私が困っていると、強引に押し切ろうとミノ爺が付け加える。


「安心してくだされ! こう見えてもこやつ、他の伝説の武器を探すために一人で世界中を飛び回り、危険な地域にも度々訪れております。戦闘面で足を引っ張ることはありませんじゃ!」


「は、はあ……」


「このご時世、腕の立つ者は一人でも多くいた方が安心できますぞ!」


「それは、そうでしょうけど……」


 やばい、押し切られちゃう。


 いや、嫌っていうわけじゃなくて、急な話をゴリゴリ進められてることに戸惑ってるだけではあるんだけど……。

 ただ”はい”と返事をするのも癪だし、こっちからも話をしないと!


「で、でも。お孫さんとても嫌そうにしてますけど? ……ねえ?」


 そう言ってロニーの方を見ると、キラキラした目で私の方を見ていた。


 ……え?


 さっきまでミノ爺を睨んでた顔とはまるで別人。

 目を大きく開き、ヨダレを垂らすんじゃないかと思うほど口が緩んでる。


「そ、それ……もしかしてラウニアか……?」


「え? うん。そうだけ……どっ?!」


 私が言い終わるよりも前にロニーは私との距離を一気に詰めてきた!


「ちょ、ちょっと! 近いよ! どうしたの急に!」


「雷槍は初めて生で見るんだ!! うわー! やっぱりかっこいいなー!!」


 どうやら、ラウを見るのが初めてで興奮してるみたい。


「あの……私たちと旅、したくないんですよね?」


「いいや! 雷槍使いがいるなら話は別だ! 俺もついてくぜ! ったく、ジジイも人が悪いぜ! 本物のラウニアがあるならそう言ってくれってんだよ!」


「ほっほっほ」


 ほっほっほ、じゃない!


「さて、こいつも行く気になったみたいじゃし、連れて行ってはもらえんじゃろか?」


「……はい、わかりました」


「ありがたい! しっかりその目に焼き付けてくるんじゃよ、ロニー!」

「おう! 任せとけジジイ!!」


 結局、最後まで二人の圧に勝てなかった。

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