第44話 エルビナへの近道洞窟で

「わあ、暗いねえ」


「そりゃそうだ。普段人が入ることはない洞窟だからな。明かりどころか道が整備されてるわけでもねえ、気をつけて進めよ」


「う、うん……」


 ロニーが近道だという洞窟に足を踏み入れた私たち。

 地面は大小の石や水たまりで、ロニーが言う通り歩きづらい。


 外の光が届くうちはなんとかなるが、奥に進むにつれ暗くなり足元が見づらくなってくる。


「わっ!」


 ほら! つまづいた!

 危うく転ぶところだった……。


「ねえ、ちょっと暗くない? みんなは見えてるの?」


「確かに、そろそろ暗くなってきたな。それじゃ……”灯火トーチ”」


 ロニーがそう唱えると、手のひらに淡い光の玉が発生する。


「ほら、お前らにやるよ」


 人数分の光の玉を作り、ネルとフェルルと私に放ってくれる。

 投げ出された玉はそれぞれの肩の高さに静止し、周りを照らしてくれた。


「すごい!」


「仕事柄こういうところにはよく来るんでな。この手の呪文は任せときな!」


「さすがロニーさん! 頼りになる!」


「おう! お兄さんをどんどん頼りなさい!」


 ガハハと笑うロニー。

 すると、少し遠くにいたフェルルがこっちに歩いてくる。


 近くに来てやっと見えたその顔は、怒ってるのかムッとしていた。


「……あれ、フェルル、どうしたの?」


「”灯火トーチ”」


 フェルルも同様の魔法を唱えると、フェルルの両手ほどの大きさの光の玉が生まれる。


「わっ! 大きいっ!」


「……これくらいの魔法なら私だってできる」


 ロニーの出した光の玉よりはるかに光っている。

 ……というか暗いところに目が慣れていたからか、眩しすぎて直視できない!


「……どうだ」


 大魔導士として、ロニーに劣ってるとは思われたくなかったのかな。

 得意げに笑うフェルル。ちょっと可愛い。


 しかし、私以外はそうは思ってないようで慌てて駆け寄ってくる。


「おい、フェルル! 今すぐ明かりを消せ!」


「……なんで?」


「なんで、じゃねえ! 俺が暗めに作ったのはわざとだ! 洞窟のモンスターを刺激しないため必要最小限にしたの! 俺だってその気になればこれくらい明るくできるぜ!」


「……ああ」


 フェルルは納得し光の玉を小さくする。


 しかし、対応が遅かったようで……。


 ——グギギギギギ


 洞窟の奥から何かの鳴き声や蠢く音が聞こえてくる。


「ほらな……眠りを邪魔されて怒ったモンスターがたくさんくるぜ。どうしてくれるんだよ」


 ——ギシャアアアアアア!!


 奥から大量のコウモリやネズミ、多足の虫モンスターが一斉に襲いかかってくる!!


「ぎゃーーー!!!」


 うう、気持ち悪い!!

 おぞましい光景に思わず叫んでしまう。


 すると「ルイ下がってて」と後ろにいたフェルルに肩を引かれる。


「私が全部片付けるから、この件はチャラ」


 フェルルは皆の前に立ち、両手を前にかざす。


「……”風刃巻ウィンドミキサー”!!」


 前に突き出されたフェルルの両手から発生した竜巻が洞窟の奥に向かって放たれる。

 その大きさは、洞窟の直径ほどで、壁や地面に突き出した岩を抉りながらモンスター全てを進み込んだ。


 ——グギャア……


 竜巻に飲み込まれた順にモンスターは小さな断末魔をあげて消え去っていった。


「すごい威力……!」


「どう? これで問題ない」


 エヘンと威張るフェルルに、魔法の規模に感動する私。

 けれど先ほどと同じく、ネルとロニーは頭に手をあて呆れているようだった。


「フェルル、オメーよ……旅慣れしてねえな?」


「……なんで?」


「こんな洞窟であんな大規模なことしたら、どうなると思う?」


「……?」


 フェルルとともに首をかしげる私。


 正解は、洞窟が教えてくれた。


 ——ピシッ


「ん? 今何か、上の方から音が……」


 ——ピシビシッ!!


 洞窟の天井を見上げると、大きな亀裂が入っていた。

 その亀裂はみるみる広がっていく。


「まずいっ!!」


 天井からガラガラと小さな石が落ちてきた後、巨大な岩が頭上に降ってくる!


『ルイ! 逃げてください!』

「えっ?」


 ラウに警告されるも、咄嗟のことで動けない。

 じっと岩が落ちてくる様子を見上げていると、誰かに突き飛ばされた。


「いたっ!」


 受け身も取れず地面を滑った後、私が元いた方を見ると、大きな岩が道を塞いでいる。


『大丈夫ですか? ルイ』

『う、うん。なんとか……』

『よかった……。もし彼に突き飛ばされなかったら、ルイはあの岩の下でペシャンコになってましたね』

『……彼?』


 よく見ると岩のすぐ横に誰かいるみたい。

 次第に砂煙が晴れるとそこにいるのはロニーだとわかった。


「正解は……崩落だ。ちくしょう」


 胡座をかいて文句を言いながらぽりぽりと頭を掻くロニー。


 私が近づいて「あの、ありがとうございました」と言うと、ロニーは「おうよ」と返して立ち上がる。


「ラウニアも埋まっちまうと悲しいからな。それより、あっちは無事かねぇ」


「そうだ! ネルー?! フェルルー?! 大丈夫ー?!」


 落ちてきた岩に向かって叫ぶも、返事はない。


「そんな……まさか二人はこの岩の下に……?」


 岩に手をつきながら膝をつく。


 まだまだ二人と旅をしたかったのに……。

 こんなお別れなんてあんまりだ……。


 涙が目にたまり、こぼれそうになるも、聞き覚えのある声が心伝石を通じて聞こえてくる。


『おい。ルイ、ロニー無事か?』


『ネル! よかった! 無事なのね?!』


『ああ。フェルルもいる。こっちは無事だ。そっちは?』


『ロニーといるよ! こっちも大丈夫!』


 よかった、みんな無事だったんだ。

 私が安堵する間も心伝石からの声は続く。


『しかし困ったな。この岩、完全に洞窟を分断してる。岩の破壊自体は造作も無いけど、この洞窟への負荷を考えると、やめたほうがよさそうだし。そっちへは行けそうにないな』


『そんな……どうしよう……』


 向こうも無事なのはわかったけど、合流は難しいみたい。

 てことは……。


『私たち、もうこの洞窟から出られないの?!』


『落ち着けよルイ。確かにネルたちがいるのは洞窟の入り口側で、俺たちがいるのは洞窟の奥側だが、こっちはエルビナ側に続いてる。そっちから出れば問題ねえ』


『……そっか、そうだよね、ごめん』


『だからよ、前に進むとしようぜ! 俺たちはこのまま洞窟を抜けてエルビナに向かう。ネルたちはしょうがねえ、洞窟から出て街道で追っかけてもらおう。俺たちの方が早くつくが、先に情報収集してればいいだろ?』


『……うん! そうだね、前に進まなきゃ!』


 ロニーの言葉には熱さがある、と言うかなんだか前向きになれる。

 さっきまでのテンパりを消してくれた。


『そっち側のお二人さんも、それでいいよな?』


『……それしかないだろうな。ルイ、先にエルビナについて有力な情報があっても先走るなよ! 必ず俺とフェルルを待て、いいな?』


『……うん』


『よし! じゃあ動こう! また、エルビナで!』


『おう!』

『うん!』


 こうして、私はロニーと二人で洞窟の奥へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

槍とルイ〜伝説の武器の力を借りて箱入り娘は旅に出る 相田誠 @aida-makoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ