第11話 武器商人の耳

 なんとかかんとかっていう青い丸薬のおかげで元気を取り戻した私は、旅の同行者ネルの横に並んで街道を進む。


「ようやく半分ってところかな。ルイ、まだ大丈夫か? もう少し行くと宿場があるから一休みできるぞ」


「全然平気! 私は元気だから、休憩なしでも行けちゃうかも!」


「へえ、こいつはいい誤算だな。ルイは”気力”が並よりも高いんだな」


『”気力”とはやる気の源のようなものです。”体力”は生命力のことですので、体力と気力は少し違います。気力が低い人は何をするにしてもすぐにやる気をなくしたり諦めたりしてしまいますので、気力が高いのはとてもいいことなのですよ』


 私の先生は、私の質問を見越してそれよりも先に教えてくれる。


 ……見透かされて悔しい。


 なんとなく素直にお礼を言う気にもならず「ありがと! 先生!」と少し口調を強めてラウに返すと、ネルが驚いた様子でこちらに振り向く。


「……え? どうしたの? もしかして、私臭う?」


「ああ、いや……ラウと話してたのか。さっきもそうだけど、急に声を荒げられると心臓に悪いんだけど」


「あー……。ごめんごめん」


 ラウと話ができる私は、口に出した言葉と、心の中のどちらでも会話ができる。

 基本的に心の中で会話をするのだけど、私の感情が昂ぶったりした時ついつい口に出してしまうことが多い。


 そして、ラウの声は他の人には聞こえないので、私が不審者扱いされてしまうのだ。


「けど、不思議だな。なんでルイはその槍と話ができるんだ?」


「うーん、自分でもよくわからないの。小さい頃から武器たちの声が聞こえるのが自然だったから」


「へえ。さしずめ”武器商人の耳”ってとこか」


「武器商人の耳……」


なんか……プロフェッショナルっぽくてかっこいい!


「しかし、俺も長いこと外で暮らしてるけどなあ。そんなの初耳だ」


『”耳”だけに、ですね』

『ちょ、ちょっとラウ! 笑わせようとしないでよ!!』

『ルイには”耳”を貸しません』

『ラウ、たまにそういうところあるよね……』


 ラウのしょうもない駄洒落をなんとか処理して、ネルの方に”耳”を向ける。


 って、ああ!

 わざとじゃないからね!


「それに別にラウだけじゃ無いよ。武器ならどんな種類でも声は聞こえるの」


「え、そうなのか?! じゃあ、この剣も何か言ってるってことだよな? なんて言ってるんだ?!」


 ネルは好奇心に満ちた目で私を見ながら、腰にぶら下げた二本の剣を鞘ごとホルダーから外してこっちに突き出す。

 ネルのこんなキラキラした目、初めて見た。


 私自身、武器の声を聞くことは好きなので差し出された剣に耳を傾ける。


「えーっと『早く研いでくれえ』と『いつまでも峰打ちばっかりしてるんじゃねえ! 早く切らせろ!』って言ってるね。

 こっちの剣は砥石で擦られるのが快感になってるみたいね。たまにいるのよね、砥石にはまるって。

 それで、そっちの剣は、血に飢えてるタイプね。こういう過激なタイプはしょっちゅう見かけるわ」


「そ、そっか……。なんか見る目が変わったわ。こいつらも生きてるんだな」


「そうよ! 大事にしてあげてね!」


 私がそう言うとネルは「おう」と言って両の剣を腰に戻す。


 その素直な”おう”という返事に私は少し驚いた。


 これまで大人に武器の声が聞こえるなんて言っても、見向きもされないどころか「からかうんじゃない!」と怒られたこともあった。


 だからこうしてネルが武器の声をすんなり受け入れてくれたことは、結構嬉しい。

 それに、さっきのカブトムシを捕まえた少年のような目。


 行動を共にしてからはずっと、付添人の振る舞いをしてくれているけど、やっぱり年相応の姿も持ってるのね。


 ……いや、私ネルの歳知らなかったや。


 手慣れた手つきで腰のホルダーに鞘を固定し終わっているネルに聞いてみることにした。


「ねえ、ネルは何歳なの?」


「急になんだよ? 十八だけど? ルイは?」


「うっそ! 年上だったんだ、私十六」


「”うっそ”ってなんだよ。別に年相応だろ? あ、別に敬語とか使わなくていいからな」


「……うん」


 背は私よりちょっと大きいくらいだから、むしろ年下だと思っていたとは言わない方がいいだろう。


 察してくれていたラウが『懸命な判断ですよ』と褒めてくれた。

 ですよね、よかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る