第10話 私は旅慣れしてないの
「ねえ、本当にもうすぐなんでしょうね?」
「ああ。さっきから言ってるだろ? もうすぐだって」
「”さっきから言ってる”から問題なんでしょ?! もうすぐってのは、本当にあとちょっとのところで使ってくれない?」
「えー、あとちょっとだけどなあ」
「……具体的にはどれくらい?」
「五時間くらい。な、もうすぐだろ?」
「どこが!!!」
はあ。
やっぱりあったばかりの素性も知らない人についてくるんじゃなかったかも。
もうイリナの町を出てから二時間は歩きっぱなし……。
この少年”ネル”と行動をともにすると決めてからのこと。
宿屋のおじさんが連れてきてくれたギルドの人に賞金首を引き渡して、ネルはお金を受け取った。
そしてネルに「一箇所に止まってたら狙われ続けるだけだ。俺はいいんだけど」とほぼ脅されて、泣く泣くイリナの町を後にすることにした。
宿屋のおじさんに鍵を戻しに行くと、「大丈夫かい? 気をつけてね」と飲み物と食料を持たせてくれた。
思い出しても泣けてくるよ。
おじさん、本当にありがとう。
その後ネルの買い物に連れ回され、イリナの門をくぐり、現在に至る。
目的地は教えてもらえず、「まあついてきなって」の一点張りだし。
私には、他の勇者を探すっていう目的があるわけだけど。
まあ、何か見当があるわけでもないし、ついて行くんですけどね。
『ねえラウ。この子、結構強情よね』
『そうですか? 言動に問題は無いように思いますが。買っていたものもどれもはどれも理にかなっていましたし。かなり冒険慣れしていますね』
『でも目的地くらい先に教えてくれても良くない? あーあ。助けてくれた時は王子様に見えたんだけどなー』
『まあ信頼度で見ると、まだ”靴磨き”くらいですけどね』
『えええ! 結構ひっくいね。理にかなってるんじゃなかったの?』
『信頼の話とは別です。もしも私のルイに何かしようものなら私が末代まで焦がしてやります』
『おおお、頼もしい……』
ラウは私のこと本当に大事にしてくれてる。
二回言うことになるけど、本当に頼もしい。
……どうやって焦がすのかはわからないけど。
気晴らしにラウと話し、心は少し安らぐもののスタミナが回復するわけではなく。
「あーーー! だめ! もう歩けないーーー!」
ほどなくして体力の限界は訪れてしまう。
道のど真ん中で立ち止まる私。
ネルはそんな私に合わせて歩くのをやめる。
「もうギブアップか? まだ二時間しか歩いてないだろう」
「私は昨日からほとんど寝てないの!! ネルと違って旅慣れもしてないし」
そう、昨日の朝からアリアンを追われて飛び出してきて、睡眠はイリナの宿屋でとった仮眠のみだ。
「ほとんどって、どれくらい?」
「ん? えーっと……。あ、二時間だって。ラウ、ありがと」
「じゃあ充分じゃないか! 外で寝泊まりしてたらそれくらいのことは——」
「だから! 私はあなたみたいに旅に慣れてないの! 一緒にしないで!」
「……でも、これからは慣れていかなきゃいけないだろう?」
「……う」
またもこやつ正論で……。
ラウにも『彼のいう通りですよ』といじめられる。
そんなこと。
頭ではわかるけど、体はすぐについていかないよ……。
何も言い返せないけど、体力が尽きているのも事実。
下を向いて「ううう」とその場にへたり込む。
「ったく。しょうがないなあ」
ネルはそう言って私に近寄り、かがみこんで目線を合わせ「ほら」と何かを差し出してきた。
何やら見たことのない、小指の先ほどの青い玉。
「……これは?」
「元気が出る旅のお供さ。騙されたと思って食ってみな」
「ラウ、これ食べても大丈夫?」
『はい、問題ありません。よくある丸薬です』
「そっか。なら……んむっ」
ネルから丸薬を受け取り、そのまま口へ放り込む。
すると、すぐに体に変化を感じる!
「わわっ! なんか、体が軽い! し、なんか元気が出てきた! すごいねこれ!」
「ああ。”
「うん! よーし! これならまだまだ行けそう!」
「頼もしくなったな。じゃあその調子でどんどん行こう!」
再び先導を始めたネルに、「うん!」と軽快な返事をしてついていく。
『ねー、ラウ。丸薬って色々あるの?』
『ええ、先ほどの青翔丸の他に、体力を回復できる”
『待って待って! そんなに覚えられないよ』
『他にもたくさんあるのですが……。まあ初めは正式名称よりも色と効果を覚えていけば大丈夫です。使いながら覚えていきましょう』
『うん』
実践して覚えていく。
実に私向きだ。
現に、青い丸薬は気力体力が回復するって覚えたし。
『それにしてもいろんなアイテムがあるのね』
『ええ。丸薬以外にも多くのアイテムがあります』
『ねえねえ、そう言うのって自分で作ったりできないの? 自家製の!』
『”調合”能力があれば簡単にできますが、ルイにはないので材料から用意しないといけませんね』
『へー、材料って?』
『例えば、とげバッタの頭と光トカゲの尻尾に泥ガエルの眼球と、あとは……』
『……ねえ、まさか。さっきの赤い玉も……』
『はい、ベースは同様の素材からできています』
「ぶーーーっ!!」
「なんだっ! どうした??!」
想像し思わす吹き出した私と、後ろからいきなり私の奇声が聞こえて驚くネル。
私たちの旅は始まったばかりだ。
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