第9話 同行者
「じゃあいくつか質問させてもらうけど。助けた代わりだと思って答えてくれると助かるな」
この男の子、急に目つきが鋭くなった……。
再び湧き上がる警戒心。
「じゃあ、一つ目の質問。君の旅の目的は? このご時世、自衛の実力もない女の子がワケもなく旅をするなんてことないと思うんだけど?」
「それは……」
痛いところをついてくるなあ。
さっきので、私が戦闘の素人だってのもバレてる。
”このご時世”っていうのは、魔王が復活して魔族とモンスターが活発化している今の世界情勢のことだろう。
確かに、近年はお気楽な旅人は減り、仕事でやむを得ない事情があるとか屈強な冒険者ぐらいしか住んでいる町から出る人は少ない。
『ラウ、どうしよう! 本当のことは言わない方がいいかな? いいよね?!』
『そうですね。けれど事実を含めつつ、うまく誤魔化しましょう。頭の切れそうな相手です。ルイ程度の真っ赤な嘘はすぐに白状させられるでしょう』
私程度って……失礼しちゃうな。
……まあ、そうなんだけど。
嘘なんてほとんどついたことないけど、やってみよう!
ラウが伝説の武器だってバレなければきっと大きな問題にはならないはず……。
「えっと、いわれのない罪で捕まりそうになったから、隣町のここへ逃げてきたんです。だから、旅っていうか……ほとぼりが冷めるまでの一時避難みたいなもので。それで、そのいわれのない罪っていうのは、えーっと……」
「なるほど、アリアンが伝説の武器を奪われたって噂は本当だったわけか」
「……え?」
こっからってところで!
私が誤魔化しに入ろうとしたところで、男の子に流れを断ち切られる。
……私、伝説の武器って言ってないよね?!
そして”アリアン”とは私の生まれ故郷だ。
なんでそんなことを知ってるの?
『全部バレた!! 私の話、そんなに下手くそだった??!』
『いえ、やられましたね。私が伝説の武器だということは初めから分かっていたのでしょう。結果的に、ルイの話で補完してしまったようです』
そんな……。
完全にしてやられたわ。
いや、それよりも。
さっきの話、気になるワードが一つあった。
「あの! 奪われたってどういうことですか?」
少し語気が強くなった私をちらりとみた後、少年は答えてくれる。
「昨日の深夜。この近辺で活動しているギルドや賞金稼ぎに、アリアンからある通達が来たんだ。
『我が国から伝説の武器の一つである”雷槍”が奪われた。奪還せし者には報酬として100,000,000G支払う』ってね。
その後は、この人類が結託しなければいけない時期にあるまじき愚行を許すな——とか、略奪者の特徴は——とかが書いてあって、この特徴が君にぴったり当てはまるってわけ。
でも安心して、俺は槍狙いで来たわけじゃな——」
「そんなの嘘! ラウはずっとうちに伝わってきた家宝なんだから! 奪われたなんて嘘っぱちよ!!」
「……ラウ、って? その槍のこと?」
「そうよ! 私とラウは親友で相棒なんだから! あなたもアリアンの嘘につられてラウを狙いに来たんでしょうけど、絶対に渡さない!」
そう言って槍を少年に向けると、少年はこちらに両手の平を向けた。
「落ち着きなよ。さっきも言ったけど俺はその槍狙いで来たんじゃない。純粋にこいつらの懸賞金狙いで来たんだ」
「……そんなの、信じられないよ」
アリアンが出したという通達の話を聞いてから、頭に血が上っている。
どうしてそんな嘘をつくの?
ひどいよ… …。
”魔王”を倒すために、伝説の武器が必要ってのはわかるけど……。
こんなやり方ひどすぎる。
今朝に続いての故郷からの仕打ち
さらに気持ちが沈む。
「信じてくれよ。だって、俺がその槍狙いだったなら、さっきの煙に乗じて君を殺せばよかっただろう?」
「それはそうだけど……え? 何?」
「ん? どした?」
少年と話をしている間にラウが語りかけてきたので、それをそのまま少年に伝える。
「……ラウがね。”その人たちにかかってるお金より
「なるほど。確かに俺の思ってることを話した方が信用してもらえるかもな。……って、その槍が喋ったの? 俺には何も聞こえなかったけど……」
「そうよ、悪い?! それよりも早く教えて!」
少年は不思議そうな顔をしつつ、ぽりぽりと頭を掻く。
「俺もアリアンとは昔色々あってさ。控えめに言って、大嫌い? 憎いと言ってもいい。
だからこの通達を見たとき、もう、ざまあみろって思ったさ! しかもこんな少女も捕まえられないってんだから、痛快だったね!
でも、誰かが槍を奪って、アリアンの手元に納まっちゃうとドヤ顔されるだろなーって思って。それでこいつらの邪魔をしてやろうと思ったわけ」
少年は、自分の足元に転がっているボウガン男を足で小突きながら続ける。
「どういうわけか今回槍奪還の依頼をアリアンから貰ったのは、普段表に出ないような札付きの連中だらけみたいでさ。まあ、そこからもアリアンの腹黒い事情がうかがえるけど。賞金稼ぎの俺からすると一石二鳥なのさ」
「……長々と説明してくれてありがとう。あなたがアリアンを嫌ってるってのは十分に伝わったわ」
この子、本当に私たちは襲わないのかな。
そう私が気を緩めそうになっていると、再びラウが私にある質問をするように語りかけてくる。
「それで十分さ! そこで、俺から一つ提案があるんだけど……」
「待って! ラウがね、”そんな札付き連中に送られた情報をあたなも知っているの?”って。……確かに! なんでよ?!」
再び槍を向ける。
この子、まさか私を油断させるために嘘をついてたの?
ラウがいなければ危なかった……。
やっぱり信用できないのかも。
「待ってよ! それは、ほら、俺も賞金稼ぎだからさ! ターゲット連中がどう動くかの情報を仕入れる手段くらい持ってるって! 信じてくれよ! アリアン《故郷》に裏切られたもの同士なんだからさ!」
……う。
この子も、故郷に?
そう思うと、ちょっと信用してみたくなっちゃう。
ラウは『まだ信用できません』と言っているけど、私は槍を下ろした。
「……わかった。信用する」
少年はホッとした表情で両手を腰に当てている。
私はそんな少年につっけんどんに聞く。
「それで? さっき提案がどうとか言ってなかった?」
「え、ああ。忘れるところだった! 提案っていうのは、君の旅に同行させてもらいたい、ってことなんだけど、どうかな?」
「……え?」
「俺としてはさ。君といれば賞金稼ぎとして儲け放題、かつアリアンの邪魔をできるって寸法でさ! 良いことづくめなんだよ!」
信用するとは言っても、さっき会ったばかりの少年と旅をするなんて……。
そこまで信用しているかっていうと微妙なんだけど、けど……。
「それに、君からしたら戦える人がそばにいた方が安心だろ? 俺のことはボディーガードだと思ってくれればいいからさ! お代は君からじゃなくて賞金首の奴らの首だし、君にデメリットはないと思うけどなあ」
そう、その通り。
ラウが言うにはこれからモンスターも強くなるらしいし、今日みたいにいきなり襲われたりした時、誰かがそばにいてくれると助かると思う。
「……わかった。一緒に行きましょう」
「ほんと? やった!」
「ただし! ちょっとでも怪しいと思ったらすぐにサヨナラだからね!」
「わかってるわかってる。そんなことしないよ」
私の警戒心マックスの顔と対照的に、少年は無邪気な笑顔を浮かべている。
「改めて、俺の名前はネルよろしくな!」
「私はルイ。それでこっちはラウよ」
思いがけず、旅の同行者が加わった。
口ではこう言ってるけど、正直頼れる人もいなかったからかなり嬉しい。
「ん」
「え? どした?」
「ラウがね。”ルイは可愛くて優しい女の子ですけど、襲ったりしたら許しませんよ”だって。……って、ちょっとラウ!」
「……それ、自分で言ってて恥ずかしくないの?」
「違う! これは私じゃなくてラウが……んもーー!!」
こうして、私とネルのコンビが結成された。
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