第25話 魔導大国ウィンベルン
宿場を出発して四時間ほど歩き、私は今大きな門……のようなものを見上げている。
「これが、ウィンベルン……」
「ああ。魔導大国と言われるだけあって、全然違うだろ?」
「うん……」
門柱は大きな木製のように見えるが、門自体は半透明の壁でできていた。
門柱にはいくつも綺麗な石がはめ込まれていれ、半透明の壁はそこから発生しているように見える。
「外敵を防ぐ魔力の盾だ。普通の防壁とは違い、半球状に展開されていて上空も守れるのが特徴だ。しかもかなり硬くてちょっとやそっとじゃビクともしない。ウィンベルンが魔法の国と呼ばれるのもわかるだろ?」
確かに。
見上げてみると透明な壁は門だけに留まらず、国全体を囲むようにドーム状に広がっていた。
開いた口が塞がらない……。
「これが、魔法の国……」
「じゃあ、早速入国するぞ」
「え! もう?!」
「外から眺めるために来たんじゃないんだ」
「それはそうだけど……。あ、入国って、審査とかあるの?」
「初めての入国ならあるが、俺は以前来たことがあるから通行証を持ってる。ルイは初めてだけど、俺の連れだって言えば入れる」
門の側にある管理小屋のような建物の中で入国の手続きをする。
ネルの言った通り、あっさり通してもらうことができた。
門番に付き添われて魔法の盾の内側に入る。
「ようこそ! 魔法の国ウィンベルンへ! 楽しんでいってくださいね!」
そういって門番は管理小屋の方へ戻っていった。
「ここが、魔法の国ウィンベルン……」
石造りの四角い建物とレンガを敷き詰めたアリアンの街とは違う、曲線を描くカラフルな建物がたくさん建ち並ぶ。
地上の道もカラフルなモザイクタイルで整備されており、なんと、空中に浮いた半透明のチューブみたいな中を車輪のないトロッコのようなものが高速で移動している!
それに、なんの意味があるかはわからないけど、空中のいたるところに丸い玉がふわふわと浮いている。こちらもカラフルでなんだか可愛い。
つまり、まとめさせていただくと……。
「すっごーい!!!」
勇者のみんなを助けるという困難な目標があることは忘れていないんだけど。
見るもの、聴くものすべてが初めての体験。
あらゆるものが刺激となって私の脳を刺激する。
「見たことないものばっかり!」
「ああ。他国は軍人や一部の特殊な職業者以外が魔法を使えないのが普通だが、ここでは幼少から魔法の教育や訓練を受けるらしい。だから生活必需品や公共設備も魔力が使えて当たり前の仕様になってるものも多いんだそうだ」
「へぇー! ネルは相変わらずよく知ってるね」
「仕事柄いろんな国に行くからな。でも、俺なんかよりもその槍様の方が物知りだろうぜ。なんせ三百年前から存在してるんだからな」
「……ラウ、そうなの?」
『そうでもありませんよ。確かに戦闘は多く経験しましたが、魔王との決戦以降私はほとんど宝物庫や倉庫を転々としてきただけですので、世界の情勢や文化には精通していません』
「へぇ、そうなんだ」
『はい。なのでウィンベルンという国は初めて聞きました。三百年前にはありませんでしたから! こんな様式の国は初めてみましたよ!』
「……ラウ、なんかテンション上がってない?」
『そっ、そんなことありません! あの空飛ぶ箱の仕組みや、ふわふわ浮いている球体についてなんて全然興味ありませんから!』
「……ラウ。それ、興味ありますって白状してるようなもんだよ」
『ええっ! そうなのですか?!!』
「ハハッ! ラウったら!」
「へえ。槍様にも案外おっちょこちょいな一面もあるんだな」
『少年は調子に乗るんじゃありません分解しますよ』
「なんで俺にはそんなあたりが強いんだよ!」
『なんでって、私はルイ以外の人間は信用していませんから。それより、フェルルという者を探すんでしょう? 早く探してきなさい、私たちはこの国を見学して回りますから』
「おいおい、俺一人に探させる気か? この馬鹿でかい国でよ」
『だったら尚更手分けして情報収集した方が良いではありませんか。ほら、さっさと行きなさい』
「ったく、わかったよ。そっちも遊んでばかりいないでちゃんと情報集めろよ! 何かわかったら心伝石で呼んでくれ」
ネルは渋々街の奥へ消えていった。
『さ! 私たちはこの街を探検しましょう!』
「え! 情報収集しなくていいの?」
『そんなものはあの少年に任せておけばいいのです。仮にも賞金稼ぎならこの国にもツテは持っているでしょう。有名人の居所なんてすぐに掴んできますよ』
「そ、そっか……」
『それよりも久しぶりに二人になれたんです。重いっっきり楽しみましょう!』
「……もしかして、ラウ。ネルに嫉妬してるの?」
『まっ、まさか! ルイと仲良くなっていくあの小僧にルイを取られたくないなんて、思ってもいませんから!!』
「そっかー。思ってないのかー」
『はい、思ってません! わかってもらえればいいのです』
……わかりやすい。
こうやって聞けばラウの考えてることが知れるのか……いい方法を知れたな。
というか、ラウってばツンデレのケがあったのね。可愛いところあるんだから。
『ルイ? 何をニヤニヤしてるんです?』
「え? 私ニヤニヤしてた?」
『はい、何かいいことでもありましたか?』
「……そうだね。あったよ」
わかりやすいのはお互い様か。
『なんですか? まさか! あの少年と何かあったんじゃないでしょうね? 破廉恥な何かが?!』
「そんなんじゃないってば!」
私とラウも街の中心に向かって行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。