第24話 次の街へ出発

 朝食をいただいた後、出発準備の前にネルと机を挟んで座る。

 今後の動きについて話をしてくれるらしい。


「これからウィンベルンに向かう」


「ウィンベルン……魔導大国の」


「ああ。魔法使いを仲間にしたい。勇者達をこちら側に連れ戻すためには幻術を解かないといけないってのは話したが、ルイはもちろん俺も幻術は専門外だ。そこで、ウィンベルンで専門家を探す」


「……なるほど」


 よかった。

 盗賊団のアジトに連れてかれることはなさそう。


 やっぱりネルには考えがあってこの道を選んでたんだ。


『その専門家とやら、当てはあるのですか?』


「ああ。ウィンベルンはリーカの出身地だ。リーカはそこで国一番の魔法使いとなり、勇者に選ばれたわけだが……。その国にはもう一人”天才”がいたそうだ。その天才はリーカに勝るとも劣らない実力の持ち主らしい。名前はフェルル」


「リーカさんと並ぶ天才……」


 フェルル……可愛い名前。女の子かな?


「理由は知らないが、今は表立った活動はしておらず、どこのギルドにも所属していないらしい。まずは、そいつを当たってみようと思う。

 ……ま、俺も面識があるわけじゃねえ。どうなるかは行ってみないとわかんねえな」


 なるほど。

 勇者を救うために、魔法使いを仲間にする、と。


 もしリーカさん並の戦力が加わってくれるなら、これほど心強いことはない!


 机に肘をつき「異論は?」と聞いてくるネル。

 私は「ないよ」と言うものの、ラウは『異論はありませんが、懸念があります』と返した。


『勇者と呼ばれる強者がかかるような幻術です。相当ハイレベルな術でしょう。そうしますと、当然解くのも同様に高いレベルが求められます』

「うん。だから、リーカさんと同等の力を持つフェルルさんを仲間にしようとしてるんでしょ?」

『ええ。ですが、勇者に選ばれる者に近しい実力を持つ者が、我々のような得体の知れない旅客に加わってくれるとは思えません。懸念とは、このことです』

「あー……確かに」


 ラウの言うことは一理ある、と言うか核心をついてる。


 でも、抜け目のないネルのことだ。

 何か考えがあるんだ、きっと。


 しかし、チラッとネルを見るも目は会わず、ネルは机に目を落としたまま話す。


「ああ……。それは、その通りだ。それに関していい作戦はない。精一杯頭を下げるくらいだな」


「ええ! まさかの精神論!」


「悪かったな。まあ、それに関してはここであれこれ考えるより、現地に行って情報を集めた方がいい。案外弱みかなんかを聞けるかも知れないしな。

 それに、一番の目的はお前をアリアンから離すことだ。いつまでもアリアンの領地内にいたら危険だからな。ルイ、お前自分が追われてる身だって自覚しろよ?」


「……はい。すみません」


「槍様もいいよな?」


『ええ。どちらにせよここから離れなければいけませんし』


「よし! じゃあウィンベルンに向けて出発だ」



 宿場から携帯食料と水を分けてもらい、宿場を後にする。

 私たちの見送りに宿場の人たちは全員で来てくれて、賑やかな出発となった。


 フカフカのベッドで熟睡して元気一杯の体に、みんなの応援で心も暖かくなる。


「ねえ、ネル。やっぱりここの人たちを助けられてよかったね」

「……ああ。一日使っちまったけどな。全員無事でよかったよ」

「うん。……でも、世界中にこうやって苦しんでいる人がたくさんいるんだよね」

「数え切れないくらいな」

「助けてあげたいな。少しでも多く」

『そのためにはもっと強くならないといけませんね』

「うん! これからもよろしくね、先生!」

『任せてください』

「ネルも! これからもよろしくね!」

「……ああ」


 ネルと並んで次の街へ向かった。

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