第4話 私の頼れる味方

 袋小路に連れ込まれて不意に襲われた私。


 逃げ出そうにも、唯一の通路にも敵が一人。

 簡単には逃げられなさそうだ。


 うう。

 このためにずっと前後で挟みながら歩いてきたのね……。


「さあ、覚悟はいいか! 一瞬で楽にしてやる!」

「それが嫌なら、素直にその槍を渡すこったな! そうすればちょっとだけは寿命が延びるかもなあ!」


 やっぱり……。

 目的はこの槍ね!


 お城の兵士の格好までして騙すなんて……。

 許せない!


 けど、こんなピンチ生まれて初めてで……。

 どうしたらいいかわかんないよお。


 すると、二人の男は言い争いを始める。


「おい、勝手なことを言うな! 王からは娘は殺せとの命令だぞ!」

「だってよお。こいつの容姿なら、買い手もつくだろうし。俺たちでも楽しめるじゃんか。王には殺したって言ってどっかに拉致っとけばバレねえって。要は槍が手に入ればいいんだろ?」

「まあ……そうだが……」


 二人の仲違いに乗じて逃げ出したいところだけど、退路はがっちり固められたままだ。


 どうしよう……。


『相当ピンチみたいですね、ルイ』


 心に声が届き一瞬驚くも、敵に悟られないように顔は平静を保つ。


『ラウ! 今までなんで何も言ってくれなかったの?!』

『すみません。こちらにも事情があって……』

『それよりも今大ピンチなの! どうしたらいいかな?!』


 私が今、必死に助け舟を求めている相手は握りしめている雷槍ラウニアだ。


 私は、武器と会話ができる。


 他の人には聞こえないみたいだけど、武器に意識を向けるとその武器が何を言ってるかわかるの。

 心に響く感じかな。


 他の武器の声も聞こえるから、よくお父さんの仕入れに付き合わされていた。


 そしてこの能力のおかげで、昔からラウとはおしゃべりをしてきた。

 伝説の武器の一つであるラウは物知りで、いろんなことを私に教えてくれたし、困った時は相談に乗ってくれた。


 そして今も、このピンチを切り抜けるアドバイスを求めている。


『そうですね。ルイの後ろにいる通路を塞ぐ男。こいつは下劣な輩のようですので、こっちから崩しましょう。いいですか、私の言う通りにするんですよ。ルイ』

『うん……わかった! 信じてるから、ラウ!』



「黙りこくっちゃってどうした? お嬢ちゃん。お祈りでもしてたのかな?」


「……本当ですか?」


「あん?」


「本当にこの槍さえ渡せば、私は助けてもらえるんですかあ?」


「っ! ……ああ、まあ自由の身とはいかねえがな。夜のお仕事でで忙しくなるだろうしな」


 退路を塞ぐ男はそう言うと「ケヘヘ」と下品に笑う。

 気持ち悪い……けど、今はラウを信じてやるしかない!


 気味悪さを押し殺して、後ろの男に振り返る。

 髪をくるくるといじりながら、上目遣いで。


 そして、猫なで声で、



「大丈夫ですぅ。大好きなの。わ・た・し」



 ううう、自分でやっておいてなんだけど、相当恥ずかしい!


 これで効果なかったら恨むから! ラウ!



「なんなら、今ここでシちゃう? わざわざ人通りないところ、選んでくれたんでしょお?」



 ああ、ラウ。

 こんな言い回し、どこで覚えたのよ!



「ねーえ。ど・う・す・る・の?」



 ああ、恥ずかしい恥ずかしい!


 もうダ——


「うおー! もうダメだ! もう我慢できーーーん!」



 うわわわ!


 通路を塞いでいた男がこっちに走ってきた!

 気持ち悪い声を上げながら!


『今です! 私をあの男に向けてこう言いなさい』


閃雷スタンボルト!!」


 するとラウの先端から黄色い光のようなものが男に向かってほとばしった!


「ギッ」


 光は男の体に触れるや否や全身に広がり、悪漢のごとく私に飛びかかってきた男の動きが止まった。


『ルイ、今です! 走って!』

「う、うん!」


 痺れているのか動けなくなっている男を避け、なんとか袋小路から通路に駆け込む。


『やった! ラウ、やったよ!』

『喜ぶのはまだ早いですよ』

『……え?』


「待てー!」


「わ! もう一人の人!」

『仲間を放って追ってくるとは、よっぽど切羽詰まっているんでしょう』

「冷静な分析ありがとうございます! けど、今はこの場を乗り切る方法を!」

『では、二つ目の角を曲がったところにあるハシゴを使って屋根に登ってください』

「うん! わかった!」


 まだ、ハシゴなんて見えないけど、ラウが言うんだから絶対ある!


 狭い一本道を精一杯走る!


 うう、普段運動なんてあまりしないから息が上がってきた。


 けど、もうすぐ二つ目の角を曲がり切る。

 頑張れ私!


 距離は縮められつつも、追いつかれずなんとか角を曲がり切ると、本当にハシゴのかかった建物があった!


「これね!」


 私はハシゴを掴み、ひょいひょいと登っていく。


「屋上についたよ!」

『見ればわかりますよ。それより次です。私をハシゴにつけてからこう言いなさい』


雷撃ショックボルト!!」


 またもラウの先端が光り、ハシゴをつたう電撃がハシゴを登っている最中の兵士を襲う。


「フギッ」


 男はハシゴから手を離し、ドサと地面に仰向けに落ちた。


「すごい……。ラウ、すごい!」


 ラウ、私がつれ歩かされてる時も周りをちゃんと見て、ここにハシゴがあることを知ってたんだ。

 そのハシゴが鉄製だっていうことも。


 電気は鉄をよく通すって言うもんね。


『すごいのはそうなんですけど、関心は後にしましょう。追っ手が来る前に姿を隠さなければ』

「え。お家は?」

『もちろんダメです。第一に追っ手が調べに来るでしょう』

「そんな……」

『ルイ……。辛いでしょうけどあなたの安全のためなの。厳しいことを言いますけど、許してください』

「……ううん、ラウは悪くないよ。行こう」


 ラウは厳しい時もあるけど、いつだって優しい。

 私の味方。


 正直、状況が飲み込めてないけど、ラウを信じて進むしかない。


 ハシゴで屋根から降りて、人気のない方へ歩いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る