第3話 勇者一行壊滅
『ドタドタドタ!!』
「……うーんむ」
いつもなら鳥のさえずりで目覚める優雅な朝。
だけど、今日は違った。
私を起こしたのは父が階段を駆け上がる音と、
『バン!!』
「おい! ルイ! 起きなさい!!」
勢いよく開かれたドアとそこから入ってきた父の声だった。
「んーーー。なーに? お父さん、どうしたの?」
寝起きで開ききらない目をこすりながら父が焦る理由を聞いてみると、
「お前以外の勇者達が全滅したそうだ!! 今、下にお城の遣いの方が来てる! 急いで支度して降りてきなさい!」
「……はひ?」
まさに寝耳に水。というか寝起き耳に水だ。
全滅、って。あの全滅?
全員滅亡?
……いやいやまさか。
あんな強そうで、経験豊富なみんなが、こんなあっさりと?
ありえない!
何かの間違いに決まってる!
話を聞くべく、最低限の支度をして一階に降りていくと玄関すぐのところに二人の兵士がいた。
二人とも、昨日お城で見た兵士と同じ格好をしている。
「ルイ様、朝早くに申し訳ない。ことは一刻を争うものでして」
「ご無礼をお許しください」
る、ルイ様……。
違和感しかない呼ばれ方だけど、今突っ込みたいのはそこじゃない!
「あの! カドニさん達がどうかしたんですか?!」
「ええ、実は……」
ゴクリ。
父の聞き間違いであれ……!
父の早とちりであれ……!
「カドニ様、リーカ様、ギランダル様が消息を絶たれまして」
「魔王の居城手前の要塞までは連絡があったのですが、最後の連絡が今朝の零時ごろ。偵察兵の調査でも、現在魔王居城周辺で戦闘が行われている様子も無く、おそらく……」
「そんな……!」
私の淡い希望があっさり霧散した。
「ですので、残された勇者であるルイ様だけが我々の希望なのです!」
「人類の運命は、あなた様に託されたも同然!」
「いやいやいやいや!」
待って待って待って!
重い! 重すぎる!
「そんな、私一人で無理です!」
「そう、おっしゃらずに!」
「我らが王も、すぐにルイ様に出撃しろとはおっしゃらないでしょう。ここは再び城まで来ていただけませんか? 王もこれからの話をしたいとお思いです」
「どうか、この通りです!」
「……う」
大の大人二人にこうも深く頭を下げられると、なかなか断りづらい……。
「わかりました。お話だけなら……」
「ありがとうございます! 我々が、お供いたします」
「あ、雷槍も一緒にお持ちください」
「わかりました」
自分の部屋に戻りラウを携えて、兵士さん二人について家を出る。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ。くれぐれも無茶はするなよ」
「もうお父さん、心配性だなあ。話をしてくるだけだから大丈夫だって」
「……ああ。行ってらっしゃい」
どこか悲しげな父に手を振り、家のドアを閉める。
全く、大袈裟なんだから。
私は兵士二人に挟まれるようにして、お城に向かった。
今は朝の五時前だったからかな。
まだ人通りが少ないな。
私だって、普通はこんな時間に出歩かないし。
けど、朝の静けさと涼しい風も、賑やかで活気のある街とは違っていいもんね。
昨日通ったお城への道も、まるで別の道みたいだもの。
……って、あれ?
おかしい。
「あの、お城って、この道じゃないんじゃあ?」
「この時間は正門が開いていないので、裏から入ります」
「あ、なるほど」
「チッ」
……チッ?
え、なに? 舌打ち?
……いや、まさかね。
あんなに礼儀正しかったお城に人が、仮にも勇者に向かって舌打ちなんてするはずがない。
鎧が擦れる音かなんかだ。うん。
なんとかそう自分に言い聞かせて兵士の後について行くも、その疑念は晴れるどころか益々増えて行く。
……やっぱりおかしい!
「あの、やっぱりおかしくないですか?」
「おかしくないですよ? さっきも言った通り、今はおもてが空いていな——」
「それにしたって、お城から離れるのは変じゃないですか? 裏から入るにしても、お城には近づかないと——」
「お城付近は入り組んでいるし、通行止の箇所も多くて、一旦遠回りしないとつけないんですよ」
「……そうなんですか?」
「そうなんです」
また言いくるめられてしまったけど、やっぱりおかしい。
「チッ」
ほら!
やっぱり舌打ちだ! これ!
「ここならいいか」
人気の無さそうな建物に囲まれた袋小路。
ここに足を踏み入れたところで、前を歩く兵士の足が止まる。
「あの……? 行き止まりみたいですけど……」
「ああ。お前の人生と一緒だな」
え? 何よ急に。物騒。
けれど冗談でもなんでもないようで、前後の兵士二人が剣を抜きこちらに刃を向ける。
「その槍はいただく!!」
「とっとと召されろや!!」
「はい?」
……もしかして、ピンチ?
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