第2話 勇者達とお茶会

「俺はカドニ。長いこと冒険者をやってる! ”反双刃はんそうじんデオ=ダルフ”に選ばれた男だ! みんな、よろしくな!」


「私はリーカ。ギルド『風麗魔導』のリーダーよ。”翠天子杖すいてんこじゃく”が選んでくれたの。よろしく」


「我はギランダル。祖国カルボラにて国防隊の隊長を務めている。選ばれた武器は”大地斧ドーヴァン”だ」


「わ、わ、私は……」


 私は今、有名人に囲まれて木造りの喫茶店でお茶している。


 なんでも”勇者一行親睦会”らしい。


 私、本当に勇者一行でいいの?


 他の人たちは私でも名前を聞いたことがあるほどに名の通った実力者ばかり。

 ……顔を見るのは初めてだけど。


 それに引き換え私は……。


「ルイって言います。しがない武器商人です。この”雷槍”が選んでくれました」


 一応自己紹介をしてみるも、やっぱり私浮いてるよ。完全に。


「じゃあこれで自己紹介は一巡したな!」とカドニさんが言うと、リーカさんが「と言っても、ルイちゃん以外は顔見知りだけどね」と言い、ギランダルさんもそれに頷く。


 やっぱり。

 有名人同士、知り合いなんだ。


 やっぱり私、ここにいちゃいけないんじゃ……。


「じゃあ、ルイについて聞かせてもらおうか! 始めてみるし、かなり若いよな? 一体どんな実績があるんだ?」


「あ! 私も聞きたい! 大昔には太った武器商人も魔王討伐パーティーにいたって聞いたことあるわ!」


 カドニさん、リーカさん。そんなに目を輝かせないでください。

 実績なんて何もないんですから……。

 ああ、ギランダルさんも、そんな頷いて……。


 何にもないなんて言ったらがっかりされるかもしれないけど、このまま黙ってるわけにもいかないよね……。


 言葉が出やすくなるかと思い、カップに注がれたお茶を一口飲み喉に水分を与える。


「その……。非常に言いづらいんですが、私、本当にただの武器屋の娘でして……。戦闘とか全然です」


 恐る恐る三人の顔を除くと、案の定みなさん固まっていた。


 ですよねー……。

 まさか勇者のパーティーに戦闘経験ゼロのずぶの素人が入るとは思いませんよねー……。


 私も言葉を失って四人が沈黙する空間になってしまう。


 そんな沈黙を破ったのは、カドニさん。


「……けどよ! お前も伝説の装備に選ばれたんだ! 何かあるんじゃねえか? 実は祖先が勇者だったとか、実は別の星からきた異星人で昔の記憶を無くしてるとかよ!」


 カドニさん。必死のフォロー、非常にありがたいです。

 けど、全く身に覚えがありません。ごめんなさい。


「……多分、ないと思います」


 私が申し訳なく否定すると、「そっか……」とカドニさんの声が萎んでしまった。


「では、どうする? そんな素人を旅には連れていけないぞ。この子どころか我々も危険となる」


「そうね……。少なくともいきなり戦闘させるわけにはいかないけど。町の外に出たら戦闘なんていつ起きてもおかしくないものね……」


 みなさん、私の扱いに頭を悩ませてる……。

 恐縮です……。


 三人がうーんと頭をひねった後、再びカドニさんが切り出す。


「悩んででも仕方がねえな。魔王討伐のパーティーは俺たち四人に決まったんだ! それに、ここで頭を悩ませててもルイの戦闘力が上がるわけでもない。まずは行動しようぜ!」


「具体的にはどうする?」


「まず、俺とリーカとギランダルの三人で魔王の復活具合を偵察に行こう。アタッカーとタンクと魔法使いがいるんだ、それなりに進めるだろう。その間、ルイには基本的な訓練を受けてもらおう。基礎知識もなしじゃあ、俺らも大変だし、ルイも気苦労になるだろうからな」


「敵勢把握と戦力の底上げ、か。悪くはないな」


 カドニさんとギランダルさんが今後の話し合いをしている。

 リーカさんは、うつむく私に「気にやむことはないわよ。一緒に頑張りましょうね」と励ましてくれた。頼りになるお兄様とおじさまに、優しいお姉さま……。



「じゃあ、決まりな! ギランダルとリーカは半日で支度を整えてくれ。今日の夜出発する。ルカは家で休んでな。明日の朝、訓練所の使いを家に行かせるから、そいつに従ってくれ」


「……はい」


 ……すごいな。

 一流の人たちは、半日後に出発できるんだ。


 私なんて、まだ気持ちが全く追いついてない。

 明日の朝にだって、できているかわからないよ。


「じゃ! みんなで魔王をぶっ倒して、平和な日々を取り戻そうぜ! 一旦解散!」


 お店を出た私たち四人は、それぞれ別の方向へ歩いて行った。

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