槍とルイ〜伝説の武器の力を借りて箱入り娘は旅に出る
相田誠
第1話 勇者一行に選ばれてしまいました
「ではこれより、古の儀礼に従って魔王討伐の勇者一行の選考を開始する。まずは、この”反双刃デオ=ダルフ”の適合者選定より始める」
大理石でできた真っ白な大広間。
護衛を両脇に抱えた王様の前には、横に長い台座の上に並べられた四つの”伝説の武器”。
そして王様とその台座を挟むように、世界中より集められた猛者達が横一列に並んでいる。
名のある冒険者、名門流派の使い手、どこかの国の騎士団長、大魔導士の子孫、大海賊団の頭、百戦錬磨の傭兵。他にもたくさん。
ざっと三十人ほどかな? とにかく有名な人ばかりらしい。
「では、”反双刃”の使い手は開拓者カドニとする!」
あ、一つ目が終わったみたい。
王様の宣言に、カドニと呼ばれた青年はウンウンと満足そうに頷き、その他の人たちは悔しそうにしている。
あ、そういう私?
私はそんな有名であるとか、すごい力や魔法を持っているとか、そういうのは全くない。
私はしがない武器商人。
の娘。
私の家は代々武具屋を営んできたんだけど。
我が家に伝わる家宝が”伝説の武器”の一つだと分かったのでこの選考会に運んできて、そのまま見学中。
だから、
この選考会は、復活した魔王を倒すべく世界中の精鋭を、さらに絞り込むんだそう。
何でも、三百年前の魔王封印の際に活躍した武器を集めて、その武器自身に使用者を決めさせるんだとか。
武器にどうやって決めさせるのか? そこは、大昔から伝わる儀式があるらしい。
現に、今私の眼の前でも次々に武器が宙を舞い、主と認めた人の前へ飛んで行っている。
その結果に歓喜する者と、失望する者。
残る武器は、あと一つ。
「では最後に、”雷槍ラウニア”の適合者選定より始める」
あれが我が家に伝わる宝。
”ラウ”だ。
王様の合図に従い雷槍が宙に浮かぶと、私の後ろにいた父が私の方にポンと手を置く。
「いよいよ、うちの武器だな。いや、まさか我が家の家宝が伝説の武器の一つだったなんてなあ」
「……そうだね、びっくりだね」
「魔王討伐のお役に立てるなんて、こんな光栄なことはないぞー。これで、我が家も安泰ってもんだ」
「……うん、良かった良かった」
「……ルイ、お前があの槍と仲が良かったのは知ってる。離れ離れになるのは寂しいだろうけど、人類のためだ。許してくれ。な?」
「わかってるよ。だから
「そうだったな。ありがとう」
話は終わりと言わんばかりに、私の頭が大きな手でわしゃわしゃと撫でられる。
そう。
あの槍は私にとってただの槍なんかじゃない。
友達以上の、家族のような存在だ。
だから、うちの家宝が伝説の武器ってわかって召集されると知った時は本当に嫌だった。
私の方がずっと先にこの槍の名前を知っていたんだから!
けど。
さっきお父さんも言ってたけど、これは人類の存亡をかけた戦い。
私一人のわがままで邪魔をしていいようなことじゃないんだ。
だから、ラウがどんな人をパートナーに選ぶのか。
せめてそれだけは見届けたくて、この場にいる。
宙に浮かぶラウ。
これからも元気でね。
さあ、新しい持ち主を選んで。
王様が「さあ、次なる使い手を選びたまえ!」と叫ぶと、雷槍はヒュンと飛び出した。
その行き先に誰もが驚くこととなる。
「……え、私?」
ラウが止まった。
私と向かい合うようにして。
「私、でいいの?」
そう確認するように問いかけるも、ラウはその場に留まる。
驚きと嬉しさが入り混じり、引きつったような笑顔を浮かべる私。
『ザワザワザワ』
当然、会場はざわめきで埋め尽くされる。
「どうなってんだ!」
「あの小娘が選ばれたってのか?」
「何者なんだ?!」
「何で我々以外から選ばれるんだ!」
「ふざけるな!」
うわ!
ものすごい怒気を向けられてる!
王様すら「どういうことじゃ」と慌てふためく始末。
こっちが聞きたいくらいじゃ!
会場はもう暴動寸前。
血相変えたいかつい人たちがこっちに詰め寄ってくる。
ううう、めちゃくちゃ怖い!
父さんが私の前に立って庇ってくれるも、ここに集まってるのは強者ばかり。
父さんじゃどうにもならないよ! でもありがとう!
現状を理解できず、完全にパニックに陥る私。
このままボコボコにされて、無理やりラウを持っていかれるのかな。
でも、私なんかにはどうすることもできないよ。
雷槍をぎゅっと握りしめるだけで、その場に立ち尽くす。
ううう、誰か助けてーーー!
興奮した猛者達が近づき、残り四、五メートルくらいになったとき。
何人かがサッと間に入る。
「おいおい、いい大人が負け惜しみかよ」
「恥を知りなさい」
「このような品位のない行動が、選ばれなかった所以と私は思うがね」
この人たち……。
伝説の武器に選ばれた人たちだ!
すでに伝説の武器を携えた三人の放つオーラは凄まじく、私に詰め寄る足は止まり、皆踵を返して離れていった。
「あ、あの! ありがとうございました!」
私が深々と頭を下げると、選ばれた三人は私を囲うように近づいてきた。
「お前が最後のパーティーメンバーかー。よろしくなー!」
「あら、可愛い。私の若い頃にそっくりね。今も若いけど」
「初めて見る顔だな。名前は何と?」
「え、あ、あ、あの! 名前はルイ! です!」
超有名人に囲まれて、ど緊張で口が回らない。
「緊張すんなって! 俺たちは魔王を倒す仲間なんだからな!」
「そうよ。気を楽にしてね」
「あ、はい……」
どうやら、勇者一行に加えられてしまったみたい。
本当にいいの?!
しかし、さっきまで慌てていた王様も「歴史ある儀式を信じよう」と言って、この選考に幕を下ろしてしまう。
本当に本当に?!
……いやあ。
まさか、しがない武器屋の娘の私が魔王を倒すことになるなんて……。
って、いやいやいや!
そんな風にならないから!
絶対無理!!!
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