第15話 陽動作戦

 ネルに跨り荒野に入った私たち。


 犬化したネルが誘拐犯の匂いを頼りにへ駆け、私はその上で向かってくるモンスターを撃退していた。


「見えた! あそこだ!」


 周りへの警戒を解きネルの見ている方を見ると、岩をドーム状に積み上げた建物?のようなものが見えた。


 その入り口に人のようなシルエットが見える。


「あれは……って、わっ!!」


 ネルが急に方向転換をしたので、視界がブレて人型の影の正体は分からなかった。

 それに、舌を噛みそうで危なかった……。


「曲がるなら曲がるって言ってよ!」


 ネルは悪びれもなく「すまんすまん」と言いながらスピードを落とし、近くにあった大岩に身を隠した。



「あの粗末な砦が見えるか? あそこから匂いを強く感じる。どうやら宿場の人を攫ったのは魔人みたいだな」


「ま、魔人……」


『魔人とは魔物モンスターの中で、人型をした種類の総称です。基本的に魔王の直轄であり知能も高いので注意が必要ですよ』


 ……らしい。


 私も見るのは初めて。

 きっと、さっき建物の前に立っていた人型の影がそうなんだ。


 ここまでの道中で魔物には多少慣れてきたのに、また新しい敵か……。


 数多のモンスター退治による疲労と新たな敵というプレッシャー。

 額から滴り落ちる汗を、袖で何度も拭う。


『ルイ、大丈夫ですか? 結構な数のモンスターを倒しましたけど、疲れてないですか?』


 正直、結構キてる。

 けど、助けを必要としている人を目の前にして、へこたれてるわけにはいかない!


『ありがと、ラウ。私は大丈夫! それよりも早く助けに行こう!』


「ああ。さっさと済ませよう」



 ラウ先生監修の元、大岩の裏にてネルによる作戦会議が開かれた。



「付近に他の建物がないことから高確率で攫われた人たちはあそこにいる。そして周辺には目立った高台も作られた物見櫓もないことから監視は入り口の魔人一体だけ」


 人間に戻ったネルが地面に小石で絵を書きながら説明してくれる。


 ……けど、すぐには話に集中できない。


「……ワンちゃんの方がカッコよかったな」


「言ってろ。今だって十分かっこいいだろ」


「……え?」


「……なんてな」


「……今の何?」

『彼なりのボケですよ。笑って差し上げなさい、ルイ』

「……あ、そっか。……はは、ハハハ。うん! 今もかっこいいよ!」


「くっ、もういい!」


 ネルは顔を少し赤くしながら持っている小石で地面をコンコンと叩く。


「そもそも、お前がこっちに集中しないのが悪い」


「はい、すみません。続き、お願いします」


「ったく……。でだ、人間が助けに来られたと奴らに悟られるのは避けたい。逆上して攫った人間を殺しかねないからな。よって隠密行動が望ましい。そこで……だ」


 そこまで言うとネルは近くにある黒い小石を手に取り、地面に書いた建物の絵の横に置いた。


「陽動をする。俺が建物の外で騒ぎ散らすから、その隙にルイは建物内に潜入、攫われた人を救出してくれ」


「えっ! 私が中に入るの?! そんなことやったことないし! ネルの方がいいんじゃないの? 私が外で囮をするから……」


「いやだめだ。さっきも言ったろ? 人間が助けに来たってバレるのはまずいんだ」


「そんなのネルだって一緒なんじゃ……あ」


 そこまで言って私も気がつく。


 額当てと腰の刀を外した後、再びネルは私の目の前で大きな犬に変身した。


「この姿で陽動をする。心伝石は持って行かなきゃならないからカバンは外せないけど、しばらくは人間だなんてバレないだろう。この姿で暴れた魔物のフリをして見張りを仕留めれば、芋づる式に中から魔人も出てくるだろう」


 はぁ〜なるほど。

 よく考えてるなあ。


「ただ、全員を建物内から引き出すのは難しいだろう。あくまで、ルイには潜入をしてもらう。慎重に行動するんだ。いいな?」


 コクリと黙って首を縦に振る。


 ネルは前足を使って地面に書いた絵をザッザッと消しながら「槍様、異論はあるか?」と尋ねる、ラウは『いいえ』と答える。


 それを聞いてネルは一人……一匹、走り去った。


「こうしてみると、本当に犬みたいね」

『いいんですよ? また抱きついてみても』

「もうしないってば! いいから私たちも移動するよ!」



 身を隠せそうな岩から岩へ。

 周りを警戒しながら砦に向かう。



『ルイ。こちらネルだ準備はいいか?』


『……うん、いいよ』


『よし、じゃあ作戦開始だ』


 ……初めて心伝石を使ったけど、こんな感じなんだ。

 心の中でラウと話をするのと似た感じ。


 そんなことを考えていると、黒い影が見張りの魔人に向かって蛇行しながら近づいていった。


 口を大きく開けて涎を垂らしながら走ってくる犬は、きっとネルなのだろう。


 遠くから見ても獰猛さがピリピリと伝わってくる。

 さっきまで私が乗っていたワンちゃんとはまるで別物。


 急に現れた暴れん坊に見張りも戦闘態勢をとるも、それをあざ笑うかのようにネルは見張りに爪撃を一発入れた後再び蛇行しながら距離をとった。


 きっと、仕留めようと思えばできるんだろうけど、中から増援を呼ばせるためにわざと生かしてるんだ。


 その作戦通り、見張りが建物内に一度姿を消した後、剣や槍などの武器を持った増援を連れて出てきた。


 その数合計六体。


 ネルを追って砦から離れていく。



 ——今だ!



 私は砦の入り口に向かって走り込んだ。

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