第22話 優しくなった?

 近くの岩場の作る日陰に身を寄せ合う私たち。

 リーカさんが去った後、私たちは今後の動きについて話し合っていた。


「それで、この後はどうする? リーカさんがどこに向かったかがわかればいいんだけど……」


『わからないでしょうね。わかったとしても、今追うのは得策ではありません』


「ああ、そうだな」


「……どうして? さっきは諦めるなって言ってくれたじゃない」


「あれは……ほとんど虚勢だ」


「えっ?! そうなの?!」


「悪かったな。ああでも言わないとお前が泣き出しそうだったから」


「ラウも?!」


『……ノーコメントです』


「そんな!」


「勇者に選ばれるような魔法使いプラス伝説の武器だぞ! ……戦力差は歴然だった」


「……じゃあ、なんでネルは戦ってくれたの? リーカさんの狙いは私だったんだから逃げれば助かったのに」


 そう、それがずっと引っかかってる。


 初めて会った時は賞金稼ぎだから賞金首が寄ってくると都合がいい——だなんて言ってたのに、再三私が見つからないように進む選択を提言してくれる。

 事あるごとに、私がアリアンに見つからないように動いてくれる。


 これって矛盾してるよね。


 さっきの戦いもそう。

 ネルにはなんのメリットもないのよ。


 ネルには、他の目的があるんじゃないかな……。

 そう思えてならない。



「……そんなことより、今後の話をしようぜ! いつまでも過去のことを言ってるとモテねえぞ」


「余計なお世話よ!」



 けど、その答えは聞けず。

 ネルには明るい口調で誤魔化されちゃう。


 答えを催促しようと思えばできるけど、いつか話してくれる……そんな気がして。

 これ以上深掘りするのはやめておく。


「……じゃあ、どうする? 予定通り、ネルの目指す場所に向かう?」


「いや、今日はこれ以上進むのはやめる」


 あれ、即答で否定された。

 初めはせっつかれてたのに。


「急がなくていいの?」


「ああ、今日は色々あり過ぎた。お前も疲れただろう、後はゆっくり休もう」


「あれ? ネル、なんか優しくなった?」


「は、はあ? 俺は最初っから優しいだろうが」


『ルイに惚れたんでしょう。これが思春期男性の変わり身の早さです。覚えておきなさ、そして気をつけなさい、ルイ』


「え〜! 怖〜い!」


「お前らなあ!!」


 ネルの提案通り、近くの休める場所で今日は体を休めることにした。




 と、言っても、近くの休めるところなんて、ここしか思いつかず。


 先ほどの宿場に戻ってきていた。



「ああ! 兄ちゃん達! どうしたんだ!」


「あの、やっぱりここで一晩お世話になってもいいですか?」


「もちろんだとも! おーいみんなー! が戻ってきたぞー!」


 そういえば、そんな風に名乗ってたね……。


 見張りをしていたハンターさんがいち早く私たちに気づいてくれて、すぐに大勢が集目てくれた。


「よく戻ってこられた! ろくなお礼もできておらず、気を揉んでいたところじゃった」


「すみません、せわしなく出て行ってしまって。それで、ですね……申し訳ないんですけど、やっぱり今日はここまでにすることにしまして……。一晩泊めていただけないでしょうか?」


「もちろんじゃよ! 最大級のおもてなしをさせていただきますじゃ! ささ、どうぞこちらに」


 快く迎えていただいた私たちは、リーダーさんの案内で大きくて綺麗な部屋に通された。


「後ほど、お食事をお持ちいたしますので、今しばらくお待ちくだされ。それでは、ごゆるりと」


 そう言って、部屋を出ていくリーダーさん。


 ドアが閉まった瞬間に、私たちはそれぞれベッドに飛び込んだ。


「あ〜〜〜、疲れたよ〜〜〜」

『お疲れ様でした』


「今日は本当に色々会ったからな。ゆっくり休むといい」


「うん、そうする〜〜〜」


「俺も少し休ませてもらう、飯ができたら起こしてくれ」


「うん、わかった」


 ……って、ん?


「どうしてあんたと同じ部屋なのよ?!」


「……スウスウ」


「って、もう寝てるし……」


『ルイ! 今すぐ部屋をもう一つとってもらいなさい! こんな会って日も経たない異性と同じ部屋だなんて……破廉恥極まりないです! 破廉恥です!!』

「ラ、ラウ。ちょっと落ち着いてよ」

『これが落ち着いていられますか! 私の大事なルイが襲われるかもしれないんですよ……こんな小僧に……。破廉恥です!』

「落ち着いてってば! ネルはそんなやつじゃないよ」

『ルイは知らないのです! この歳の男なんてのは、みんな狼なんです! 心の中に欲望という獣を飼っているんですよ!』

「じゃあ、変身できるネルは身も心も狼さんだね」

『そこ! 笑うところじゃありませんよ!!』


 ラウとこんなやりとりができるのも、久しぶりだ。


 今日は本当にいろんなことがあり過ぎた。

 いや、昨日からね。



 昨日の朝にアリアンの兵士に襲われて、

 夜まで汚い廃屋に引きこもったのが始まりね。

 その後、深夜から朝方にかけてイリナの街まで一人旅。

 初めてのモンスターとの戦闘は大変だった。


 今朝にやっとイリナに着いて宿屋に泊まった。あそこのおじさんはいい人だったな。

 でも、そこでもアリアンの追っ手に襲われて、それでネルに会ったのよね。


 すぐにイリナの街を出て、何処かは知らないけどネルに付いていくことになっったんだけど、

 途中でこの宿場の異変に気がついて、攫われた人を助けに砦へ向かった。

 道中で、だいぶモンスター退治には慣れたかな。


 そして砦に潜入してみんなを助けて、

 ここまで送り届けた後に、魔人が何をしようとしていたか調べにまーた砦に戻った。

 そこでネルの非常な一面を見て、

 外に出たらリーカさんに襲われて……。


 やっと、今に至る。


 いや、二日の間に色々あり過ぎでしょ!

 これまでの穏やかな毎日とは比べものにならない密度ね……。


 けど、こんなに大変なことがたくさんあったのにこうしてフカフカのベッドまでたどり着けたのは、ラウとネルのおかげね。


 ラウは言うまでもないけど。

 ネルも最初はそっけない感じがしたけど、なんかすっかり優しくなっちゃって。


 だいぶ信頼できるようになってきた。


 いつか、ネルの本当の目的が知れたらいいんだけどな……。


 あ、そうだ。

 そういえば、ネルが私を連れて行こうとしていた場所、結局どこだったんだろう。


 今聞くのは……ぐっすり寝てるのを起こすのは悪いよね。

 明日聞いてもいいんだけど。


 そこで、この宿場がネルの目的地の途中にあったことを思い出す。


 ……この先に何があるか、ここの人たちなら知ってるかな?


 私は一人部屋を出て、宿場の人に話を聞きにいった。


『部屋をもう一つ用意してもらうのですよ! 聞いているのですか?!!』


 ……ラウの言葉は聞き流して。

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