第28話 世界中の人を

『お茶をお持ちしました』


「……ありがと」


 テツがお茶の入ったカップをソーサラーに乗せ、私の前に出してくれる。

 その動きもとても滑らかで、とても人形とは思えない動きだ。


『フェルル、他に何かありましたらご用命ください。』


「……ダイが買い物から戻らないらしいの。探してきてくれる?」


『はい、それでは行って参ります』


 私がネルと心伝石で会話をしている間、フェルルはテツとそんなやりとりをしていた。



 ……さっきのネルの様子、尋常じゃない感じだった。

 もしかしたらネルの身に何かあったのかもしれない。


 ……いや。

 そんな不安も膨らむけど、ネルに”説得してくれ”って言われた以上私はこっちの話をまとめないと!


 必ず戻ってくるって行ってたんだ。

 絶対戻ってくる。


 私は、ネルを信じることにしたんだから。



「あの、フェルル聞いていい?」と私が聞くと、お茶を啜っていたフェルルは「いいよ、何?」と返してくれる。


「フェルルってさ……リーカさんと並ぶほどの魔法使いなの?」


 お茶を飲んでいたフェルルの手が止まる。


「……リーカ姉」


「え? 今なんて言ったの?」


「……リーカは私の姉。確かに、私は少し前までリーカ姉と同じギルドに入っていた。その頃は確かに”ウィンベルンが誇る二大魔術師”だとか言われてた」


「リーカさんの妹さんだったんだ……」


 リーカさんは明るくて自分の感情を表に出すタイプだったけど、フェルルはそれとは逆な感じだし、思いもしなかった。


「……けどそれは昔の話。今は魔力のない人達のための活動ばかりしてるから、国からも呆れて見放された。今はただの魔導具技師」


「フェルルはどうしてギルドを抜けてこの施設を作ろうと思ったの?」


「……ギルドがランクアップして、私もその中で上の立場になった。そうなればなるほど国から重要な依頼を受けるようになるんだけど、その時知ったの。この国のおかしな方針を」


「……魔力がないものは無価値」


「そんなの絶対におかしい! 魔力の優劣で人間の価値が決まるわけない。私は、魔力がない人に助けられたことがある、何度も! 魔力がない人でも素晴らしい人がいることを身を以て体験してきた」


「私もそう思うよ」


「……ありがと、ルイはやっばりいい人。けど、ここの国の連中は違う。”お前ほどの魔力と才能がありながら、それを魔力がない人間に費やすなんてありえない”って、散々言われた」


「ひどいね」


「……けど、誰から何を言われようと関係ない。魔力がなくても楽しく便利に暮らせるようにしたい……そう思ってこの施設を作った」


「ひょっとして魔導具を作ってるのって……」


「魔力がない人でも便利に暮らせるようにするため。私にできることはそれくらい」


「フェルル、やっぱりあなたすごいよ」


「……そんなことない」


 フェルル、なんて立派な生き方なの。

 私なんか、これまでのうのうと親に守られて生きてきただけ。


 フェルルは違う。他人のために生きている。


 同じくらいの歳だろうに。私とは全然違うんだ……。



「……今度は私の番。ルイのこと聞かせて」


「え、私の?」


「うん。ルイはどうして旅をしてるの?」


「私は……助けたい人がいて。その為の旅をしてるの」


「助けたい人……? 誰?」


「笑われるかもしれないけど……世界中の人を」


「世界中の……すごい」


「……笑わないの?」


「笑う? どうして? ルイの顔は本気、人の本気は笑わない」


「……ありがと。フェルルもいい人だよ」


 私はお茶を飲み一息入れて続ける。


「それで、フェルルの力を貸して欲しいの」


「え? 私の?」


「うん。世界中の人を助けるために、魔人に囚われた勇者たちを助けたいの。そのためには勇者にかけられた幻術を解かないといけないらしくて」


「……私にその幻術を解いて欲しいの?」


「うん」


 次にフェルルもお茶を一口含む。


「……一つ聞かせて」


「うん、なあに?」


「ルイの言う”世界中の人”の中に、ここの子供達は入ってる?」


「もちろん」


「……そっか」


 ティーカップを持ったまま少し考え込むフェルル。


「……いいよ。ついてく」


「……いいの?」


「うん」


 私は椅子から勢いよく立ち上がり、フェルルの両手を手に取る。


「ありがとう! 本当にありがとう!」


「……もう一つ言わせて」


「え? うん、次はなあに?」


「ルイも十分すごい。胸を張って」


「……ありがと」


 私たちの旅に、新たな仲間が加わった。

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