第39話 遺跡の中のミノ爺
遺跡の中はひんやりとしていて、少し肌寒いほどだった。
規則的に一定間隔で壁に掛けられた松明が唯一の明かりとなっており、窓のない狭い通路でも明るさには困らない。
通路を進むと、やがて大きな広間に出た。
広場の中央には大きな焚火台の中で黄色い炎が燃え盛っていて、部屋の隅々まで光を届けている。
「ネル、見て。壁に絵が……」
「ああ。壁画だな、俺も見るのは初めてだ」
壁には様々な絵が描かれているが、壁画はどれも抽象的で、私にはさっぱり意味がわからなかった。
「これ、何が書いてあるかわかる?」
「さあ? 俺も全くわからん」
「ラウはどう?」
『……聞こえる』
「え? どうしたの、ラウ? ……ラウ?!」
ラウを呼ぶ私の声が広間に響きわたる。
「誰じゃ!」
すると、私たちが通ってきた通路と反対側の通路から腰の曲がったおじいさんが出てきた。
「貴様ら、何者じゃ! 賊か?!」
「いえ違います! 私は!」
「おい! 俺だってもう違うぞ! 人聞きの悪いこと言うなよ!」
「何をごちゃごちゃ言うておる! さっさと出て行かんとバチが当たるぞ!」
「え、バチって、一体どんなですか?」
「聞いて驚くでないぞ。始めは気分が悪くなるだけじゃが、だんだんそれが頭痛・関節痛と酷くなり、次第に内臓が腐る。最後は目ん玉飛び出してお陀仏じゃ」
「うう……思ったよりぐろかった。聞くんじゃなかった」
「ほおれ! 早速気分が悪くなってきたじゃろう! さあ早く出て行け! 心悪しきものはこの聖火の前では無力なのじゃよ!!」
「……聖火? この火が?」
「そーじゃ! 心悪しきものはこの聖火に近付くことも出来んのじゃ! さあさっさと出てけ! 目ん玉ぶちまけられても掃除するのはワシなんじゃからな。年寄りに苦労をかけてはいかんぞ」
「確かにそうね……。ねえネル、早く出よう!」
「待った。
おい爺さん、年寄りを労って出て行こうとする
「……そう言われるとそうじゃのう。今の脅し文句は撤回する。えーっと、ならどうするかのう……。
そうじゃ! 目ん玉見るのがワシは趣味なんじゃ! だから早くここで目ん玉ぶちまけて死ね!」
「……それじゃ、おじいさんが心悪しくなっちゃうけど」
「ああもう、難しいのう」
「おい爺さん。爺さんの話が本当なら、聖火に近づいてこれだけの時間平気ってことは、俺たちは”心悪しきもの”じゃないってことじゃないか?」
「それはそうじゃな。なんじゃお前ら、乳繰り合う場所を求めて流れ着いた不純カップルじゃないんかい」
「違います!!」
「そうかそうか、すまんのお。ここの聖火は由緒あるものでな、付近に住む魔物やそれなりの情報網を持つ悪党はそもそももう近寄ることがないんじゃ。たまに入り込む輩といえば思慮の足らんアホどもばかりで困っておってな。いや、これは失礼した」
ようやくおじいさんの荒ぶりが収まり、前のめりの声の張り合いも終わる。
「ワシはこの遺跡の守人じゃ、名前はミノト。ミノ爺と呼んでくれ。それで、お前さんたちは?」
「私はルイで、こっちはネル。私たちここが伝説の武器が発見された場所って聞いてきたんですけど……」
「ほほお! こんな若者がその話を聞きにきたのか! いやあ感心感心! 若いのに大したもんじゃ! こっちへ来い! 隅々まで案内してやろう!」
「え、あ、ちょ! ミノ爺さん?!」
「このジジイ、なんて力だ!」
「さ、こっちじゃこっちじゃ!」
私とネルはミノ爺に腕を引っ張られて(無理やり)部屋の奥の通路へ案内された。
「ここが、千年前に伝説の武器が発見された場所じゃ」
さっきの広間よりも数段狭い部屋、そこに祭壇のような台がいくつも並べられていた。
壁には壁画ではなく彫刻で覆われていて、壁一面がお花畑のようになっていた。
色こそついてはいないが、本当に綺麗。
「素敵……」
「そうじゃろうそうじゃろう! ここで発見された武器は全部で八つ。そのうち名前がわかっているのは七つじゃが、ほれ、台座に名前が刻まれておるじゃろう?」
ミノ爺に言われて顔を台座に近づけると、ほとんどかすれてしまっているが確かに文字が刻まれていた。
「えっと……デ……オン? かな?」
「あっておるぞ。左から順に、”デオン”、”ダルファン”、”ジャンスローテ”、”ラウニア”、”アルケーノ”、”ドーヴァン”、”フルル”、最後は未確認じゃ」
ミノ爺はスラスラと名前を並べていく。
そして、その中にはいくつか聞き覚えのある名前が。
「ラウニア、ドーヴァンは今世の勇者が装備している武器だな。世の中にも広く知られている」
「うん、けど、デオ=ダルフと
私とネルが話していると、訝しげな表情でミノ爺が割って入ってきた。
「なんじゃ? その、”出る豆腐”に”炊飯小僧”とは」
「デオ=ダルフと
「ああ、そんな名前は聞いたことがない。そいつら、伝説の武器を語る紛い物なんじゃないかのお」
「いや、それはない。……いや、そうは言い切れないか。少なくとも、どちらもラウニアやドーヴァンと同じくらいの力を秘めているっていうのはわかってるんだ」
「ふーむ、一体どういうことじゃ?」
私たちが頭を傾げていると、久しぶりにラウが言葉を発する。
『ルイ、お願いがあります』
『あ、ラウ。大丈夫なの?』
『はい。それより、私をあの台座の上に置いてくれませんか?』
『え、うん、わかった。ちょっと聞いてみるね』
「あの、ミノ爺? お願いがあるんだけど……」
「なんじゃ! 今は考え事しておる……って、その槍は、まさか!」
「うん、雷槍ラウニア。この槍を台座に置いてみてもいい?」
「あ、ああ。構わんが……なにゆえそんなことを?」
「私にはわからないけど、ラウがそうしてっていうから」
「なんと! ラウニアと心を通わせておるのか!」
「うん。だから、いい?」
「ああもちろん! その槍がそうしたいと言っているならそうしてあげておくれ」
「ありがとう」
ミノ爺の前を通って、ラウニアと書かれた台座の上にラウをゆっくりと置く。
『これでいい? ラウ?』
『……聞こえる』
『ラウ?』
『……』
ラウからの返事がなくなったと思ったら台座から太陽よりも眩しそうな光がラウから放たれる!
「きゃ! なに?!」
——何も見えない。
「ネル?! ミノ爺?!」
————二人に呼びかけるも返事はない。
「……ラウ……」
——————その光に包まれて、私はゆっくりと意識が遠くなっていった。
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