第4話 浮気男と呼ばれた日

「それで、冷嬢とは付き合ってるのか?」


 いきなりド直球で聞かれた。

 どうやらお昼ご飯に誘って来たのはそれが理由らしい。

 まぁ、これぐらは裏があるってほどでもないけれど。

 ゴシップとはそういうものだろう。


 よく見ると、ご飯を食べてる人もスマホを見てる人も友達同士で仲良く会話をしている人もこっそり僕の方に聞き耳をたてていた。


 ちなみに、僕の周りには咲斗だけでなく、茶髪だけど、基本的には清楚キャラな水瀬雪(みなせゆき)と綺麗な白髪で、ちょっとチャラい系の小森結(こもりゆい)という女子もいた。


 どうやら咲斗の幼馴染らしく、いつもこのメンバーでお昼ご飯を食べていたらしい。

 幼馴染と学校でイチャイチャというのが羨ましく思えてくる。


「咲斗、お茶」

「咲斗ー。ハンバーグ貰うねー」


 ただ、いいように使われているだけにも見える……けれど置いておこう。

 うん。

 今はそれが賢明だと思う。


「それで、どうなんだ?」


 お茶を自販機で買い終えた咲斗はもう一度同じ質問をする。

 息が切れているのは走ってきたからであろうか。


「多分……付き合ってる? 付き合ってる……みたいな関係?」


 一瞬クラス内がザワつく。

 いや、一瞬じゃなかった。

 号泣するものも入れば、這いずり回るものも、藁人形に呪いをかける者もいた気がする。


「やっぱり付き合っていたのか」


 咲斗は言う。


「付き合ってるかと言われると、微妙な感じだけど……」

「でも、学校の男子は皆お前に興味と憎しみを持ってるぞ」

「僕は平穏な日々を送りたかっただけなのに……」

「その台詞主人公っぽいな。ムカつく」

「咲斗もいるじゃないか、側室が二人も」


 小森さんと水瀬さんと咲斗を順番に見る。


「なっ、あたしが咲斗なんかと……」

「そうです。咲斗の塩基配列は後世に残らない方が世のため人のためです」


「俺は人権を要求する!」


 酷い言われようであった。


「でも凄いですわよ。冷嬢って言ったら全男子、いや全生徒の憧れの人ですもの」


 水瀬さんは言う。

 全男子から言い換えた所に疑問を覚えつつも僕は適当に相槌を打つ。


「そういえば、昨日。土地神さまが人間の殿方とお付き合いを始めたっていう噂を聞いたよー」


 小森さんはそう言う。

 身に覚えがありすぎる気もするが、僕は知らないふりをして相槌を打つ。

 僕は僕自身を無視する能力に長けているらしい。


「へぇー神様に彼氏か……」

「あれ、渚くん。秋様のこと知ってるの?」

「え、? あ、あぁ、一応ね」

「あの神様、人間と付き合うとが出来たんだな」

「いやでも、あの神様ファンクラブあるし……あんたより人気よ」

「そのファンクラブは知ってる……大体問題起きたらあいつらのせいだ」


 僕はファンクラブが過激派という事実に密かに怯える。

 これからの未来に対しての光がさっきから微塵も見えてこない。


「しかし、町の人気者二人に同時に彼氏が出来るとはね……」

「あぁ、俺に一人くらい寄こして欲しいもんだが……」

「駄目よ、あんたは私達の一生下僕にするんだから!」

「咲斗、お茶が切れましたわ。新しいのを持ってきて欲しいのですが……」


「俺は生存権を要求する!」


「咲斗は尻に敷かれる人生が似合ってる気がするよ」

「渚まで!? 」



「てか、冷嬢と一緒に飯食わなくていいのか?」

「誘ってきたのは君だろう」

「いや、まぁ、そうだけど」

「……梓は自分の友達と一緒にご飯食べるってさ」

「……元気出せよ」


 今はその優しさが身にしみて辛い。


 そろそろお昼ご飯の時間も終盤になって来た頃、教室扉のドアが勢いよく開かれた。


「渚! お昼ご飯分けておくれー!」


 入ってきたのは、この町の土地神、詰まるところの秋だった。

 どうやらお昼ご飯をたかりにきたようである。

 神様の威厳のいもない。





 しかし、問題そこじゃなかった。



「あれ、なんであいつ秋ちゃんと仲良いんだ!」

「なんであいつの名前を……」

「我らの秋ちゃん……?」

「おい、もしかすると……昨日秋ちゃんに出来た彼氏って…?」

「渚って誰?」



 教室中の生徒がいつも授業中には使わない脳味噌を使って、名探偵の如く推理をする。

 あと僕は、最後の誰?って言ったやつを僕は許さない。



 すると、秋ちゃん命! と書かれたバンダナを付けて、ファンクラブ親衛隊のタスキを付けた一人の男子生徒が、秋の目の前に立った。

 仁王立ちである。

 愛されていることと同時に敬われていないことを再確認する。


「秋様!」

「うん? なんじゃね?」


 秋は教室に溢れ出てるピリピリした空気も察知しないまま答える。


「あの男とはどういう関係なのですか!? 秋様!? 」


 男子生徒がその質問をした瞬間、僕は決意する。


「渚との関係かの……そうじゃな」


 え? 何の決意って?


「恋仲……じゃの」


 全力疾走で逃げる決意だよ!


 僕は全力で駆け出した。

 今だったら、昔僕のことを運動神経が悪いとからかったいじめっ子を倒せるほどのスピードかもしれない。




 僕が飛び出した後の教室では、


「浮気男!」

「俺たちの秋ちゃんを返せ!」

「冷嬢は俺たちの夢だったのに!」

「梓お姉様!」

「✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕!!」



 僕に対する罵詈雑言の嵐が叫ばれていた。

 いや、罵詈雑言というよりは心の内をさらけ出しというか……

 人間の欲望とはここまで醜いものなのか。

 これが現実であった。




 それからというもの、僕は学校1番の美少女と町の土地神さまとを二股する、浮気男として街で名を馳せることとなったのだった。

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