第41話 ご両親に挨拶 (渚視点)
「お邪魔します……」
僕は花染家の玄関のドアを開けた。
手が震えていたかも知れない。
ここにくるのはもう何度目だろうか、というくらい来ているのだが、今日は一味違う。
梓のお母様……。
そういえば、一度だけあったことがある。
みよちゃんの騒動の時、
その後、月野和はどうなったのだろうか。
噂では細々まだ活動しているみたいな噂を聞いたが。
「あら、どうぞいらっしゃい」
声をかけられた。
梓のお母様だ。
「えっと、梓は……? 」
「梓は習い事に行ってるわ。花染家の女として色々学ぶ事があるのよ」
ということは、僕とお母様二人ということか。
中々ハードである。
「こっちへいらっしゃい」
僕はお母様の後をついていく。
長い廊下を抜けて、一つの部屋に案内された。
テーブルには、二人分の座布団とお茶が用意されている。
ということは、梓のいない二人だけで話したかったと。
そして、お茶の湯気がたっているところから僕のくるのを予想していたのか。
少なくとも只者ではない。
「どうぞ、座って」
僕は座布団の上に座る。
お母様も向い側に座った。
…………。
「お母様」
「私をお母様と呼ぶということは、嫁ぐ決意ができたのかしら」
「へ、いや……その」
何と言うのが正解だっただろうか。
名前?
んーでも知らないしなぁ。
「私の名前は真白よ」
「……真白さん」
「えぇ、それでいいわ」
何だかペースにのみこまれそうになる。
そういう魅惑というかを感じる。
権力者は確かに平民以上の権力ではない力を有しているらしい。
「渚くん、でいいかしら」
「は、はい」
「そんなおびえなくてもいいわ。あたしがなぜ貴方を呼んだのか気になるのでしょう」
「まぁ……」
真白さんは僕の目を見て、笑みを浮かべる。
「それは、これからこの家に嫁ぐのに合図がないので」
「えっと、その」
「分かってるわ。冗談よ。まだ迷ってるんでしょう」
「何でもお見通しなんですね」
「親は娘のことなら何でも知っているのよ。だから貴方のこともね」
「…………」
冷静に言われるが、中々に怖い事案である。
「それで、呼んだ理由はね。貴方のことが知りたかったのよ」
「知りたい? 」
「貴方は余り気にしてないようだけども、貴方は有名人なのよ」
「それは、梓や秋と付き合ってるからってことですか? 」
このことに関しては、あまり気にしていないというか、それが日常だった。
自分の身近にあるものは、自分じゃ見つけられない。
「いえ、確かにそれもあるけれど、月野和の件もよ」
「あぁ」
「だから、町の長として貴方がどんな人間なのか知りたかったのよ」
「知りたかった……ですか? 」
「えぇ、それに梓に見合う男なのかともね」
「……具体的にどうすれば」
「それは、あなたが考えなさい」
そう言って
「僕が……ですか」
話がよく見えてこない。
「貴方はこれから選択をしなくちゃいけない。それの練習だと思ってくれたらいいわ」
「それは、梓のことですか」
「そうかも知れないわね」
はぐらかされる。
「別にね、選択という行動には正解なんてないのよ。今もあなたは頭で考えてる」
「しかし……」
相手は花染家の当主である。
現実よりも非現実に近い出来事なんだ。
「名前で考えては駄目よ。私が何を言われても傷つくのは私だけ。花染は関係ないわ」
名前が関係ない相手。
いつか僕が言った台詞だったが、僕も縛られていたらしい。
「では、勝負をしましょう」
真白さんはそう言った。
「勝負……? ですか」
「えぇ、内容は何でもいいわ。剣道でも知恵比べでも」
「……相手は真白さんですか? 」
「そうよ。だからといって体力勝負をなめてもらっちゃ困るわよ」
「いえ……」
あの暴力最強の梓の母親だ。
あれ以上か……。
となると、何で勝負するか。
よく考えると、僕のポテンシャルの無さが浮き彫りになる。
見たくなかった現実だ。
うーん。
僕は考える。
そして、
「わかりました」
「ほう? 」
僕は拳を前に突き出す。
「パンチ? 私と戦うつもりかしら」
「いえ、違います」
「違う? 」
僕は言う。
「ジャンケン」
「はぁ? 」
真白さんは瞬きをする。
「あなた、自分の言ってることわかってる?」
「勝率3割以上」
「負ける確率も3割以上よ」
「1発勝負でお願いします」
「…………」
「多分運が絡まないことは勝てないですし」
「それがこの先の人生をかえるとしても? 」
「救い難いのが現実なので」
「……まぁ、いいわ。やりましょう」
僕に呆れたのか、あっさり受けてくれた。
「もし、真白さんが勝ったらどうしますか?」
「そこは自分が勝った時のを先に提示するんじゃないの? 」
「自信ないので」
「卑屈ね」
僕にぴったりの言葉だ。
「私が勝った時は……そうね。梓をもらってくれるかしら」
「そんな簡単に決めちゃっていいんですか」
「私にはどうでもいいわ」
「結構適当なんですね」
「私が本当に勝敗にこだわってるとでも? 」
「いえ、全然」
「では、始めましょうか」
真白さんはそう言って、立ち上がる。
僕も立ち上がる。
しかし、
「ちょっと、待って貰えますか」
僕は後ろを向く。
そして思考する。
内容はそうだ、何をだすか。
人間はグーを出しやすいらしい、だとするとパーがいいのか。
いや、あえて反対のグー。
…………。
「決めた」
「では、いきましょう」
「「ジャンケン」」
「「ポイ」」
その掛け声のあと、二つの手が繰り出される。
見てみると、チョキとパー。
どうやら勝負は決まったらしい。
恐る恐る、自分の手を確認する。
……チョキを出したのは僕だった。
「負けたわね」
「僕が一番驚いてます」
「それで、どうするのよ? 」
「どうするって? 」
「あなたが勝った時の事決めてなかったわね」
「そういえばそうでした」
「そうね、じゃあ。こういうのはどう? 」
真白さんがそう言ったかと思うと、ゆっくり僕に近づいてくる。
そして、服を少しまくって、肌を見せてくる。
「ちょっと、その」
僕は目を閉じて、最低限の抵抗をする。
しかし、匂いだったり、どうにも防ぎきれないものもある。
決して意図的ではないと言っておこう。
すると、
「ただいま戻りました。お母……様? 」
扉を開けたのは、言わずもがな我らが花染梓であった。
手には薙刀を持っている。
一体どんな習い事をしてきたんでしょうか。
「渚……」
その後のことは言うまでもないだろう。
しかし、僕は認めて貰えたのだろうか。
少なくとも、薙刀の傷だらけのこの僕は、威厳なんて微塵もなかった。
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