第40話 クラス会議 (渚視点)
「これから、会議を始めます」
うちのクラスの影の薄い学級委員が、そう告げた。
今は九月初めの某日。
夏休みが終わり、浮かれ気分から現実に戻される頃合いだろう。
まぁ、僕達にとっては夏休みさえも救い難い現実ではあったのだが。
しかし、そんな学生にもうれしい話題がある。
夏休み後のテスト……の少し後、そう文化祭である!
「では、今日の会議では文化祭でやるこのクラスの出し物について話し合いたいと思います。ではみなさん、何か意見はありますでしょうか? 」
学級委員がクラス内の皆に質問する。
しかし、特に意見はでない。
「では、少し時間をとります。周りの人と話し合ってみてください」
「渚は、何かやりたいものはあるかしら?」
梓が僕に聞いてくる。
「特にはないかな」
「そう、もしあったら私に言うのよ。花染家全ての権力を使ってでも意見を通して見せるわ」
「そこまでしなくても……」
「いえ、いずれは花染の当主となるのよ。少なくとも私以上の権力を持つという事を意識して貰わないと」
「僕はそこまで圧政をするつもりはない」
否定する。
僕はもっと慕われる先導者になるんだ。
「当主になるつもりはあると」
「……こういう些細な言動をとられて追い詰められるのかな」
僕は泣いた。
しかし皆は、男の涙なんて興味ないと言わんばかりに見なかったことにしている。
「この世界にぼくの味方はいないのか!」
「今に始まったことじゃないだろ」
その通りだった。
「渚、ちょっと耳を貸してくれ」
「咲斗、どうしたんだ? 」
「いや、お前に頼みがあるんだ」
「頼み? 」
咲斗は真面目な表情で、僕を見ている。
「お前がさ、文化祭でやりたいことを言ったら梓が通してくれるだろう? 」
「そう言ってたね」
「そこで、俺……いや、男子全体のお願いだ」
「お願いとは……? 」
咲斗は両手を合わせて、僕にお願いする!
「メイド喫茶を、提案して欲しい! 」
…………。
後ろを振り向いてはいないが、男子からの熱い視線を感じる気がする。
「いつもあいつだけ美味しい思いをしやがって……」
「呪ってやる……」
クラスの男子から、そんな声が聞こえる。
怖いよ。
「はぁ……分かった。提案してみるよ」
「そうか! 」
後ろからも、歓声の声が聞こえる。
「流石花染の旦那!」
「信じてたぞ! 」
「逢坂渚に栄光あれ! 」
さっきの呪いはなんだったのかというほどの、掌返しである。
呪いの反対は祝福、いつかの神様が言っていた。
「ね、ねぇ梓」
僕は恐る恐る声をかける。
「何かしら? 」
「えっと、その文化祭の出し物でやりたいものがあってさ……」
「そう、ではそれでいきましょう」
「二つ返事過ぎるだろう! 」
「夫婦とはそういうものよ」
「夫婦じゃない! 」
強く否定した。
何だか流れに任されて、このままずるずるといきそうな気配もある。
「ちなみに、やりたいものってなんなのかしら? 」
「い、いや。別にそこは気にしなくてもいいんじゃないかな」
「一応、知っときたいわ」
「……メイド喫茶」
……。
「渚」
「な、なんでしょうか……」
「それは、私のメイド姿が見たいということ? それとも、別の女性のメイド姿が見たいということ? 」
梓は一歩ずつ近づいてくる。
「えっと……、その命令さ……うぐっ」
咲斗に足を踏まれる。
あくまでそのことは言うなと言うことか。
いや……でも、あの台詞をいうのは憚られると言いますか。
しかし、梓の眼圧が鋭くなってるのも確か……
これだから現実ってやつは……。
「梓さんのメイド姿が見たいです……」
こうして、僕達のクラスの出し物はメイド喫茶となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よくやった渚! 」
時は移りお昼の時間。
僕達はいつも通り席を並べて集まっていた。
いつも通りと言いつつも、夏休みがあった為こうして集まるのは久しぶりである。
「しかし、男子はともかく女子も提案に賛成してくれるとはな」
咲斗はしみじみとそういう。
「梓は女子にも人気だからね。あと、はい、これ咲斗」
「結、これは? 」
「お弁当。いつも食堂で買ってるから。夕飯の残り物だけど」
「そ、そうか。ありがとう」
咲斗はお弁当を受け取る。
結はめげずに咲斗へのアピールを続けているようで安心した。
それに比べて僕はと言えば……。
「そう言えば、文化祭の前にテストがあるよね」
お弁当を渡せて満足したのか、結が口を滑らせた。
「そ、そうだな……」
咲斗が露骨に目を逸らす。
「それに、文化祭の後にはあれがありますわよ」
「何? 雪っち、あれって? 」
「文理選択ですわ」
…………。
うちの高校では、二年生からは文系と理系に分かれる。
その為、文系と理系に分かれるとクラスも変わってしまい、交流もガクンと減ってしまうのだ。
「みなさん、どちらにしようとしているのですか? 」
「私は理系よ。花染家が代々かよう大学に行く為には、理系を選ばないといけないのよ」
「なるほど……、ちなみに渚君は? 」
「僕は文系かな」
「渚なら理系を選びそうな気もしたのだけど……、いえ、あえて反対を選ぶのも……あなたらしいか」
そんなふうに納得される。
「ということは、来年はお二人は離れ離れになってしまうのですね」
「まぁ、どうせ一緒に住むのだから問題ないわ」
「住まないよ! 」
再度否定。
おんなじことばかりしている気がする。
「ちなみに、咲斗と結さんはもう決まってるのですか? 」
「まだだな……」
「あたしも」
そう言った結は、咲斗をチラッと見ていた。
やはりまだまだ難儀なようである。
キーンコーンカーンコーン。
お昼ご飯の終了の合図がされた。
僕達は個人の席に戻ることにする。
「渚」
席に座る前に梓に引き止められた。
「ん、何? 」
「そういえば、お母様から伝言を預かっていたのを忘れていたわ」
「え、梓のお母さんから? 」
何だか嫌な予感がする。
だけれど、僕の第六感がよく観察せよと言っている。
「今度の週末。挨拶に来て欲しいって」
……進まなくちゃいけないのはわかってるけど、最初の踏み出す1歩が大きすぎやしませんかね!?
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