第四章

第39話 面接 (渚視点)

「ここでバイトがしたい?」


 夏休み、いつものメンバーで旅行に行って帰って来てから数日後、僕はとある喫茶店に来ていた。


「あら、渚君来ていましたのね」


 キッチンの方から、そんな声がしたと思うと、出てきたのは雪さんである。

 そう、ここは雪さんがバイトしている喫茶店だ。

 確か秋とデートをした時に一度来たはず。


「雪ちゃん、そうなんだよ。渚君がここでバイトしたいんだって」

「そうなんですか渚君? 」

「まぁ、僕もお金を稼がなくちゃと思って」


 僕がそう言うと、雪さんは少し驚いた様子を見せた後に、僕の顔を見た。


「……マスター」

「何、雪ちゃん? 」

「少し、渚君と二人でお話をしてもいいですか? 」

「おーけー、任せた」

「ありがとうございます」



 というこで、僕は雪さんに案内されるがままに一つの席に座る。

 向いの席には、勿論雪さんが座った。


「旅行ぶりですわね」

「と言っても数日だけど」

「どうしてバイトを始めようと? 」

「お金の為……かな」

「余りお金に困ってるようには見えませんでしたが」

「……何かしなきゃって思っただけかもしれない」


 僕はそう言って、窓の方を見つめる。


「結さんの件ですか?」

「無関係……とは言えないかな」

「そうですか……」

「実験だったんだ」

「実験……ですか? 」

「踏みこんだらどうなるのかなって」


 革命は内側からいつだって起きる。

 だからこそ、起こすのは難しい。


「結はあれからどう? 」

「渚君の方が知っているのでは? 」

「そんなに知らない」


 雪さんは一度考えるような素振りを見せるも、口を開いた。


「……結さん自体は問題ありません。少し落ち込んではいましたが、気力を失ってはいませんでした」

「そっか……」


 告白失敗したあと、一応諦めないみたいなことを言ってたけど、そのままの感じで残ってくれていたみたいでよかった。


「ただ……」


 雪さんは続ける。


「ただ、一つ問題があります。結さんが1歩踏み出したことは、あのメンバー全員に大きな影響を与えました。勿論、渚君にも」

「僕にも? 」

「このバイトのこととか」

「あぁ……」


 別に関係が悪くなったわけじゃない。

 だけど、互いが互いを前以上に意識してしまっている。


『恋愛は、チャンスではないと思う。私はそれを意志だと思う』

 チャンスでは無く意志。

 確かにトリガーはあった。

 でも、踏み出したのは自分自身だ。


「……いつかはしなくちゃいけない。それのいつかが来たんだ」

「それがこの関係を壊すことになってもですか? 」


 この質問、結が咲斗にアプローチすると聞いた時、僕が結にした質問だ。


「僕は革命するよ。やっとのこさの有言実行だ」

「わかりました」


 雪さんは、さっきまでの固い顔から笑顔になる。


「面接は合格です」

「採点基準はなんだったんだろう」

「志しの低さです」

「低さなの?」

「えぇ、昔よりは増えましたが、人は全然来ないので」

「納得」


 周りをみても、お客はだれもいない。

 というか、志しの低さか……。

 やっぱり言葉でいってもまだ心の奥では、決意できてないのかもしれない。

 これだから現実ってやつは救い難い。



「渚くん。面接は合格だ」


 マスターから言われる。

 ちょうど良いタイミング、見計らってたような気もする。


「渚くん。一つだけ聞いてもいいかな。どうしてバイトここにしようと思ったの? 」

「私もそれ気になりました」


 マスターと雪さんに聞かれるので、僕は答える。


「家から近かったので」



 僕の理由に、十分に納得された。

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