第42話 テスト勉強 (渚視点)
「それでは、今日の授業は自習だ。席を移動してもいいが、くれぐれも勉強以外のことはしないようにな」
テストまで残り2週間。
テスト範囲を教えきった数学教師は、いかにも仕事をやりきった感をだして、本を取りだした。
自習するくらいなら、数年後の受験勉強をかっ飛ばした数学者についての説明しかしない授業をBGMに睡眠でも取りたい。
「渚、ここ教えてくれ」
咲斗が僕の所へやってくる。
「梓さん、ここを教えてくださいませ」
「梓ー、ここ分かんないんだけど」
結と雪さんは梓の元に行く。
しかし、梓と僕の席は隣である為、結果的に全員が集合する。
「全員集まるとうるさくなりそうなんだけど」
「まぁ、そういうなよ」
「じゃあ、静かにやるんだぞ」
「任せてくれ」
5分後……。
「渚! 飽きた!」
咲斗が声をあげた。
「予想通りだね」
「というか、学校という場所が勉強するのに向いてないと思うんだ」
「…………」
「だって、こんだけ人もいるし物もある。たまに秋様がちょっかいかけにくることもある。気が散ってしょうがない」
「それは単にあんたの集中力がないんじゃ……」
結がペンをクルクル回しながら言った。
「秋と言えば、最近見かけないきが」
「それは、準備してるんじゃないかしら? 」
「準備? 」
「えぇ、最近状況していたひとがこの街に結婚するため帰ってきたらしいの」
「……そのこととどんな関係が? 」
僕は梓にそう質問する。
「この町ではね。結婚する男女は秋様の神社で儀式をうけるのよ」
「狐の嫁入りってか」
咲斗が地味に上手いことを言う。
「どんなことをするんだ? 」
「渚、珍しく興味あるわね」
「浪漫的なものが好きなんだ」
「まぁ、儀式と言っても神社に歩いて行って、厨二臭い台詞を聞くだけよ」
「酷い言われようだな」
「あとはあれね、付き添いとして1組の男女がついて行くわ」
「それはどうして? 」
男女1組……?
結婚式だからだろうか。
「結ばれる二人から祝福をわけて貰うのよ」
「へぇ」
「でも、まだ誰になったか聞いてないわね」
「………」
「私と渚でもいいのよ」
「僕達二人で秋から祝福されるのはちょっとハードすぎませんかね」
公認二股にしても酷すぎる。
しかし祝福をうけた二人は結ばれなくちゃいけないのだろうか。
となると、なかなか怖い話だ。
「あー、集中できない」
咲斗がもう一度言う。
「放課後どっかで集まって勉強会しようぜ。な、いいだろ渚」
「ごめん、今日は用事が……」
「じゃあ、明日」
「明日もちょっと……」
「じゃ、明後日! 」
「それなら大丈夫」
「よし、決まりだな」
「渚、最近用事多くないかしら? そうね、1ヶ月くらい前から」
梓はこういう時鋭い。
まぁ、この場合不幸しかもたらさないのだが。
「それは多分渚君がバイ……んぐっ」
僕は雪さんの口を抑える。
「渚君どうしてですか? 」
小声で聞いてくる。
「バイトのことは秘密にしておいて欲しい……」
「わ、わかりましたから、手を……」
「あ、あぁ。ごめん」
一先ず一件落着。
「渚……? 」
じゃなかった。
ゴトッ。
薙刀が地面に落ちる音がした。
「流血沙汰にはなりたくないのですが、というかどこから取り出したんですか梓様」
「梓ポケットよ」
怪獣図鑑みたいだった。
「渚、夫婦に隠し事はよくないと思うの」
「夫婦じゃないです梓様」
「ごめんなさい。でもバラ色の未来の為なのよ」
「黒バラ色だと思います」
「渚、覚悟! 」
梓の一閃。
僕は後ろの沢山の机を巻き込んで、教室の後ろの壁に背中を打つ。
クラスの人間は慣れたもので、自然に僕が吹き飛ばされる軌道上を避けながら動いている。
1秒後には「それでね」と話を始めている。
背中を打った痛みに打ち勝ちながら、ゆっくり開けた目には、数学教師が次の本を取り出しているのが見えた。
「今日はこれくらいで許してあげるわ」
そのあとの授業終了のチャイムは、最後まで聞こえなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「やぁ、渚くん」
「……僕じゃなくてお客さんだったらどうするんですか。マスター」
放課後、僕はいつもの喫茶店にバイトに来ていた。
これでもほぼ毎日、1ヶ月半くらいはたった。
「この時間くるのは渚くんくらいしかいないからね」
「そうですか……」
「ところで、どうして今日はそんなにボロボロなんだい」
「梓にやられました」
「だめだよ常に武装してないと」
「僕の人生に、流血沙汰が絡むと思っていませんでした」
誰だって予想してない。
同級生に授業中に薙刀の一閃を喰らわせられて、気絶する人生なんて。
「では、今日も頼むよ」
「はい」
僕は店の奥で着替える。
すると、珍しくドアが開いた。
「いらっしゃいませ……あっ」
珍しくやってきたお客様は……、
この町のトラブルメーカーもとい土地神、秋だった。
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