第29話 密会 (結編)
今日も学校へ登校する。
夏休みまではあと数日、
ーー胸の高鳴りと不安は収まらない。
渚君の協力を得られたあたしは、夏休みにどういう風にアプローチしていくか計画を立てる事にした。
いつも通りお昼ご飯の時間。
いつも通りのメンバーが集まった。
しかし、
「行くぞ! 結軍曹! 」
「了解です! 渚大佐! 」
あたしと渚君は、皆から引き止められる間も残さずに、扉へと突っ走った。
がらがらと扉を開けて、廊下に飛び出して……
「なーー」
がらがらがらぴしゃ。
扉の閉まる音がした。
「ーーぎさ」
梓の手は、既に締め切られてしまった扉へと、中途半端に手がかけられていた。
「……渚、こんな量の重箱を私一人で食べきれと……? 」
「そこ!? 」
咲斗のそんな落胆の声とため息は、空気に混じって消えてしまった。
あたし達はと言えば、図書室に来ていた。
まだ受験シーズンには、早いけれど、この高校から難関大学を目指す一部の優等生が勉強しているのが、チラホラ見受けられる。
「渚君、はいこれ」
「これは? 」
「お弁当。作ってきたから」
「……いいのか? 」
「折角、渚大佐には手伝って貰ってるんだし、コンビニ弁当なんか食べさせられないよ」
「……どうでもいいけど、軍曹の君の方がランクとしては高いよ」
「じゃあ、上官命令です。食べて」
「僕がいいのか?って言ったのは、そういう意味じゃなかったんだけど……」
「というと? 」
「手料理を食べさせるのは咲斗が先なんじゃないか?って」
…………。
「あたしが、餌付け作戦を実行してないとでも……? 」
「……結果は? 」
「『上手い!』って……」
「まぁ、……そういうやつだよ」
「……梓の餌付け作戦に引っかかったのはどこの誰でしたっけ? 」
「すみませんでした! 」
渚君は地面に額を擦り付けて土下座し始めた。
何だか見てられなくなったけど、慰めるのにそれなりの時間を労したのは内緒だ。
「でも、……こんな関係勘違いされちゃうかな」
「ぶっ!」
あたしがそう言うと、渚君は咳き込んだ。
「おい! あそこにいるのは冷嬢の旦那じゃないか!? 」
勉強していた上級生達が渚君とあたしに、気づき始めた。
「ほんとだ! やっばり権力者の旦那って言うのは妾が標準装備なのよ! 」
「でも、そんなことをしたら秋様……いや、秋様のファンクラブのメンバーに殺されちゃうんじゃ……」
「っていうか、あそこにいるのは小森結じゃない。ゆいちんまで毒牙にかけてたのか……ファンクラブのやつ、明日屋上から飛び降りるんじゃないか? 」
「大丈夫だ。その前に冷嬢がバラバラにした旦那の死体が校庭に飾られてるはずだから」
「……勉強してください上級生様」
渚君は言った。
あたし的には、あたしの非公認ファンクラブの存在が危ぶまれたのだが……
ゆいちんって何……?
「はぁ……、話に戻ろう」
「大丈夫? 」
「胃に穴がボッコンボッコン空いてること以外なら」
「それで、夏休みの事だけど……」
「あ、慈悲はないんですね」
実は教室から出る時、光の速度で梓っちから釘を刺されていたり……というのは無いんだけど、何だか色々と羨ましくなった嫉妬が原因かもしれない。
「まぁ、最初は調査からだ」
渚君はそう言った。
「調査? 」
「あぁ、咲斗がもし他の誰かと付き合ったりしていたら元も子もない」
「……言ってることは分かるけど、渚君らしいね」
「その為に僕を呼んだんでしょ」
「まぁ、そうね」
前も言った気がするけど、roleとして呼んでいる。
「でも、咲斗に恋人なんているのかな」
「あいつ、地味にモテるのよ。全く気づかないけど」
「じゃあ、いるかもしれないね」
「いない! 」
「根拠は? 」
「ない!」
あたしは、その後の言葉に詰る。
「じゃあ!調査しにいくわよ! 咲斗に恋人なんていないことを証明しにいくわ」
あたしは、立ち上がって宣言する。
「どっちかって言うと……浮気調査っぽいね」
あたしは赤面した。
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