第47話 理解してしまった (咲斗視点)


「そっか……」


 渚はそう言う。


「もしかして知ってたか? 」

「え、いや……」

「まぁいい。それで俺はどうすればいい」

「その前に」

「なんだ? 」

「結の好意にいつ気づいたの? 」

「あぁ……これだ」


 俺はポケットから、それを取り出して渚に見せる。


「これは……熊のキーホルダー? 」

「あぁ、しかも二つある」

「二つ? 」

「そうだ、一つはこの前の旅行で一緒に作ったものだ」

「もう一つは……? 」


 渚は聞く。

 ちょっとこの状況を楽しんでる気もするが、まぁいい。


「もう一つは、結とホテル近くの絶景スポットに行った時に結が落としたものなんだが……これは、俺が子供の頃……見知らぬ女の子に渡したやつだったんだ」


「……つまり、前話してた小さい頃あの旅館で話した、泣いてた女の子は結だったと」

「そう言うことだ」

「それで、好意に気づいた? 」

「いや、それもあるが、結が俺に何か伝えようとしていた」


 二人で絶景スポットへ行った時のことだ。

 トラブルが起きて話は聞けなかったけれども。


「……まぁ、正解だとは思うけどいつも鈍感な咲斗っぽくないね」

「まぁ、初めてじゃないしな」


「初めてじゃない……? 」

「あ、」


 しまった。

 口を滑らせてしまった。


「わりぃ。忘れてくれ……」

「……まぁ。今は聞かないであげる」

「助かる」

「それで、僕は何で呼ばれたの? 」

「わからん」

「そんな無責任な」

「二股かけてるやつに言われたくないね」

「酷い! 」


「多分、ただ人に話したかっただけだと思う。このよくわからない気持ちを、一人じゃ支えきれないから道連れにしようとしてるんだ」

「酷い役割をさせられたもんだね」

「地獄に落ちたやつはもう落ちないんだよ」

「地獄の下には大地獄があるんだよ」


 そう言った渚は、なんだか本当に地獄を見たような顔をしていた。

 アーメン。


「知ってる? 恋ってのはするもんじゃなくて落ちるもんなんだよ」

「地獄と一緒か」

「僕達にぴったりだね」

「自分で言ってて悲しくないのか? 」

「…………」


 渚、沈黙。


「咲斗、一つ聞いてもいい? 」

「なんだ? 」

「咲斗は結からの好意に気づいたってことだよね」

「あぁ」

「っていうことは、結から告白される可能性があるわけでしょ」

「まぁな」


「じゃあ、咲斗自身は結のことをどう思ってるの? 」


 ……。

 渚は、今一番結論の出したくない質問をしてきた。


「お前は、嫌なやつだな」


 ストレートに不満を言ってみる。


「でも、そのために呼ばれたんでしょう? 」

「そうだな」

「どうなの? 」


 俺はよくわからない。

 自分の気持ちが。


「わからん」

「…………」


 渚は何も言わない。

 俺の言葉を待っているようだ。


「一緒にいて楽しいやつだし、嫌いじゃないのは確かだ。でも、俺にはよくわからない。小さい頃、確かに出会ったのかもしれない。でもそれを俺は運命だなんて言えない。それに、俺に付き合う資格なんてない」


「じゃあ、選ばないんだ」


「わからん」

「変なの」

「お前もそうだろうが」

「僕は違うよ。いつだって選んでるのは一人、その場その場でね」


 渚は言った。


「……はははは!!」

「なんで笑うんだよ」

「おもしろくって……」


 いかにも二股をかける屑男的な感じだと思っただけだ。

 その傲慢さは見習いたい。


「とりあえず、ありがとう。これからのことは自分で考える」

「……大丈夫? 」

「なんだ? お前なら、分かったって見捨てると思ったんだが」

「内容が内容だからね」


 渚にとっては、この問題は後々に響く面倒なもの……それか渚自身にも関わっているって所だろう。


「……いや、大丈夫だ」


 正直言ったものの、何をどうすればいいいかなんて分からない。


「分かった」


 俺達はそこで分かれた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「秋様、どうすればいいですか!? 」

「知らん」


 放課後、俺は神社に来ていた。

 何故か俺は馬乗りにされているが……


「なんじゃ、お早いお帰りじゃの」

「まだ準備してるんです」

「ふん」


 一気に上の秋様が重くなる。

 神様とやらは体重も操作できるのか。


「ぐっ……俺はどうすればいいですか? 」

「そんなの、儀式に参加するだけじゃろ」

「そこは確定なんすね」

「断っても良いが、後が怖いぞ。皆から祝福されるのを断るんじゃ」

「どういう意味ですか? 」

「祝福の反対は呪詛じゃ」


 儀式を受けるか受けないかで、祝福か呪詛か変わる。

 それならば普通は人間は祝福を選ぶ。


「どうして俺なんですか? 」


 俺は気になっていたことを質問する。


「面白そうじゃったからじゃ」

「…………」


 思ったよりも適当な理由にがっかりする。


「人生なんて死ぬまでの暇つぶしというじゃないかや」

「それを言うのは一部の人間だけです」

「渚が……」

「例外」


 渚ほら……あれだから……


「しかし、秋様。それでも儀式の相手が……」

「なんじゃ、結殿の好意を受けるつもりはないのか」

「え」


 なんだ。

 秋様は結のこと知っていたのか。


「知っていたんですか」

「神様じゃからの」

「嘘つかないでください」

「うそじゃないやい! 」


 こういうところがなぁ……。


「わらわからすると、お主が知っていたことの方が……いや、そうでもないか」

「何ですか、その煮え切らない言い方」

「愚者は経験から学ぶということじゃ」

「俺は愚者ですか」

「そうじゃろうに」


 はっきりと言われてしまった。

 まぁ、今回は自分でも自覚できるほど愚かなことをしているらしい。



「それで、結殿の好意を受けないのかや? 」

「俺は……」


「迷いがあるのかや? 」

「……そうみたいです」

「何を迷うておる」

「それが……分からないんです」

「ふん、わらわは知っておるぞ」


 秋様はそう言った。


「分かるんですか……? 」

「そうじゃ。言って欲しいか? 」

「出来ることなら」

「……じゃあ教える」

「全然もったいぶらないんですね。自分で見つけろとか言われると思ってました」


 いつか渚が言っていたが、神様のような常人離れした力を持つ物が現実に存在する場合、現実での存在を保つためにある程度の力をセーブすると。

 そのおかげで幻想と現実のズレ、差異を減らす。

 しかしこの『秋』という土地神の凄い所は、神の力が現実に存在していても問題ない状況が出来ている。

 確かに力をいくらか抑えてはいるだろうが。

 こんな非現実的な現実は素晴らしいと……。


「まぁ、教えてやるのじゃ」

「頼みます」


 秋様は俺の背中の上から腰を上げる。


「咲斗は気になってるんじゃ……いや、そんな次元じゃないのかもしれないのかもの。気がかり、不安何じゃ」

「気がかり……」


 秋様は、俺を見下ろすようにして、性格の悪そうな笑みを浮かべながら……


「わらわが知らないわけなかろう。お主が雪殿に告白されていたことなど……」

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