第35話 眠れない夜 (結編)

 あたしは眠れなかった。

 さっきまで宴会をして騒いでいたため、もうみんなぐっすり眠っている。

 確かにあたしだって騒いではいたけども、何というか、心のそこからは騒げなかった。

 理由は分かってる。


 ーー咲斗のことだ。


 ……やっぱり、眠れない。



 もう深夜だけど、少し夜風に当たろう。

 あたしは隣に寝ている女性陣を起こさないようにこっそりと部屋を出た。

 廊下を少し歩いて中庭へと向かう。

 深夜で暗かったけども、月のお陰で足元は辛うじて見ることができる。


 縁側に座ってあ。

 上を向いてみる。

 別に月が見たかったわけじゃない。

 ただ、上を向いていないと……、

 自分に負けそうで。


「はぁ……、」


 溜息をついてみる。

 が、なにも変わらない。

 こんな時は……、


「これだから現実ってやつは救い難い……」

「それ僕のやつなんだけどなぁ」


 後ろから声をかけられた。


「渚君……寝てなかったの? 」

「皆みたいに、あまり騒いでなかったからね」


 確かに余りそういうタイプではない。

 実はあたしもそうだったから分かる。


「だから、夜風に当たろうと……」

「別に、嘘つかなくてもいいわ。あたしにどんな用件なの?」

「……ありゃ、ばれてたのか」

「まぁ、この中庭、少し入り組んだところにあるから。ついて来たのかなーって」


 推理って程でもない。


「それで、何の用件かしら? 」

「用件って程じゃないよ。一人で部屋を出てったみたいだから心配になってついて来ただけだよ」

「……まぁ、座ったら 」


 あたしは、座っている席の隣を叩く。

 そうすると、渚君は無言で隣に座った。

 あたしはそれを確認すると、無言でまた空を見上げた。



「……勇気はもう出た? 」


 ……勇気。


「……まだ、かも」

「僕もなんだ」

「最初から分かってはいたけども、あなたがあたしに協力したのって絶対、梓や秋様関連な気がする」

「バレてたか」


 渚君はあっさり罪を認める。


「僕も最近色々考えてて、結をみていれば何か分かるかなって」

「それで、何か分かったの? 」

「ぼちぼち」


 微妙な受け答えをされる。


「……そういえば、気になっていた事を聞いてもいい? 」

「何かしら? 」

「どうして、咲斗を好きになったの? 」


 …………。

 頬が熱くなる。


「昔から……なの」

「昔から? 」

「あたしと咲斗が付き合い長いのは知ってるわよね」

「まぁ」

「昔からずっと一緒にいた、気づいた時には好きになってたのよ」

「でも、きっかけとかは? 」

「…………」


 渚君は質問してくる。


「例えば……、ーーーー」



 答えを知っているのに、

 きっかけ。


 そんないい物じゃない。

 ただ、あたしが救われた思い出。

 でも、あっちにとっちゃそれは記憶。

 いや、それすらも忘れていたんだから記憶すらされていない。

 過去の出来事。

 そんなの……全部分かってるはずなのに聞いてくる。

 ……そういうところがほんと意地悪だと思う。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 渚君は部屋へ戻ってしまった。

 あたしは、なんだかまだ眠れる気がしなくてもう少し月を見てると言って残った。

 すると、数分した頃。


「なんじゃ、まだ起きておったのか? 」


 声をかけてきたのは秋様だった。


「秋様、どうしてここに? 」


 秋様は確かに、あたしの状況を知ってるとはいえ、そんな気遣いが出来るとは思えない。

 失礼だけども。


「最近の、トイレが近くて夜中に起きてしまうんじゃよ」

「高齢者じゃないですか!」

「それでの、気づいたら徘徊してての……」

「徘徊老人じゃないですか!」

「わらわはまだまだ若いんじゃ! 」


 心配だった。


 秋様は無言で隣に座った。


「それで、計画の方は順調なのかね? 」

「そんな、弱そうな悪役の親玉みたいな事を言われても……」

「意外と面白いから憎めないキャラなんじゃよな」

「分からなくはないですけども……」

「神様も暇での。休日はアニメ鑑賞じゃ」

「どこで見てるんですか? 確か神社にテレビはなかったと思うんですけど……」

「学校の視聴覚室じゃ。深夜に忍び込んでおる」

「うちの学校の七不思議は秋様のせいですか……」


 ちなみに残りは殆ど風早さんである。

 あの人は学校に住み着いているのだが……



「それで秋様、今期のアニメですが……」

「それで、咲斗とは上手くいけてないようじゃの」


 話変えようとしたのだが一瞬でバレる。


「感の良い人……神様は嫌われますよ」

「わらわなりに過ごした時間ってのが、あるのさね」

「……わかりました」


 あたしは降参した。

 負けを認める速度は一番だ。


「もう襲っちまえば良いのじゃよ」

「却下で」

「まぁ、わらわがこんなこと言うのもあれかも知れんけど、人生なんとかなるもんじゃ。やるだけやってみるがよい」


 秋様が言った。

 言ってることに全肯定出来るわけじゃないけども、彼女なりの優しさなのだろう。

 神様も不器用らしい。

 いや、『神様という立場だからこそ、色々と不器用になってる』なんて言われそうだ。

 渚君とか。


 あたしは、また上を見上げた。

 何度も言ってる気がするけれど、あたしは困った時ほど上を見上げる。

 考え事をする時、下を向いていると下向きな考えになるから、上を向く。


 あたしは月を見上げる。


「後悔しない選択をとるようにじゃ」

「……分かりました」


 あと必要なのは、勇気だけ。

 いや、元から必要なのは勇気だけだった。


 告白するタイミング。

 運命のカウントダウンは、止まらない。

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