第3話 二股はいつかバレる

 僕は二股をかけた。

 誰かと付き合うのも初めてだったけれど、僕は1番最初に禁忌を冒した。


 相手はクラスメイトと、神様。


 僕は現実主義者の非現実感に惹かれた。

 神様という非現実的存在に惹かれた。

 でも、二股という秘密がバレるかもという現実だけが後からやってきた。


 僕はこの秘密を守れるのだろうか……。



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 結論から言って、秘密はすぐにバレた。


 原因は神様であるところの秋とメッセージのやり取りをしている所をあずさに見られた。


 神様のくせにスマホ使うなよ……。


 そんなわけで僕は今、学校の教室の端で梓の前で正座をさせられている。

 朝早い時間に来たため僕と梓の他には誰も居ないのが不幸中の幸いだろう。


「渚」


 低い、そして冷たい声で僕の名前が呼ばれる。

 この時ほど僕が僕じゃ無ければと思ったことは無いだろう。

 まぁ、そんなことを考えても僕は僕でしかないらしい。


「私はあなたから、告白をされた。そして、付き合っているのよ。私があなたの事を好きであろうとなかろうとこれはれっきとした浮気でしょう」


 彼女の片手にはカッターナイフが握られている。

 反抗的な言葉を口にしてしまえば僕の命は無いだろう。


「はい……」


 僕は正座したまま太ももの上で両拳を握ったまま置いている。

 もしかすると、その両拳は震えていたかもしれない。


「私は怒ってるわけじゃないの。ただ、どうして浮気なんてしたのか聞きたいのよ」


 彼女はカッターナイフの刃を親指だけで折った。

 彼女の指には少しだけ血が滲んでいたのを見て、怒ってないってのが嘘だと自覚する。


「それは……彼女が現実的じゃなかったから。あの瞬間だけは僕は君じゃなくてあの神様に惹かれていた」

「随分はっきりと言うのね」

「まぁ、……事実だし」

「……それで、今はどうなのかしら?」

「どうなのって?」

「だから、どちらに惹かれているの?今は」


「それは梓だ」


 梓は照れるどころか表情1つも変えない。

 果たして彼女はヒロインなのだろうか。


「浮気男というか、屑というか……」

「酷い!」

「だって事実だもの」


 僕は浮気しても二股かけても、例えそれがバレたとしても屑じゃないんだ!


「ギルティ」


 裁判官の判決は正義に傾いたようだった。

 これだから現実ってやつは。


「それで、梓はどうなんだ?」

「どうって?」

「だから僕のこと、仮にも付き合ってこそいないがこういう関係なのだから。僕のことをどう思ってるんだ?」


「そうね、好きよ」


 これは驚きの返答が来た。

 というか、梓に恋愛感情というのがあったことに驚きだ。

 恋愛なんてデメリットしか無いと思うのだけど。


 それに、告白したのがほぼ初対面だったはず、それから1日なのに……


「えっと、理由を聞いてもいい? 」

「告白されたから。それじゃおかしいかしら?」

「いや、……ご最もです」



「だってこれは変わりようのない現実だもの」


 カッターの刃をしまう音に隠れて、彼女は最後に小さく言った。



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 四限目の授業の終了のチャイムが鳴った。

 つまるところお昼ご飯の時間である。


 皆思い思いの場所で昼食を取り始めたり、食堂へ急いでご飯を買いに行ったりし始めている。



 僕はといえば……

 自分の席で1人お弁当の蓋を開けていた。

 ちなみに梓は図書室で友達とご飯を食べているらしい。

 本当は図書室では食事を取れないが梓の頼みだから……と、特別に許可されているようだ。

 梓は確かに冷たいが、友達は多いようだった。


 僕が引っ越してきたのは学校が始まって1ヶ月ほど経っていたので、クラス内では既にグループというものが出来ていた。

 だから一人でも仕方ない。


 ぼっちは寂しくない。僕は強い子。ボクハツヨイコ。


 自分に強く言い聞かせた。

 現実は手厳しい。


 すると、


「一緒に食おうぜ!」

 後ろから声をかけられた。


 僕は声をかけられたことに驚いて、一瞬固まる。


「えっと……」


 僕は言葉に詰まる。


「おいおい……覚えてくれてないのかよ。俺の名前は今井咲斗(いまいさくと)だ」

「わかった。今……」

「咲斗でいい」

「咲斗。誘ってくれてありがとう。いいよ、一緒に食べよう」

「決まりだな!」


 ただ、お昼ご飯を誘ってくれたというだけだが、僕はとても嬉しかった。


 この隠キャ体質こそ手厳しい現実なのかもしれない。

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