第2話 恋じゃない告白

「わかったわ。そうしましょう」


 それが彼女からの返答だった。

 意外と呆気ない。


 僕のあの予防線はなんだったのだろうか。

 これが現実?

 だから救い難い。


「あと、梓って呼んでちょうだい」


 彼女は僕の心の中の言い訳なんて無視してそう言った。


「わかった。梓」


 こうして僕達は彼氏彼女でもないどころか何者でもない関係になった。

 ただ僕は、それが現実感を帯びてなくてとても気に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕はその日の授業は退屈だった。

 だけど憂鬱じゃなかった。

 帰り道、彼女と……梓と帰れると思うと英語の小テストで赤点を取ったことなんてどうでもよかった。


 放課後、帰りの準備をしていると、僕のスマートフォンが細かく震えだした。


 僕は電源を入れて来ていたメッセージを確認すると、梓からだった。


『校門の前にいる』

『わかった』


 僕は短く返答してすぐに校門へと向かった。


 しかし、

 校門に着いてみると、そこに梓はいなかった。


『校門の前に来たんだが、どこにいるんだ?』


 送信する。

 すると、すぐに返答が来る。


『友達と帰っているわ』


 あれ……?


『一緒に帰る約束は……?』

『だって今日のノルマは達成したじゃない』

『ノルマ?』

『毎日一緒に帰ったり、『メールを送りあったり』の部分』

『そういう事!?』

『えぇ、だって楽しくメールでやり取りしてるじゃない』


 まだ多分お互いに10件も送っていない。

 楽しくって部分も分からない。


『じゃあ、明日は一緒に帰ろう』

『わかったわ』


 そこで僕達のやり取りは終わった。



 仕方ないので今日は一人で帰ることにした。

 別に友達がいないわけじゃない……じゃない!


 僕は家に帰る前に神社によることにした。

 その神社は家に帰るための道を1度脇道にそれて、山道を登った先にある。


 僕が何故神社へ来たかというと……


「おう!渚!」


 僕は賽銭箱の上に座っていた少女から声をかけられた。


 少女は賽銭箱から降りて、少しずつ近づいてくる。


 少女は人間ではないらしい。


 人間の姿をしているが、頭から狐耳が生えていたり、尻尾がくっついている。

 体型はよく言っても中学生。


 少女は人間ではない。

 少女は神様だと言った。


 名前は秋。

 豊穣と収穫の神様らしい。


 神様……どう考えても非現実的なものの象徴である。


 しかし、意外なことに、地域の人々は少女のことを神様と知っている上に、秋自身も地域の人と仲良くしているらしい。


「それで、渚や。結果はどうだったんじゃ?」


 秋は質問してきた。

 結果というのは梓との事だろう。

 実は相談していた。

 小さな少女に恋愛相談と言われたらちょっと情けないが、相手は神様である。


 金色の毛並みが神々しさをだしている。


「一緒に毎日帰ったりメール送りあったりしてくれるって」

「一緒に帰ってないではないか」

「…………」

「そ、 そう、落ち込むでない」


 秋は優しく慰めてくれる。




「最近、毎日神社へ来てるのじゃが、学校に友達は出来たかや? 」

「そんなお母さんみたいなこと言わないで。と、友達? そ、そりゃあいるとも……」


「本当かや? 」

「勿論、僕が付けてる腕時計に呼びかければいくらでも出てくる」

「そのお友達は学校のお友達ではないがの」


 辛辣な一言だった。

 ちなみに腕時計はしていない。

 変な音が鳴る派手派手の時計なんて勘弁だ。


「そうじゃ、これ食べるかの? 」


 秋はそう言って、懐から何やら袋を取り出した。

 秋は袋を空けて、中から何かを取り出す。


「ほら、クッキーじゃ、ほい」


 んむっ、

 半開きだった口にクッキーを差し込まれる。


「どうじゃ、美味しいじゃろう? 」

「これ、どうしたの? 」


「置いてあったのじゃ、賽銭箱の上にの」


「……それって大丈夫なの? 」


「賽銭箱の上にあるのじゃからわらわのものであろう? じゃったら、どうしようがわらわの勝手じゃ」


「あんまり神様っぽくないなぁ……」


 僕は溜息混じりにその言葉を零す。

 神様という非現実的存在から感じられる人間らしさへの愚痴なのだろう。

 この言葉も、もう呆れるほど秋に向けて言ったかもしれない。


「……じゃったら、わらわと永遠の生を過ごしてみるかの」

「永遠にこんな風にのんびりしてそうだね」

「……永遠の生が怖くないのかや? 」

「現実感がないからね」


僕の好きな物だ。


「お主は神様には向かんの。まぁ、それは人間として酷く健全じゃがの」

「神様は、なろうと思っても慣れないからいいんだ」

「なろうとする者は昔からいるじゃろうて」

「まぁね」

「わらわはどうしたらもっと神様っぽくなれるかのぅ……」

「秋は秋のままでいいと思うよ」


 僕は秋の頭に手を置く。

 狐耳と触り心地の良い毛並みが僕の手を包んだ。


「お主はつくづく不敬なやつじゃの」


 秋はそう言いつつも、嫌がる素振りは見せない。

 僕は手を動かして頭を撫でる。


「ふんっ、もうよい」


 急に恥ずかしさが出てきたのか、秋は手を跳ね除ける。


「……お主は心底救い難い」


 そう言った秋は、少し不満そうな顔を見せた後、勢いよく反動を付けて賽銭箱から降り立った。



 そして、僕の目の前に仁王立ちをした。


 後ろから夕日が差していてる。

 まるで、秋を照らす後光のように……と言うのは言い過ぎか。



「渚、お主は非現実的な物が好きか? 」


 秋は僕に確認するように、その言葉を言った。

 なんと言われようとこれは揺るがない。


 変わりようのない現実なのだから……梓が言いそうな台詞だ。


「あぁ、僕は現実感の無いものを好む」


 僕は変わらない。

 そして、秋は僕のその言葉を聞くと、大事な言葉を言う前の葛藤シーンなどをすっ飛ばして……


「……じゃったら、わらわと付き合うが良い。わらわが、神様と人間という幻想の恋愛を味あわせてやろうぞ」


 ここで、迷うことなんてない。

 どちらかというと既視感を感じた。



 だったら僕は……




「分かった。そうしよう」


 僕は、神様と人間という、世界一非現実的な二股をかけた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


少し変わったお嬢様の梓と、土地神の秋と渚の出会いについては、また後程……。

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