第一章 梓編

第8話 お嬢様との出会い (梓編)

 私は現実を見てる。

 否、現実しか見ていない。

 昔は私も、大事なものは沢山あると思っていた。

 物事の色々な場所に大切なる箇所というのは分かれていて、それを全て合わせた物の合計値によって価値が決まる。

 そして、その数値が高い物を、宝物と言うと思っていた。


 でも、私は現実を知ってしまった。


 現実は違った。

 否、私が見ていたものが現実じゃなかった。

 物事の大切な部分は、分かれてなんかいなかった。

 全て一つの場所に集まっていた。

 力の集約である。

 そしてその場所とは、『結果』である。

 プロセスは関係ない。

 頑張った事実は確かに必要かもしれないが、成果が無ければ意味がないことを知った。


 私の知ってる人は、ここで現実に絶望し、非現実を求めるようになった。

 だけど私は現実を重視することにした。

 叶えられない夢はいらない。

 理想はいつだって思考の外側にある。

 現実はいつだって思考の内側にある。


 私は、花染梓(はなぞめあずさ)現実主義者である。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私は数日前、クラスメイトの男子から告白をされた。

 別に告白されたのは初めてじゃない。

 自分で言うのもあれだけれど、容姿にはそこそこ自信はあるし、何より私家は町で1番のお金持ちで権力もある。

 だから、下心丸出しで告白してきた人は何人もいた。


 私は、『梓』としてではなく『花染家の娘』として愛されていた。


 しかし、彼は違った。

 彼だけは私の内面を評価してくれていた。



「ぶっちゃけ顔と体つきが好みだった」


 …………。

 このセリフは忘れよう。

 でも、それでも、彼は私を『梓』として見てくれていた。

 だから、好きになってしまった。


 正直、彼の現実的な物を異常な程に嫌う性格には難があるとは思うけど、



「これだから現実ってやつは救い難い」

(一番救えないのはあなただと……)


 告白された当日、彼に一緒に帰ろうと誘われたのだが、どうにも恥ずかしくていつもの友達と帰った。


 その時に、彼に告白されたことを相談したのだが……


「それは確実に恋だよ!」

「うんうん」

「甘酸っぱいわぁ〜」


 そんな風に言われてしまった。


 だから、私はこの感情を『恋』と認めてしまったのだ。

 そしたら、彼のことを好きだと認めたら止まらなかった。

 彼が何してるのか気になってしょうがなかった。


 次の日、彼は学校に早く来ていて、ずっとスマホの画面を見ていた。

 どうしても気になってしまい、こっそり覗いた。


 すると……


「ノリで言ってたけど、まさかお主殿が浮気するなんてのぉ」

「告白してきたのはそっちだろ」


 彼は、浮気をしていた。



 その後のことはよく覚えていないが、正気に戻った時にはカッターナイフを握りしめていて、彼は土下座していた。

 しかも相手があの神様なんて……


 それから数日後、私とあの神様と彼と三人は出会った。

 その時に、私は彼に本心を伝えた。


 でも、彼と来たら……


「僕は好きじゃないんだと思う」


 なんて言ってきた。


 浮気はするし、告白してきた癖に好きじゃないなんて言うし……


 はぁ……

 私はため息をついた。

 いつかはもう忘れてしまったけど。




 プルルルル……

 ファンクラブが出来た次の日、今日は土曜日であり、つまり休みだったので、朝から庭の手入れをしていたら、ポケットの中でスマートフォンが揺れだした。


 名前を見ると彼からだったので私は光よりも早いスピードでスマホを取り出し画面のロックを解除した。


『もしもし』

「あら、渚。どうしたのかしら?」

『あぁ、その……』

「え、? 私と一緒に暮らしたい? えぇ、大歓迎よ!」

『まだ何も言ってない!』

「他に何の用って言うのよ。プロポーズなら早めにお願いするわ」

『僕はゆっくり1つずつ階段を登りたい』

「そんなんじゃ全国にいけないわよ!」

『僕は地区予選で楽しくやるくらいがいい……』


「そう、じゃあ、ゆっくり待ってるわ」


『へ、あ、いや、その……』


 渚は分かりやすく狼狽えていた。

 彼は攻撃をするが、防御が弱い。


 いや、彼は防御する事を逃げることだと思っている節がある。

 だから、1発も攻撃を喰らわない内に倒しきろうとする。


「それはそうと、ほんとに何の用事なのかしら?」

『えっと、その……梓』


 彼は私の名前を読んで一呼吸おいた。

 私はまだ現実のその先ってのを見ていなかったらしい。


「梓、今日デートしないか?」


 私の好きな人、逢坂渚(あいさかなぎさ)は屑な男である。


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