第11話 お家デート2 (梓編)
「なぁ、あんさんは知っとるのかいな。この町の昔話」
おば様は渚に言った。
私は傍で聞き耳をたてている。
「花染家が残り、月野和家が無くなったという話なら少しは……」
渚は知っていたのか……
いや、しったのかな。今日。
私はいつだって彼に見破られてるらしい。
「わしはな、月野和の人間なんじゃ」
「そうですか」
「それでの、花染家には沢山恨みがある、でもな、梓だけは違うんじゃ」
「それはまたどうして?」
「理由は簡単じゃ、月野和が無くなった時、梓は生まれてなかったのじゃから。だからこそわしは梓に目を付けた。梓を使って恨みを晴らそうと……でもそんな矢先に、あんさんが邪魔をしたんじゃ」
「邪魔って言われましても……」
「邪魔なんだ!」
おば様は叫んだ。
私は部屋の外にいるが、それでも身体をびくっとさせてしまった。
しかし、渚は動じない。
「あんさんはこの町から出ていけ!わしはわしの野望を果たすためずっと待ってきたんだ」
「……果たしてどうするんですか?」
渚は冷静に質問する。
「そりゃあ、あの時の夢、あの時の財産、あの時の時間を取り戻すんじゃよ!」
「そうですか……でしたらあなたの要求は飲めません」
「本当に生意気なガキだね、梓と一緒で!使えない!あんさんだって、梓を二股の一人にして、好きなように使おうと思ってるのだろう!」
そう言っておば様は渚に手を上げた!
パチンッ!
渚の頬が叩かれた音がする。
しかし、私の足は動かない。
否、動けない。
現実が怖い。
渚は叩かれた頬を左手で抑えたまま、
「あなたは、あなたは富が得たいんじゃなくて、その富や名誉で、僕を、花染家を、梓を攻撃しようとしています。攻撃という行為は、とても現実的だ。美しくない」
渚は言い方こそ強くはないが、強い目付きをしていた。
おば様は圧倒されたのか、何も言えないでいる。
「攻撃は美しくない。ただの傷つける行為だ。それでも、戦争は、争いは必要になる。だから僕は、侵略をする。奪うんだ、恐怖さえも。僕はあなたとは違う、梓も秋も傷つけない、全て奪う」
「だったらわしからも奪ってみろ!」
おば様はもう一度手を上げた。
しかし、今度は渚が手を押えたので当たらなかった。
「現実は非現実の中に存在する。あなたはまだ現実しか知らない。無いものは奪えないんです。梓や秋は現実と非現実を知ってる。だから……だから、僕は奪いたい!」
渚は、私達に恋心はないと言っていた。
だから、もっと冷めてると思っていたのだが、彼は私達の恋心以上に熱く、強い気持ちがあった。
「わしがあいつらに劣るというのか……」
「いえ、個人の能力は一方向では測れません。だけど、あなたは彼女らに勝っていると思っていた。それがあなたの救い難い隙になった」
渚はそうして、おば様に近づいて、
「あなたは心底救い難い」
そう言った。
「ちっ、……ムカつく生意気なガキだよ。いつかどうなっても知らんからな」
それだけ言っておば様は部屋を出ていこうと扉を開けた。
私は慌てて隠れたのだが、部屋を出て、そのまま歩いていくおば様の姿は何だか小さく見えた。
「渚……」
私は部屋へと入った。
「あなたはとても遠回しな言い方をするのね。あれじゃ口論にはならないわ」
「うーん……」
渚は何とも言いずらそうに頭をかいた。
「遠回しだし、意地悪だし、二股かけるし、ちょっとずるい言い方してドキッとさせるし、うざいし、ムカつくし、二股かけるし、……」
「途中から私怨になってませんか!?」
「最初からよ」
とりあえず、私は渚の向かいに座って、お茶をテーブルの上に置く。
でも、私は不器用だから表に出さなかったが、彼が私のことを本気で庇ってくれた事が嬉しかった。
それからは夕方まで二人でお話をしたり、ゲームをしたりした。
ついすたーげーむ? というものが都会では流行っていると教えてもらった。
どんなゲームか知らないけど、今度皆とやってみようかな……
そして夕方になり、
私は玄関で渚を見送りに来た。
「梓、今日はありがとう。まぁ、これはデートではなかった気もするけど」
「あら、これから私の布団と私とダブルデートしてもいいのよ」
「遠慮しときます……」
「そう、でも。また来てね」
「いつでも行くさ、梓が求めるなら」
そうして、渚は帰って行った。
本当に彼はずるい。
最後に嬉しいことを言ってくれる。
でも、最後だけ。
だから、私は思ってしまう、渚に、私は見合ってないんじゃないのかって……
渚という人間は私よりも、もっと恋というものに真剣という事実に……
だけど、今日は楽しかった。嬉しかった。
まるで……そう、
夢のような、現実だった。
すると、
プルルルル、
コール音が鳴ったので、スマホを手に取る。
『あ、梓。財布忘れたから取りに戻る!』
…………。
「ほんと、救えないわね」
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