第10話 お家デート1 梓編

「お邪魔します」

「ただいま」


 私達はそう言って家の玄関へ入った。

 渚は広い空間に驚いているのか辺りを見回している。


「渚、とりあえず。私の部屋まで行きましょう」

「その……出来ることなら、手錠はプラスチック製がいいんだけど……」


 ほら、手が痛くなるからさ……


「……別に監禁はしないわ」

「良かった……」

「今のところは」

「良くない!?」


 というわけで私は渚を部屋へと案内した。


「渚、少し座って待ってて、手錠……じゃなくて、お茶でも入れてくるわ」

「……お構いなく」

「ついでに、あなたが興味ありそうな本もね」

「梓、辞書みたいに厚いのはやめてくれ、殴られた時痛いから」


 私は扉を開けて部屋から出た。

 私は台所へと向かう。

 部屋から台所まで少し距離があるのが、広い家の面倒な部分である。

 誰も共感してくれないのだが……


 すると、


「梓(あずさ)や」


 後ろから声をかけられた。

 私は振り替える。


「おば様……確か今日は来られないと……」


 彼女は家から少し離れた家、家と言っても豪邸なのだが、そこに住んでいる。

 名前は連(れん)という。


 しかし、私は彼女が苦手だ。

 なんてったって彼女は、昔あった花染(はなぞめ)家と並ぶ名家、月野和(つきのわ)家の人間である。

 正直、昔に花染家と月野和家で何があったかは分からない。

 どうして花染家だけが名家として残ったかも知らない。

 だけど、それを理由に、妙に突っかかってくる彼女が気に入らない。


 そういえば、あの神様、秋様を非難する新興宗教団体が町で最近蔓延っているらしいのだが、彼女もその団体に入っているという噂を聞いた。


「最近ね、変な噂を聞いたもんでね」

「噂、ですか……?」


 私はそう答える。


「何でも花染の娘が付き合ったとな、しかも相手はよそ者の浮気男」

「……そうですか」


 若干の怒りを覚えたが、ここで噛み付いてはいけない。


「わしは花染の人は好きではないが、梓だけはまともだと思うてたのにのう」

「それはどういう意味でしょうか」

「あんさんの目は節穴か、とな。あんなよそ者に心を奪われおうて、しかも浮気までされて、相手はあの……神様なんて……折角のわしの計画が台無しじゃ」


 やはり、あの神様こと秋様を酷く非難しているのが分かる。

 そして、私を『私』ではなく、花染の娘としてしか見てないことも……


「彼はよそ者なんかじゃありません。確かに日は浅いですが、立派なこの町の人です」

「……そうかい、まぁ、くれぐれもわしに迷惑をかけるでないよ」



 そう言って彼女は行ってしまった。

 私は彼女が私を見てないことよりも、自分の事しかかんがえないエゴイストというとこよりも、ただ渚を馬鹿にされたことに腹が立っていた。

 私はそれから台所へ行き、お湯を沸かしてる間に、書斎からいくつか本を選んで、お茶と一緒に自分の部屋へと持って行った。

 部屋の扉の前に着いた、私は1度本を下において、扉を開けようと手をかけたのだが……中から声が聞こえたので手を止めた。



「なぁ、あんさん。名前はなんというのかい?」

「僕は逢坂渚(あいさかなぎさ)です」


 どうやらおば様と渚が話をしているようだ。

 私は罪悪感を覚えつつも聞き耳を立ててしまう。

 人間、情報には敏感で繊細なものらしい。


「わしはあんさんに話があってきたのじゃよ」

「話……ですか」

「そうじゃ、単刀直入に言うが、わしはあんさんのことが嫌いじゃ」

「随分とストレートですね」

「だから、もう梓に近づかないでほしいのじゃよ」

「そう言われても……梓から来るもんですので……」

「そこはわしが何とか言う」


 おば様はそう言った。

 何でも私のことは私の居ないところで決めてしまう。

 気に入らない。


「何とか言ったら梓は納得してくれるもんなんですか?」

「そりゃあ、わしが言えばあやつは何でも言うことを聞くさ。昔からそうなんじゃから」

「……そうですか」


 私は気づかれないように、少しだけドアを開ける。

 すると、意地悪な質問をする渚の顔は妙に笑顔だった。


「おば様、どうして僕が嫌いなんですか?」

「そりゃあ、大事な梓と付き合っておるのに、あんな神様とまで付き合いおうてからに」

「あくまでそれは僕の最善策を取った結果です。彼女達は納得していますし、梓に近づくなというのは、私怨からの理由だと思いますが」


 彼はいつでも的を得ている事を言う。

 正しい。

 彼は正義なのだろう。

 だからこそ、敵を産む。

 いや、産み付けるという表現の方が正確かもしれない。


「……ムカつくガキだね。あぁ、そうだよ。私怨さ。あんさんはいやらしい攻撃してくるね」

「いえ、侵略です」

「侵略?」

「はい、相手に何も与えない。ただ制圧する。戦いの中で一番最善で一番尊くて……現実的じゃない……それが侵略です」


 渚はそう言った。


 侵略……私の渚を思う気持ちはどうなのだろう。

 攻撃なのか、侵略なのか。

 私は分からない……私は、私の気持ちが分からない。

 私は、渚の事が好きだ。

 これは紛れもない真実である。

 だから、私の中に彼の侵入を許した。

 でも、渚は私の外側の私の知らない裏道から侵入してくる。


 だから、分からなくなる。


 私のこの気持ちは、彼に釣り合ってるのだろうか。


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