第一章 秋編

第12話 神様との出会い (秋編)

 わらわは神様である。

 人間からすれば、幻想の住人。

 しかし、わらわからしてみれば、おかしな話である。

 だってわらわは昔から、言ってしまえばこの町に人間が住む前からわらわは住んでいたのだ。


 でも、わらわは神様であるので、人間から讃えられると同時に恐れられている。

 というか、最近わらわのことを敬わなさ過ぎると思うのじゃが……


 そんなこんな考えながら、のんびりと暮らしていたのじゃが、

 そんな時にあやつが現れた。


 わらわはその日、いつもの様にお賽銭箱の上に座っていたのじゃ。

 すると、何やら人間の匂いがした。

 だからわらわは、


「ようこそ、おいでなった人間よ。ワシはこの神社の神様、豊穣にして収穫の神、秋である。人間よ。わらわを敬うのであらば、油揚げを献上すると良いぞ」


 わらわはそう言って金色の毛並みをした狐耳と尻尾を揺らした。


「神様……?」


 あやつはそう言った。

 わらわはあやつがこの町の者ではないことを瞬時に悟った。

 この町の者であればまだしも、他のとこからの来た者は神様など見たことないであろうからな。


「……コスプレ?」

「違うわい!」

「そう言われましても、現実感が無いですし

 ……いえ、それは好きなんですけども」


 よくわからないことを言うやつだと思った。


「ふん、だったら触ってみるが良いぞ。耳とか尻尾とか」

「……じゃあ、ちょっとだけ……」

「ひゃうっ」


 ほかの誰かに触れられるのが久しぶりだったからか、情けない声を出してしもうた……


「ちょ、ちょっと!引っ張るでない!いた、いたたたた!」

「あれ、取れない」

「だから本物というておるだろうに!」


 やっと引っ張る手を離してくれた。


「にわかには信じがたいんだがなぁ」

「ふん、だったら見るがよい。神の力というものを」


 わらわがそう言うと、周りの木々が揺れ始める。

 落ちてきた葉があやつの周りを回り始める。

 そしてあやつの足元を覆い隠した。

 すると、いきなりフラッシュして視界が真っ白に包まれる。

 次に目を開けた時には、落ちてきた葉は、元に戻り、あやつの足元には何も無くなっていた。


「これで信じたかや?」

「うーん、まぁ」

「なんじゃその言い方」

「神様っぽくないなーって」

「なっ、なんじゃと!?」


「もっと神々しいものかと……これだから現実ってやつは……」


 あやつは言う。

 つくづく不敬なやつじゃ。


「でもの、お主は神様を求めてここになってきたのであろう?」


 この町の人間はわらわのことを知っておるから、神様頼りなんてたまーーにしかしに来ない。

 だから、あやつは神様頼りをしに来たのではと思ったのじゃ。

 理由は分からんがの。


「まぁ、当たりかな……僕は神様に会いに来た」

「なんじゃ、悩みがあるのかね。しかも頼りどころが神様とは、大変な問題なのだろうか?」

「いえ、僕は現実の問題は、非現実に頼るんです。まぁ、まさか本当に神様がいるなんて思いませんでしたけど」

「そうじゃろ、そうじゃろ。まぁ、そこに座るがよい」


 わらわはあやつをわらわの隣に座らせる。

 神様をまとめてくれたのが、嬉しかったのでの。

 あやつは何も言わずに隣に座った。


 隣に座ったあやつを見ると、細い腕と足元だが、どうにも背負ってるものは重そうであった。


「お主、悩みは言えぬのかや?」

「すみません……」

「まぁ、それでよい。今は……ただこうしてるがよい」


 そう言ってワシはあやつを抱きしめた。

 後ろからは尻尾でわらわと挟み込んだ。


「なっ、何を!?」

「今は何も考えるな。お主は考えすぎなんじゃ」

「考えすぎ……かも知れません。でも、いつだって世界は変化するんです。それが現実だし、でも、変化のない普遍感のほうが現実感はあります」


 あやつはわらわの胸の中で言う。

 変化……わらわは何百年と生きてきたが変化したのだろうか。


「僕は、非現実を追い求める。そこで、現実感をなくすには大きな変化が必要なんです。そしてそれは革命。僕は自分を変えなくちゃいけない……分かってるけど!」


 あやつはわらわの胸の中でそう強く言った。

 だから、わらわはもっと強く抱きしめた。


「革命があれば、革命前夜があるように、物事は密接に関係しておる。だからゆっくり一つずつ攻略すればよい。今、こうして抱きしめられておるのもその一つじゃ」


 わらわがそう言うと、あやつは抵抗しなくなり、わらわに身を任せた。


 そして、


「ありがとう」


 そういって眠った。



 それから、どれくらいが経ったであろうか、あやつは目を覚ました。

 色々言いたいこと聞きたいことはあったのじゃが、あやつは、恥ずかしそうに礼をいって帰ってしまった。


「あ、待ってくれお主。名を教えてはくれぬか?」

「僕の名前はなぎさです……革命児として覚えていてください」


 そして、あやつ……渚の後ろ姿は消えていった。

 すると、次の日から渚は毎日くるようになった。

 でも、何度言っても油揚げは持ってこないし、渚の言う悩みとやらは教えてくれんかった。

 一つ分かったのは、人間関係の問題らしいのじゃがの。

 もしかすると、それが引っ越してきた理由も知れん。



 そして、渚と出会って数日後、今日もいつものように神社へと渚のは来たのじゃが、こんなことを言ったのじゃ。



「好きな人が出来た」


 わらわの所に毎日来ていて、現実の友達がいるか心配じゃったから、安心したはず……なのに、何だか、胸が痛くなった。

 その時はまだこの感情が何なのかは分からんかった。


 それから、わらわは恋愛相談を受けるようになった。

 わらわも恋愛経験豊富とまではいわんが、それなりに経験はある。

 経験は知となる。

 言うなれば経験知(値)



 そのまた数日後、渚は神社に来て、こう言った。


「付き合った」


 わらわはその時、自分の感情に気づいた。

 そして、これが嫉妬なんだと悟った。

 一度きづいてしまえば止まらなかった。

 妬ましかった。


「渚が彼女なんて作れるとはな、驚いたわい」


 ただの八つ当たりだった。

 これで神様なんて……笑えてしまうじゃろ?


「僕だって本気を出せば彼女の1人や二人くらい……」

「二人は駄目じゃろ」

「常識に囚われてはいけないんだ」

「社会には囚われた方が身のためだと思うんじゃが」

「その社会でラブコメ的展開が起こらないんだ、じゃあ社会から脱出するしかない」

「社会不適合者の考え方じゃな。ラブコメ展開って例えば何じゃ?」

「肉じゃが作りすぎたんですけど……良かったら一緒に頂きませんか……?的な」

「現実的に考えて、肉じゃが作りすぎたんですけど……完食しました。が妥当じゃ」

「僕の分は!?」

「胃の中じゃ」


 そんなくだらないやり取りが楽しかった。

 ただ、渚はわらわの者じゃないと思うと少し寂しかった。


「社会を変えるのはいつだって革命だ」


 渚は言う。


「革命?」

「前、言っただろ?僕は革命をしたい」

「革命かの……」

「そう、そして革命とは侵略だ。何もかも全て奪う。それが侵略であり、革命」




「全て奪うか……じゃったら、奪われた時はどうすればいいんじゃ?」

「そんなの、きまってる。奪い返すんだ。奪い返さないのは逃避だ。攻撃の反対は防御じゃなくて、逃げることなんだ」


 わらわは空を見上げた。

 ……わらわは奪い返したい。

 お主殿を奪い返したい。


 これは独占欲? 恋心?


 人間同士の恋愛に神様が入っていいものなのかとも思った。

 でも、それは革命なのかもしれない。


 だから!


 わらわは気づいた時にはこんなことを言っていた。


「わらわと付き合おうでは無いか」

「分かった。そうしよう」


 禁断の恋愛というやつは、案外簡単に出来るらしい。




 それから数日後、

 わらわは渚と渚のもう1人の彼女、梓が二人で出かけているのを見た。

 梓とは渚と三人で話は付けていてそこまで諍いはなかったのじゃが……


 二人は!手を組んで歩いておったのじゃ!

 わらわは見てられなくなり、神社に引きこもってふて寝した。

 神様の威厳はなんとやら……



 そして現在に至る。

 時刻は午後9時、外は真っ暗じゃ。

 わらわはと言うと……スマホのメッセージアプリを使って渚へスタンプを連打していた。


 すると、渚から着信が来た。

 わらわはすぐに電話に出る。


『あのー、神様がスタ連って色々あれだと思うんですけど、ってかどこの会社が契約してくれるんですか……』


「わらわは今怒ってるのじゃ、わらわをほっぽいて、梓と腕を組みおって!わらわはヒロインじゃぞ、もっと登場してもいいじゃろ!」

『やめて、メタネタを持ち込まないで!』

「神様じゃからの」

『出番どころか存在が無かったことになりますよ』


「ごめんなさい」


 わらわはすぐに誤った。


『それで、用件は何ですか?』

「渚、今日……あの娘と……梓とデートをしていたじゃろ? だからの、その、明日……わらわとデートをしよう」


「分かった」


 渚のその一言の返答で会話は終わった。

 意外とあっさりだった。


 すると、あやつからメッセージアプリでメッセージが来ていた。


『今日もデートだったから、今日と同じコース以外で明日はお願いします。あ、プランは全任せで』


 わらわの好きな相手、逢坂渚(あいさかなぎさ)は屑な男じゃった。










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