第14話 喫茶店2 秋編

 そう言ってマスターはキッチンのほうへと行ってしまった。

 それから、無駄話をしてること数分、

 わらわは今悩んでおった。

 理由は渚のことじゃ。

 渚と楽しく会話すればする程、その悩みは募っていった。

 渚は気づいてるのか気づいてないのか分からないけど、普通に振る舞うことを強いられていた。

 何とも人間らしい悩みに、神の権限が薄れることを自覚する。


 すると、店員が運んできた。


「お待たせしました……って、渚君!?」


 運んできてくれたのは、うちのクラスのノリで出来たファンクラブメンバーの一人、水瀬雪殿(みなせゆき)じゃった。


「あぁ、僕だけじゃないけどな」

「秋様も一緒ですか」

「なんじゃそのわらわのおまけ感」

「だって、ほぼ毎日来てますから」

「ほとんどお客来てないのじゃからよいじゃろ」

「代金払わないで毎日珈琲を飲みに来る神様をお客様とは言いませんわ」


 そう言いつつ、雪殿はわらわと渚の前にコーヒーカップを置く。

 しかし、今日は珈琲だけでなく、ショートケーキも置かれた。


「これは?」

「マスターがサービスしろって秋様の所へ持ってくように言われましたわ。まぁ、理由は分かりましたけど……」

「ふむ、そうか、渚のおかげか……よくやったぞ。褒めて使わす」

「あんまり嬉しくないなぁ」


 わらわはそんな渚の不満も聞かないで、ケーキにフォークを刺して、口まで持っていき1口食べた。


「うーむ、美味しいのじゃ」

「それは良かったです。さぁさぁ、渚君も食べて下さいませ」

「じゃあ、頂きます」


 渚も1口ケーキを口に入れる。


「美味しい……」

「良かった!」


 雪殿はそう言って喜んだ。


「渚、ここの珈琲はとっても美味しいのじゃ」


 わらわがそう言うと、渚はコーヒーカップを手に取り、珈琲を飲んだ。


「どうじゃ?」

「……熱い」


 まだ、渚には早かったようじゃのと、言ってやろうとおもったのじゃが、


「雪殿、いつまでそこにおる。 今日はわらわと渚とのデートじゃぞ、邪魔するでない」

「いいじゃん、秋」

「お主殿!」


 わらわとのデート中に他の女にうつつ抜かしおって……


「男を落とすならまずは胃袋からですよ秋様」

「ふんっ、わらわだって、焼きすぎて灰になった卵焼きとか作れるぞ!」

「それは果たして料理なんですかね」


 渚は冷静に冷たいツッコミを入れてくる。


「あ……秋様、その料理だけは駄目です。食べたら死んでしまいます!」

「え、水瀬さん、そんな食べたら死ぬ系の悪魔の料理なの?」

「えぇ、ソースは私ですわ」

「早く成仏してください!」


 そんなこんなで、三人で楽しく会話していると、奥からマスターがやってきた。


「雪ちゃん、秋様の恋路を邪魔しちゃ駄目だぞ」

「マスター、なんでも色恋沙汰に結びつけるの、おっさんぽいですわよ」

「うっ、」


 マスターは雪殿の言葉で明らかに傷ついていた。

 まぁ、雪殿の気持ちも分かるがの。


「ちょっとトイレ行ってくる……」


 いきなり渚は立ち上がり、トイレへと行ってしまった。


 それを見計らったように、マスターが声をかけてきた。


「それで、秋様。何かあったのかい?」


 マスターが聞いてきた。

 確かに、悩んでることがあったのじゃが、どうして見抜けたのか……いや、その前に。


「マスター、渚の珈琲に何か入れたじゃろ」

「へ? い、いや……ちょっと利尿剤をね……秋様と話がしたくて……」

「マスター、あとでお話がございます」


 雪殿が言った。


「まぁ、それはさておいて。秋様、何を悩んでいるんですか?」

「渚の事じゃ……」


 いつもは強がるわらわじゃが、マスターにはどうしても言ってしまう。


「どういったことを?」

「……わらわは渚が好きなのかわからんのじゃ」

「というと?」

「わらわは渚が梓と付き合ったと知った時、とてつもなく嫌悪感を抱いた。でもそれは恋心からのものじゃなく、独占欲じゃったかもしれない」

「……秋様。大丈夫だよ、いつも秋様がここで乙女みたいに愚痴ってたのを知ってます」

「そうですよ!秋様がここへ来て、乙女ゲーをやりこんでいた事も知ってます!」

「ちょっ、それは……」


 すると、渚が帰ってきた。

 わらわ達は何事も無かったように振る舞い、渚は席へと座った。


「それで、渚君。ケーキはどうだったかい?」


 マスターはこういう時は優しい。


「はい、とても美味しかったです!」

「良かったよ。でも、この珈琲も結構こだわってるんだ」

「えぇ、奥に並べられてる珈琲豆とか、ここら辺ではあんまり見ないようなものまであったので、マスターの拘りを感じました」

「そうなんだよ!」


 マスターは渚の肩をガシッとつかんで言う。


「なのにお客さんが来なくて……何が悪いと思う?」

「……外から見て、一目で喫茶店と分からないとことかですかね……」


 渚は肩をガシッと掴まれたまま言った。

 すると、


「そうか! 雪ちゃん、今すぐに店の前に喫茶店の派手な看板を取り付けるんだ!」

「マスター、看板がありませんわ」

「じゃあ、ペンキで塗っていい!」

「マスター、ペンキがありませんわ」


「じゃあ、雪ちゃんが看板娘になって、店の前で町の頭が緩そうな男を誘惑して連れてくるんだ! 大丈夫、メイド服も水着もある!」

「マスター、ペンキがありましたわ。マスターから出てくる赤いペンキですが……」

「ごめんなさい! 調子に乗りました!」


 マスターは一瞬で土下座をしていた。

 わらわが目で追えないほどのスピードでの。


 それからマスターが雪殿に小言言われること数分、マスターは、とぼとぼとキッチンへ戻ってしまった。


 何となく、この喫茶店での力関係が分かった気がする。

 女の尻に敷かれる男しか、この町には居らぬのだろうか……そう思ったのじゃった。


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