第60話 宴会
『集合は山の麓にある居酒屋で。強力になってきた神と、お前の欠席分を合わせて助っ人を呼んでおいた』
夕方、月野和からそんなメールが届いた。
僕は今日、決着をつけるつもりでいる。
最近、荒れ狂う大雪が毎日続いている。
多分、神社へ向かう道を登って行っても辛うじて生きて帰れるのは今日が最後だろう。
だから、今日起こす。
こんな状況でさえ生への執着を見せる僕は、どれだけ主人公という奴に向いていないのだろうか。
「これだから現実ってやつは救い難いんだ」
この町に来て一年も経ってないのにボロボロになった壁は答えてくれない。
「そろそろ出かけるか」
僕はポケットの付いたジャケットを上に着て、外へと出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラガラガラ……。
ちょっとボロい扉を開けて、居酒屋へ入る。
「渚か!? 助けてくれ! 」
「咲斗? どうしたの一体……? 」
扉を開けるなり、咲斗が僕に抱きついて助けを求めてきた。
僕は、咲斗が怯える方向を見てみる。
「いい……じゃないか……ちょっと、ちょっと……だけだから……」
「
「おー……少年じゃないか……」
咲斗を襲っていたのは風早さん。
うちの保険医だ。
呂律もまわってないし、酔っているらしい。
「どうしてここに……? 」
僕は咲斗を抱き抱えたまま質問する。
「ちょっと……よばれてねぇ……」
風早さんは諦めたのか、席に戻り酒の缶を空ける。
「こんばんはー」
すると、後ろから声がする。
「あぁ、結……と雪さん。きてくれてたんだ」
「えっと……その……」
「ん? どうしたの」
結と雪さんは何だか、僕を見て驚いている。
「それ……」
結が指を指す方向。
僕は下を見る。
咲斗の頭で地面が見えなかった……って……あっ……
僕は今咲斗と抱き合っている。
正確には抱いているのは咲斗だけだが。
「これは……その……違う! 」
「やっぱりあなた達……」
「誤解だ! 」
僕は咲斗を退かす。
「思春期の男子同士がやることと言ったらねぇ……」
「その短絡的をやめていただけませんか……」
「乙女なロードを突っ走れ」
好き放題な言われようだ。
咲斗も落ち着いたようだが、一体風早さんに何をされそうになればここまで心的外傷を負うのか……怖いなぁ。
「✖️の前後はどっちがいいかしらって……」
そんな雪さんの台詞は後半になるにつれ尻窄みになっていく。
……勿論無視したけども。
「少年、やっと来たか」
「月野和! これはどういうことなんだ! 」
「……そこの脳筋馬鹿に助っ人を呼ぶよう頼んだのだが……類友というやつか」
咲斗に人を呼ばせた結果……このメンツという事か……。
咲斗の序盤の友達沢山設定はどうなったのだろうか。
「私が町の者に嫌われてなければ、もっと有能な戦力……いや、私を嫌う時点で有能ではないか」
「あなたの信者の一部でも連れてくればよかったんじゃ? 」
「私の有能な部下を無駄な仕事に使えない」
「左様ですか……」
月野和がまた何か動き出していると考えると怖いが。
すると、
ガラガラガラ……。
「お邪魔するわ」
「真白さん!?」
遅れてもう一人来たと思ったら、来たのは梓の母親にして、花染家当主、花染真白さんだった。
「真白さんまで呼んだのか? 」
僕は月野和に聞く。
「私も不本意ではあったが、お宅の娘さんを危険な目に合わせるわけだからな。親に反対されて神社まで来れませんでした……なんてなったら本末転倒だしな」
「なるほど……」
「それで、真白さんは許可を? 」
「ええ」
「理由を聞いても? 」
「権利がないから」
「権利? 」
「母親に、子供の全てに対する決定権などないわ」
「……なるほど」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それでは、皆さまお手元の準備はよろしいですか? 」
僕の言葉に合わせて、皆がコップを掲げて見せる。
風早さんに言われるがまま、僕達は宴会の流れとなっていた。
勿論子供勢はジュースだが。
こんなことをしていていいのだろうか。
「えー……コホン、人生には大事な三つの袋が……」
「色々と違う! 」
やり直し。
「えっと……」
僕は全員の顔を見る。
皆笑っていた。
そう、全員が。
「…………」
僕は目の前全てが、信じられない。
「皆様、お手元を……」
僕は再度おろしていたコップを上に上げる。
僕は、皆の上がったコップを眺めて思い出す。
僕は春、この町に引っ越して来た。
夏は終結し、秋に対立して、冬に決着をつけに来た。
色々思うことはあるし、まだ僕の仕事は終わってない。
多くのことがあった。
僕はコップを上に上げてーー
「ーー乾杯」
一言に収斂した。
「一番、風早。脱衣」
その場の大半が止めた。
「酷い目にあった……だが、後悔はしていない」
止めなかった一部の男子が、折檻された。
「大将! もう一杯! 」
「はい、りんごジュースもう一杯ね」
結はジュースを受け取る。
「咲斗、あの料理が食べたいですわ」
「えっと、雪様……この町は海がないので、海の幸はお値段が張ると言いますか……」
「うっうっ……昨日……咲斗に……」
「雪様! 何でも好きな物を! 」
泣き真似をする雪さんに咲斗が負けた。
「大将さん、今日のお勧めはどれでいらっしゃいますか? 」
「値段の高い順に美味しくなっております」
「ではメニューの端から端までお願いしますわ」
「お勧めを聞いた意味は!? 」
…………。
後は咲斗の声にならない叫びだけが聞こえた。
乾杯をとってからそんなに時間は経っていないのに、会場は駄目な具合に盛り上がっていた。
「はむはむはむ(高級食材咀嚼音)」
「風早さん生徒への配慮は」
「んなもんないわ」
「闘争開始」
結の合図で咲斗が飛び出す。
「頂いたわ」
「横取りかよ! 」
勝者みよちゃん。
「渚君……」
「真白さん、どうしたんですか? 」
真白さんは隣の椅子をポンと叩く。
どうやら顔が赤い……酔ってるようだ。
「失礼します」
僕が座ると……、
「よいしょっと……」
「ちょっ、何してるんですか!? 」
僕の肩に頭が乗せられた。
「このまま、どちらも選ばず……私を選ぶってのは……? 」
「…………」
大人の魅力とお酒の匂いが混じった甘い香りが鼻をつく。
「ねぇ……」
真白さんの手が……段々……。
「駄目ですよおばさん、若い子達の争いに老兵が首を突っ込んだら」
……咲斗が余計なことを言った。
「誰がおばさん……ですって……? 」
「あ、いや、その……待って、待って! 皆見てるから! ピーーー(自主規制音)」
「何この混沌……」
隅の方にいた一般のお客さんの総括は、的を得ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
気づけば、今日も残り3時間になっていた。
「……いくのか? 」
こっそり店を出た僕は、店の外で煙草を吸っていた月野和に声をかけられた。
「ええ」
「これを、神輿の子に頼まれた」
僕は、月野和から木刀と……
「これは……? 」
「割り箸だ」
「ついにゴム鉄砲でもないんですね」
「それがお前の相棒だ」
「そんな異世界転生する時、最強の武器をくれる神様みたいなこと言われても……」
不安だった。
「大丈夫だ、神輿の子からの補足説明が来ている」
「補足説明? 」
「ゴム鉄砲を分解した割り箸、その割り箸には特殊効果があり、どんな敵でも一度だけ倒せると」
月野和は説明書のようなものを見ながら言う。
「異世界転生から、学園異能バトルみたいになりましたね」
「よくわからんが」
僕はとりあえず、割り箸をポケットにしまった。
「……一人で行くのか? 」
「僕が頼んでもあなたは来ないでしょう」
「他にも戦士僧侶魔法使いがいるだろう」
「こういう時、僕はオールドタイプなんです」
「じゃあ、お姫様を抱えて帰ってくるんだな」
月野和に背を向ける。
そして、
「任せてください」
僕は歩き出した。
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