第31話 作戦会議 (結編)
「折角の夏休みだし、皆でお泊まりしない!? 」
あたしは、休み時間。
いつものメンバーが集まった所で、そう告げた。
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時は遡り、昨日。
あたしと渚君、そして何故か着いてきた秋様と共に、三人は作戦会議を始めていた。
と言っても放課後の教室で机を並べてくっつけただけだ。
「うーん、どうしようか……」
渚君は首を傾げる。
「何かいいアイデアは無いの? 」
「そう言われても……うーん」
「秋様は何か無いの? お菓子ばっかり食べてないで」
秋様は、あたしが持ってきたスナック菓子をほぼ1人で食していた。
「もう、押し倒して既成事実作っちゃえばいいんじゃないのさ? 」
…………。
「秋様それは、恋じゃないやつです」
「ぶーー、わらわが折角考えてやったのに」
なんというか、狐耳と尻尾があるし、そうっちゃそうなんだけど、たまに野性的になるのよね。
しかし、そんな秋様を横目に、渚君は目を逸らしていた。
何か思い当たる節があるのだろうか。
「夏休みだから、時間はあると思うんだけどね」
渚君が言った。
「時間か……ゆっくり距離を近づけると?」
「それは駄目じゃ」
秋様が口を挟んできた。
珍しい。
「駄目? 」
「ゆっくりやっていては、今までと変わらんのじゃろ? 」
「まぁ、確かに……」
「大事なのは、……速さじゃ」
「速さ? 」
渚君が先に口を開いて質問した。
「そうじゃ、恋というのは攻撃と防御なんじゃ。じゃけどな、この防御というのは防御するまでに時間がかかるんじゃ」
時間……。
「だから、相手が防御し始める前に、早く攻撃を届かせると? 」
「その通りじゃ」
スピード、速さ。
でも、スピードを出すには、思いっきり地面を蹴って進まなくちゃいけない……。
それは……、
「そうなると、……うーん? どうすればいいのかしら」
「小さなイベントを起こして、その中で一気に距離を縮める」
渚君が最適解を出してくれた。
「でも、小さなイベントって……? 」
「祭り……は終わったか。うーん、あとはなんだろう? 」
あたしは上を向いて、考える。
今回のあたしの試練は、あたしの内側の問題。
そして、勇気を出さなくちゃいけない。
そういえば、子供の頃、あの時……
あっ!
「ねぇ、イベントって何でもいいの? 」
「まぁ、特には」
「だったら、いいのがあるわ」
あたしは意気揚々と声を出して、場のテンションを高める。
「それは……? 」
「これからくるのは夏休みなのよ!」
「……そうだね 」
渚君はピンと来てない様子である。
勿論秋様も。
「だから! 夏休みなの! 」
「……うん? 」
「つまり……」
「……つまり? 」
「まだ分からないの? 夏と言えば、海、山、そして! 」
ーーお泊まりよ!
あたしは、自分に強く言い聞かせるように言った。
勇気の出し方なんて分からないけど、いざという時は何とかなる……はず。
「お泊まり? 」
「そうよ」
「どちらかというと、そうね……小旅行って感じかしら」
「……そんな簡単に出来るものなのか」
「まぁ、いいじゃないか渚。たまには、うん」
「秋様、……妙に賛同しますね」
「へ? ち、違うぞ! 別に、わらわも着いていって美味しいご飯にありつこうなんて思っておらんからな! 」
「……秋、ヨダレ」
「…………」
神様が沈黙した。
例え神様でも、欲望という煩悩には勝てなかったらしい。
いや、この神様は煩悩の塊だけれども。
「とはいえ、どこに行くんだ? 」
「隣町に温泉と旅館があるわ。近くだけど……まぁ、今回は余り関係ないしね」
「しかし、この時期から予約いれてとれるものなのか? 隣町はそれなりに観光地だったきが」
…………。
渚君は1つ1つ問題に対して突っかかってくる。
いや、そう言う嫌な役をやってもらうためにあたしは呼んだんだけども。
正面の席で前髪をいじりながら、頭を回転させている渚君を見た。
確かに、容姿はそれなりに……な方だとは思う。
それに、この町は田舎だから彼が持つ都会感というのか、そういうのに興味を引かれるのは少し分かる。
もう一度、彼をよく見る。
どうして、梓や秋様が渚君を好きなのか気になる。
何故だか分からないけど、それが私の恋にも役立つというか、関わっている気がするのだ。
「まぁ、それなら大丈夫よ。花染家の系列が営業してるらしいわ」
「……梓に頼めってか? 」
「その為の渚君よ」
「……嫌だ! 」
「どうして!? 」
「許可を取る代わりに婿に来るんだ! とか言われて……」
渚君はガクガク震え出した。
何か辛い過去があったらしい。
だけど、
「いいじゃない、それくらい」
「そんな軽く僕の人生を売るな! 」
「そうじゃぞ、結殿……」
「秋様、美味しいご飯……いらないの? 」
「よし、渚。今回ばかりは見逃してやろう。一瞬嫁いで、その後わらわと結ばれよう」
「僕の人生設計めちゃくちゃ過ぎない? 」
あたしは付き合う……のが最終目標だけど彼はもう付き合っているのだもの、しかも二人……。
「……まぁ、分かった。僕から頼んでみるよ」
結局……というほどでも無く意外とあっさり引き受けてくれた。
「ほんと……? 」
「あぁ、心を鬼にして僕は君の恋路の為に行ってくるよ」
「大丈夫よ、梓も心を桃太郎にして快く受け入れてくれるわ」
「それ僕打ち負かされるじゃないか! 」
「では、ということで決定! 」
というわけで、半分ゴリ押しだが、今後の方針が決まった。
泣きわめく渚君と、妄想を膨らませる秋様を横目に、あたしは勇気を出す下準備を始めた。
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