第32話 旅行初日 (結編)
……やらかした。
あたしは目を覚ました。
時刻は午前11時。
目覚ましが絶えず鳴っている。
設定してるこの曲は、とある人から教えて貰ったHIPHOPだ。
まぁ、そんなことは置いといて。
あたしが目を覚ましたのは、目覚ましの音では無く、メッセージアプリの通知音だった。
グループ名、逢坂探検隊。
あたしは、
咲斗の「ごめん30分くらい遅れる! 」で目を覚ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
待ち合わせ時間から一時間後。
あたし達は待ち合わせ場所の駅から、やっとの事で電車に乗車することが出来た。
幸いなことに、遅れたことに関しては余り咎められなかった。
しかし、あたしや咲斗が遅れることになった為、梓と秋様と二人きりになった渚君が大変な事になっていたらしい。
ちなみに雪っちも少し遅れてきたらしい。
だけど、あたしの読みだと、渚君を陥れる為わざと遅れてきたのだと思う。
雪っちはそういう所があるから侮れない。
旅行は2泊3日の隣町の温泉旅館である。
「渚、俺たちはどこの駅まで行けばいいんだ? 」
ボックス席の向かいに座った咲斗が質問した。
「えーっとね、実際隣町だからそんなに無くて……」
渚君はそう言いながら、路線図を指でなぞる。
「五駅かな」
「結構近いんだな。折角の夏休みだからもうちょい遠くでも良かったんだがな」
「結きっての希望だったからね」
「結? そういえば最近お前ら仲良いよな」
「そう……なのかな」
渚君がチラっとあたしを見た。
しかし、
「へぇ、結さん。そうなんですか。最近渚が一緒に帰ろうと誘っても断るのはもしかして……」
あたしの死期が早まる。
梓の目が怖い……
「いや、梓! その、そう! 僕が結に話があるからって呼び止めてたんだ!」
渚君が合わてて、あたしのフォローに入ってくれたのだが……。
「……渚、また新しい女手を出そうとしてたってこと?……天誅! 」
梓の、どこからか取り出した薙刀の一閃が走った!
向かいの席の渚君と咲斗の間の背もたれに、刃が突き刺さる。
そして、渚君の肩の服が綺麗に一筋の切れ目が出来た。
ひぇえ……。
皆が声も出ないくらい驚いた中、
「さぁ、皆様、着きましたわ。急いで降りますわよ」
静まり返った車内には、何も動じていない雪っちの声と、電車のブレーキ音だけが響いた。
それからあたし達は駅を出て、少し歩いて山を登り、山奥……ってほど深くないけれども、山奥の温泉旅館へと着いた。
少し入り組んでる道だったけど、あたしはまっすぐ進むことが出来た。
中へ入ると……、
「ようこそ、いらっしゃいませ。あら、花染のお嬢ちゃん、それに……旦那様、そして土地神様まで……」
女将さんが出迎えてくれた。
まぁ、この付近の町での有名人が全て来たような感じだし、仕方ないことだろう。
渚君はまた「旦那じゃないです! 」なんて言っていたけれど、もうお家芸になっている。
「早速ですが、お部屋の方へ案内致しますね」
あたし達は女将さんに連れられ、1つの部屋へと着いた。
「こちらのお部屋になります」
そう、告げられた部屋を開けると……、
……なんて言うのだろうか、あたしは梓とか後は雪っちもお金持ちのお嬢様とは違って庶民だけど、言葉が出てこないくらいの立派な部屋だった。
「……すごいのじゃ! よくやったな梓殿、今日だけは認めてやらんでもない」
「……確かに立派ね」
「立派ですわね」
「すげー……」
何だかコメントの差が出てしまった。
「ここに机がございますので、お食事はこの部屋で、そして右手と左手に一部屋ずつありますのでご就寝はそこでお願い致します」
「了解しました」
「それと、この部屋を出て左手に行ってもらうと温泉がございますので。また、花染家からの話で全部屋貸切となっていますので、24時間いつでも温泉には入って頂けます」
「承知致しましたわ」
「お金持ちこわ……」
我ら庶民派のあたしと渚君と咲斗は怯えていた。
そして、女将さんは部屋を出て戻っていった。
「そしたら皆様。荷物の整理が終わったら早速温泉に入りませんか? 」
雪っちが提案した。
「「さんせーい! 」」
何だか小学校のようなノリで、温泉に入る事が決まった。
そして一同は風呂グッズを持って入り口まで来たのだが……、
ここでとある事件が起きた。
「さぁ、渚入るわよ」
「入るのじゃぞ」
「……え? 」
物凄く自然に、梓と秋様は渚君を連れていこうとしていた……女湯の方に。
その後、渚君の叫びが聞こえたのは言うまでもない……。
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