第56話 決断 (咲斗視点)


 この話は咲斗の視点となっています。



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 始めた。


 理解した。


 見えた。


 決めた。


 止まった。


 終わって……無かった。



「出かける準備は出来た? 」


 目の前にいる渚は俺にそう言う。

 真剣な話になろうとしているのに、真剣な目つきにならない渚に反感を覚える。


「俺は出来てる」

「さっきからスマホを開いたり閉じたりしてるだけだけど」

「……乱数調整だ」

「どんな言い訳だよ」


 俺はスマホの電源ボタンを押して電源をスリープさせる。


「結の所に行くんでしょ」

「答え合わせをしに行くだけさ」

「僕的に助かるんだ」

「助かる? 」

「実は僕は結の君への告白の手助けをしてたんだ」

「……そうだったのか」


 普通にネタバラシをされた。

 しかし、渚が絡んでいたのか……そういえば、渚と結が仲良くなったのもその頃か。


「それで、助かるとは? 」

「必要な手順がこれでやっと進む」

「……俺はそんなに察しが良くないんだ。分かりやすく言ってくれ」


 俺は思考も出来ない頭のくせに考え込む癖がある。


「じゃあ、僕に次は質問してくれ。他にもっと聞きたいことがあるでしょ? 」


 他に聞きたいこと……。

 あるにはある、しかし俺には多分聞いてもその意味を理解出来ない気がする。


「いつ……秋様の所に行くんだ? 」

「そう」


 渚は俺が正解を当てたことを軽く祝福するような素振りを見せる。

 なんだか今日の渚には反感を覚える。

 まるで俺が現実にいて、渚が現実にいないみたいだ。


「あれから数日。吹雪もどんどん強くなってきている。許可は出てるんだ。早く終わらそう」

「終わる? 」


 渚は俺のその言葉に引っかかる。


「この騒ぎが治まって、梓と秋が帰ってくる。それはとても素晴らしく、望ましいことだよね」

「だったら……」

「でも、その先はどうなる? 」

「その先……」


 俺はその問いに答えられない。


「確かに渚の言ってる事は正しい、今この状況にお前の10ヶ月ほどかけてきた二股問題を解決するのは、でもそのせいで町が人が、これ以上被害にあうほうが不幸だろう」


 正しい。

 数学的に、効率的に。


「行かないわけじゃない。でも今じゃない」

「ギリギリまで秋様や梓を傷つけてもか? 」

「申し訳ないけどね」


 渚の思考がどんどんと俺の理解の外側へと向かう。


「ハッピーエンドを求め過ぎだ」

「その為に待ってたんだ。咲斗が動くのを」

「……まさか」


 理想論過ぎる。


「僕のハッピーエンドには咲斗も結も雪さんも含まれてる」


 この町の問題が治まって。

 梓と秋様と渚が仲直りして。

 未来を選んで。


 俺が結に会いに行って。

 告白して。


 その全てが叶う未来のために動いている。


 狂ってるとしか思えない。


「正気かーー」

「準備期間には手間取ったよ。夏休みの旅行の件も、君の儀式の件も」

「お前は狂ってる」


 現実的でないものを、逢坂渚あいさかなぎさは求める。

 現実は救い難いと彼は繰り返した。

 彼は、現実を理想的なものに歪めようとしてる。



 ピコンッ


 スマホのメッセージがきた音がする。



「咲斗」

「別に後でからいいよ……」

「いいから」


「はぁ……」


 俺はスマホの電源ボタンを押して、メッセージを確認する。


『話したい事があるって聞いたから……学校で待ってる。結より』



 俺は渚を見る。

 無邪気に笑いやがって……。


「分かった、分かった。つまり俺は手のひらで泳がされてたってわけだな」


 立ち上がって、コートを着る。

 マフラーと手袋をする。


「だったら、好きなように使ってくれ。……その代わり、選ぶのはトゥルーエンドだけだぜ」


 ギャルゲーやってるお前なら分かるよなと、


「誰が暗いオチなんか見たがるかっつーの」


 俺は、学校へと向かった。

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