第51話 終わってしまった(咲斗視点)


 この話は咲斗の視点となっています。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「暇だな……」

「そうね」


 俺と結は神社の本殿の外で休んでいた。

 本殿の中では、新郎新婦の二人が秋様から有難い言葉と神の加護を受けている。


「意外と直ぐに仕事終わったな」

「そうね。この後二人の後に秋様から話を聞いたらお終いよ。帰りは自由解散らしいの」

「なんだかなぁ……」


 この日の為に、色々考えて大変なことも……まぁあった。

 だけど現実は一瞬で過ぎてしまった。

 渚のなら『これだから現実てやつは救い難い』なんて言うのか。


 やはり一番の強敵は時間なのか。


「そう言えば、皆来てたね」

「強制参加だからな。流石に皆サボれないだろう」

「いや、咲斗がよく見てたから」

「見てた? 」

「うん、……雪とか」

「別に……」

「ねぇ、咲斗……本当は何があっ……」

「結」


 俺は結の言葉を遮る。

 最近よくしてる気がする。


「ほら、空いたぞ」


 俺は本殿の方を指差す。


「う、うん」

「行こうか」



 ガラガラガラガラ……


 けたたましい音と共に扉を開いた。


 すると……



「おーよくきたの」


 うちの土地神が寝っ転がっていた。


「あの……秋様」

「なんじゃ、別にいいでおろう。釈迦だっておんなじポーズしてるでないか」

「神教じゃないんですか」

「この現代の日本で宗教も糞もないじゃろ。まぁ、わらわは人々の信仰で存在してるのじゃが……」


 秋様は寝たままそう言う。


「いいんですか、こんな事してて」

「もう来る」

「来るって? 」


 ガラガラガラガラ……


 扉が開く。

 そこには、梓と渚と雪がいた。


「見学しにきた」


 渚は少し嬉しそうにそう言う。


「秋様いいんですか? 」

「渚がどうしてもと言うのでな」

「支障とかは……? 」

「いてもいなくても儀式とやらに不思議パワーなどない。あるのは力だけじゃ」


 ないって……


「では、始めるとするかの」


 俺と結は隣同士に座り、秋様は二人を見下すように立つ。




「よくぞ来た。今からそなた達に祝福を授ける」


 土地神の秋様はその場から一歩前に出る。


「掛けまくも畏き、この町の土地神。水 土 人 そして神 言祝うぐ」


「祓はらへ給たまへ 清きよめ給たまへ」


 俺は言葉を口にする。


「守まもり給たまへ 幸さきはへ給たまへ」


 続けて結が言った。


「婚儀を行う」

「婚儀を」

「承った。二人の歩む道に祝福を授けよう」



 俺は目を瞑る。

 ここでこれからのことを神に祈ると言われた。

 祈る?

 何を?


 目をつぶれば闇しか無かった。




「もう開けて良いぞ」


 目を開ける。



「これで一応おしまいじゃ」


「秋、ごめん。僕は用事があるから先に退散させてもらうよ」

「私もお稽古が……」


 そう言って渚と梓が帰った。

 雪は残った。



「では、これから始めるとするかの」

「始めるって? 」

「儀式じゃ」

「はい? 」

「さっきのはの。毎年やってるが形だけのものじゃ。本物の神の力には祝詞などいらん」

「…………」


「では、始めるぞ」


 俺達は終わったと思って崩した体を戻す。


「では、結殿。誓いを」


「えっと……」

「大丈夫じゃ、心で思うだけで良い」


 戸惑った結を秋様は諭す。


「では、咲斗。誓いを」


 俺はどうすればいいか分からなくなって、結を見て……そして雪を見た。


「……失敗じゃ」


 秋様はそう言った。


「どうして! 」


 結が言った。


「簡単な話じゃ。この誓いを、心の底から望めていない奴がいるのじゃ」

「それって……」


 結は俺の事を見てくるので、俺は顔を逸らす。


「咲斗……」

「その」

「どうして!? 」


 今度は遮れなかった。


「咲斗……本当はあたしのことが好きなわけじゃないんでしょ……」

「そんなこと……」

「そんなことあるわ! あたしを選んだのは……あたしが好きだったんじゃない! あんたはあたしを選んだんじゃなくて、雪っちを選ばなかっただけ! 」


「…………」


「結、俺は半年ほど前に雪に告白されたんだ……。それは、お断りしたんだけど……」

「そしたら雪っちを好きになったって? 」

「そうじゃない」


「咲斗! 」


 雪が言った。


「どうして私に構うんですか!? 私の告白は断った。それで終わりじゃないですか! 」


 …………。


 だったら……


「だったら、なんでお前はそんな平気そうな顔をしてられるんだよ! 」


 俺は叫んだ。

 俺と結は告白という行為にこれだけ怯えている。

 なのに、渚も秋様も梓も雪も……。


「俺は、そんな楽観的になれない。結と昔あの旅館で出会ったのかも知れない。でもおれはそれを運命だったなんて言われたってよくわからない! 」


 俺は……そんなわがままに自分の気持ちを突き通せるほど強くない……。


「咲斗だって! 」


「おしまいじゃ! 」


 結が何か言おうとしたのを秋様が止めた。


「これ以上は意味がないと判断した。一応これは儀式の一部じゃ。婚儀を汚す訳にもいかん」


「すみません……」


 一瞬の静寂が流れる。


「言っておくけど、これは喧嘩じゃないからな」

「えぇ」

「分かってるわ」



 そこで俺達は別れた。


 何が悪かったのか、何がいけなかったのだろうか。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ってことがあったんだ」


 ここは町の喫茶店。

 お客は俺一人だったので、店員に人生相談をしていた。


「……大変そうだね」

「そんな他人事みたいに言わないでくれ渚! 」


 相談相手は渚だった。


「じゃあ、きつく言って欲しい? 」

「それはそれで……」

「いいの? 」

「……言ってくれ。そのためのお前だ」


 渚は少し嬉しそうにはにかむ。


「これから咲斗に課せられた道は、誰を選ぶか」

「……お前ならどうする」

「僕なら……選ばない」

「選ばない? 」

「見捨てる。正直、雪さんはかたがついてる話だし……後は結を捨て……」


「てめぇ! 」


 俺は渚の胸ぐらを掴んだ。


「咲斗……そこまで決まってるなら……ね」

「……してやられたって? 」


 俺は手を離す。

 そして力が抜けたように渚に倒れ込んだ。


「しょうがないだろ……好きなんだよ……結のことが」



 バタンッ


 その時強い風が吹いて、喫茶店『autumn』の扉がしまった。


 秋が……終わる。

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