第五章
第52話 異変(渚視点)
「渚! 」
「あがっ! 」
この現代、朝目覚めるという行為に対して非常に嫌悪感を抱えているだろう。
それと同時に、目を覚ます方法が数多に生み出されている筈だ。
だけども……。
神様にバックドロップされて起きる高校生は僕だけだろう。
「渚! 大変なことが起こったのじゃ! 」
「なんですか秋様……」
「神社に、神社に入れなくなったのじゃ! 」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「渚! 食堂行こうぜ! 」
いつもの学校、咲斗が声をかけてきた。
「ごめん、やることが終わらなくてさ……」
僕はノートパソコンのキーボードを打ちながら答える。
「渚さん、最近より一層忙しそうですね」
雪さんが言う。
あの結婚の儀式からは数週間経っている。
一応あれから問題が起きているわけではないようだが、なんというか上部の会話をしているみたいで正直見ていて気持ちのいいものではない。
「渚、何か手伝うことあるかしら? 」
梓が言った。
「大丈夫」
「そう……」
「渚、大変なら少しくらい頼ってくれていいんだぞ」
「ありがとう咲斗……でも大丈夫」
「……そうか」
そう言って皆は行ってしまった。
僕は、キーボードをカタカタ打ち続ける。
「渚」
声をかけられた。
「秋……ご飯ですか? 」
「わらわをなんだと思っている! 」
「妖怪大食らい」
「酷いのじゃ! 」
秋は素直に悲しそうな顔をする。
「それよりも良いのか? 」
「何がですか」
「頼らんでも良いのかと? 」
「一人でやった方が効率がいいんですよ」
仕事をする上で必要なのは、効率良くやることと関わる人間を減らすことだ。
企業で一番お金がかかるのは人件費だし、人数が少ないのに成功を起こしたものは、それだけで価値がある。
「しかし、効率というより孤立じゃが」
中々的を得ている僕の状況ではあったのだが……
そんな秋の言葉はキーボードの音でかき消された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
放課後、僕と秋は神社へと来ていた。
理由は、
「秋、神社に入れないってどういう事? 神社の外観はいつも通りだけど……」
「確かにいつも通りじゃが、扉を開けてみい」
僕は言われた通り扉に手をかける。
ガラガラガラガラ……
普通に開いた。
「確かにいつもより硬い気もしたけれど、普通に開いたよ」
「……おかしい」
僕は中に入ってみようと、足を踏み入れ……なかった。
何かおかしい。
僕は足を上げて、神社の中へ入れようとするが、見えない壁のようなものに防がれた。
「秋……」
「ふむ、わらわの場合は扉を開けることすら出来なかったのじゃが……」
僕らは思考する。
「わらわは最近渚の家で居候しているので問題はないのじゃが……」
「それもそれで問題だよ! 」
すると、
「ふむ……これから先不穏だな」
後ろから、低い声が聞こえた。
「……お前、月野和!? 」
「ほう、名前を覚えていてくれたのか」
「なんでまだこの町にいる! 」
「なんでって、ここが私の家だからだ。それよりも……そこの神は大丈夫なのか」
「どういう意味だ? 」
月野和はなんだか、意味深な言い方をする。
「そこの神社に入れないのを見ていた」
「……入れなくなってる理由がわかるのか? 」
「あぁ、これはどう見ても神の力の暴走じゃないか」
「暴走? 」
「あぁ、何らかの影響が起こって神の力が暴走している。しかし、その棒大な力を神の体に収めきれない時、力は社に行く」
「つまり、神社はその状態だと」
しかし、神の力の暴走はどれほどのものなのだろうか。
神社に入れないくらいなら、そこまで支障はないが……
「渚、神の力はどれほどの力があると思うか? 」
「それは……神個人で変わるのでは」
「まぁ、正解だ。だがな神の力には本来上限がない。我々人間に上限があるのはな、神が作り出したからなんだ。しかし、神は頂点の存在、上限がない。だが、それを縛ることはできる」
「名前や場所……」
「そうだ。しかし、神の暴走は別だ。もしかしたら、上限なく増え続けるかもしれない」
「しかし、秋は名前と場所で……」
いや、だめだ、と月野和は言う。
「そこの神は縛られていても、神社は名前すら無い薄い縛りだ。そしてな……」
月野和は少し言葉を溜める。
「神の権限というのは、力関係に依存する」
「……どういうことじゃ? 」
秋はピンと来ていないようだが、
「つまり、今一番神の力が溜まっているのは神社だから……秋に神の権限はない」
「そういうことだ。権限……わかりやすく神パワーと思ってくれ。それが無いということは……」
非現実的な象徴、神様。
現実離れした現実。
神様と仲良く暮らす町。
「……分かりやすく言って欲しいのじゃ」
「つまり……」
僕は突きつけられた現実を言葉にする。
「今の秋は……人間と変わり無いんだ」
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