第44話 御見舞い (秋視点)


 この話は、秋の視点となっています。




 ーーーーーーーーーーーーーーー


「渚の家に行くのは、初めてだな」


 放課後、わらわ達は家には帰らずそのまま渚の家へと向かっていた。


「梓も秋様も行ったことないの? 」


 結殿が聞いてきた。


「ないわね」

「わらわもないのじゃ」

「というか、渚がどうしてこの町へ来たかも知らないしな」

「確かに、知らないわね」

「渚君のことだから、非現実なものが見たかった……的なポエティックな感じっぽい気がする」



 そう言えば、初めて渚と会った時……。

 わらわは思い出す。

 初めて会ったのは神社じゃった。

 あやつは何か悩んでいた。

 確か、人間関係が……とか。


「ん、秋様どうしたんだ? 何か知ってたりするのか? 」

「え、い、いやなんでもないのじゃ」


 それから少しして、渚の家に着いた。

 わらわは余り人間の住居についてよく分からないが、一般的な一軒家じゃった。


 ピーンポーン


 梓がインターホンを鳴らす。


「俺、透明人間になったら一度ピンポンダッシュしてみたいんだよ」

「それダッシュする必要あるの……? 」


 的確なツッコミに場が静まる。


「はい……」


 インターホン越しに渚の声が聞こえた。

 両親などはいないのじゃろうか。


「渚かしら、皆でお見舞いに来たのよ」

「そ、そっか。皆ありがとう」

「差し入れを持ってきたから、ちょっとだけお邪魔してもいいかしら? 」

「分かった。ちょっとまっててくれる? 」

「分かったわ」


 そして、数分後。


「入っていいよ」


 わらわ達は、渚の家の中に足を踏み入れた。

 それから、渚の部屋へと招かれた。


「渚、はいこれ」

「梓、これは? 」

「お母様に渚の家に行くことを伝えたら、お菓子を渡されてね」

「これ高級なやつじゃないですか。何か光沢が輝き過ぎて食べたら無敵になる気がします梓様」

「何だか、お母様は渚を気に入ったみたいでね」

「俺からは、これだ渚」


 咲斗は、渚に何やら封筒を渡す。


「おっと渚、開けるのは皆がいなくなってからだ」

「えっと、どういう……」

「そりゃ、風邪ひいたら、溜まるものも溜まるし……ぐわぁっ」


 渚が中にある本を咲斗にぶつけた。


「変態」

「結、男は皆変態なんだぞ! 」

「僕を巻き込まないでくれ」

「渚まで! 折角お前の好みに合いそうなものを選んだのに」

「渚の好み……気になるわね」


 梓が落ちた本を手に取る。


「『驚異の胸囲 私のドレスを脱がさないで 2』」


「あっ」

「オチまで見えたのじゃ」


 開始の合図が聞こえた気がした。


「そうか、君はやっぱり大きな胸の女性の方が好みなのね……」

「梓さん……? 」


 渚の言葉は梓の耳に入らない。


「そうか? わらわ的に胸なんてただ肩が痛くなるだけの物だとおもうのじゃが。のう渚……」


 わらわはそう言って、胸の部分を少しめくって、渚に見せる。


「渚……」


 数分後。


「ナイチチバンザーイ ナイチチバンザーイ ナイチチバンザーイ……」


 渚が機械化していた。


「秋様、今のうちに渚の家を探検しようぜ」

「咲斗にしてはいい意見じゃな」


 わらわと咲斗は、部屋を飛び出した。


「エロ本見つけるのじゃ! 」


 とりあえず書斎から。


「何だかまじめな本しか無いな」

「渚らしいのじゃ」

「だが、俺は渚はエロ本を持っていると思うんだ」

「その自信はどうしてじゃ? 」

「俺が持ってるからだ! 」

「何とも救い難いの」


 それからもう少し探したが、お目当ての本は見つから無かった。

 次に向かったのは、渚の部屋の隣の部屋。

 咲斗とわらわは扉を開けて中に入った。

 しかし、そこには……。


「仏壇? 」

「そうっぽいの」

「この写真……」


 咲斗が一つの写真を手に取る。


「両親っぽいな」

「二人ともの仏壇ってことかの」


「ってことは、親戚もいないみたいだし、渚は一人暮らししてた……ってことか」

「そうじゃな」

「しょうがねぇ、そろそろ戻るか」


 咲斗がそう言った瞬間、


 ガラッ


「「あ」」


 部屋に……渚が入ってきた。



「渚、どうしたのよ、いきなり隣の部屋に飛び出して……」


 遅れて梓、結殿と雪殿も入って来た。


「……あまり知られたくなかったんだけどね」


 渚は言う。


「ここに一人で住んでるのか? 」

「うん」


 咲斗の質問に、渚は短く答える。


「数年前にさ、僕の両親は二人とも交通事故で亡くなったんだ。その時、幸運と不幸があったんだ。幸運は、自分で言うのもあれだけど、親にそれなりの財力があったこと。不幸は引き取ってくれる親戚がいなかったこと」


 渚以外誰も口を開かない。

 だって、渚の弱いところを見たことあるのは、多分わらわだけだからじゃ。


「だから高校生になって、施設から抜けて一人暮らしを始めたんだ」


 渚はそこで話を区切ったけれども、まだ人間関係問題と言うのを話していない。

 その笑顔は嘘っぽかった。



「分かったわ」

「梓、分かったって? 」


「一人暮らしだと体調悪いんだから色々大変でしょう? だから私が泊まり込みで看病してあげるわ」

「……はい? 」

「わらわも賛成じゃ。ただし、わらわも一緒ならばじゃが」

「じゃあ、決定ね」

「あのー? 」


 もうこうなったら止まらない。


「じゃあ、私はお泊まり用の道具を持ってくるわ」

「俺達はお邪魔みたいだし、帰るか」

「そうね」

「そうですわね」

「あのーー! 」


 というわけで、半ば強制的にわらわ達は同棲することになった。

 わらわは、皆が帰った後、渚が部屋に戻ってくる前に渚の部屋を捜索することにした。


「ベッドの下! ってここは古典的すぎるじゃろうか……ん、これは」


 わらわは、手に当たった薄い本を手に取る。

 そう、それはボロボロの本で……


『驚異の胸囲 ドレスを脱がさないで 2』


「……愛読書じゃったか」

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