第23話 人生の大事なことは、大体本に書いてある
「うーん、うーーーん、うーーーーーーん」
悩むこと1時間といった所だろうか、僕は最近御用達になってきている古本屋へとやってきていた。
来た理由は至極真っ当で、みよちゃんの正体が何なのか調べる為に、この町の神様の本を探しに来ていた。
しかし、今の所特に成果は得られていない。
時間だけが過ぎていく。
多分焦っている。
冷静に思考が出来ていない。
だからさっきR18コーナーにも何も気にせずに入っしまった。
問題はR18コーナーに入りたいというよりは18歳以下であるという所なのだが。
僕は今見ていた本を本棚に戻して、隣の本を取り出す。
すると、
「君、うちは図書館じゃないんだけど? 」
「……あぁ、すみません」
いつもの店員のお姉さんに、悪態をつくことも出来てなかった。
「君、何だか今日はやけに素直だね」
同じ台詞を最近言った気がする。
僕は何も答えずに本を棚に戻して、隣の本を取出す。
「……何かあったみたいだけど、ほら、お姉さんに話してみなよ。少し楽になるかもよ」
風早さんとは少し違う大人感を感じる。
飴と鞭というか……
「僕は身の丈に合ってない事をしようとしてるんです」
「青春だね」
「ええ、だから僕は青春が嫌いなんです」
「……青春っぽい」
「そう言われるのも嫌いです」
すると、お姉さんは僕が今読んでいる本の隣の本を取出して、中をパラパラ見始める。
「……何してるんですか?」
「私も手伝ってあげようと思って」
「……僕が何を探してるか分かっていますか?」
「あ! わかんないや」
そんな事だろうと思った。
だけど……、
人とはこんな簡単に救済しようとするものなのだろうか。
「そのですね……」
気づいたら僕は、事の経緯を話していた。
飴と鞭で、鞭の大人に会ったあと飴の大人に出会ったから……だと信じたい。
一人でやるって決意した1時間後には、誰かの手を借りようとしている。
屑と呼ばれる人間がこの世に存在しているのならそれは僕のことらしい。
僕はお姉さんに連れられて、レジの奥の倉庫へと入る。
中へ足を進めると、沢山の本の独特な匂いとホコリ塗れの視界が僕を迎える。
「神様の話とか、町の古い話ならここに積んであるのを見てくれれば良いわ」
そう言ってお姉さんは、雑に古めかしい本が重ねられているのを指さした。
僕はそのうちの一つを手に取り、中を開く。
お姉さんも、僕が選んだ本の下にあった本を一つ開いて、倉庫に何故か一つあるソファに座った。
「そのソファは? 」
どう見ても、そのソファだけ清潔さが違う。
元々あった物とかではないだろう。
「勝手に買ったのよ」
「……大丈夫なんですか? 」
「まぁ、一応父の店だけど、普段から居ないしね。問題ないわよ」
そう言ったお姉さんはソファの背もたれに思いっきり体重を預けて本を開く。
「神様ねぇ……。ねぇ、君は神様って信じてる? 」
「神様がいる町でそんな事を聞かれましても……」
「えー、こういう話題が都会では流行ってるんじゃないの? 」
「時代は移り変わるんです」
「じゃあ、宇宙人って信じてる? 」
「信じてません」
「つまんない回答。それで理由は? 」
「だって信じてない方が、出会った時に面白いじゃないですか」
「……君はひねくれ過ぎ」
お姉さんは本を閉じて、新しい本を取る。
「世の中が真っ直ぐ過ぎるんです」
「へぇ、捻くれ者って大体全部、世の中が、社会が悪いって言うと思ってたんだけど」
「世の中色々ありますけど、存在を保ってる時点で健全ですよ」
「……ふーん」
そんな感じで、1時間? くらいだろうか、二人でいくつも本を読み漁ったが、特に情報は得られなかった。
だけれど、僕は手をとめずに次の本を手に取ろうとするが、あんなに積んであった本の山も、いつの間にか消えていた。
僕は何か残っていないかと、周りを探す。
すると、奥の方に同じように古い本が積んであるのを見つけた。
「これはなんですか? 」
「あー、それは多分古い妖怪の本だよ」
少し遠くから、ソファに座ったままのお姉さんの声が聞こえる。
とりあえず、1冊手に取って、お姉さんの元へ戻った。
「それはね、妖怪について詳しく書かれた本なんだけど、マニア向けに売れないかなぁと思ってたら、いわゆる妖魔本ってやつでね……」
「妖魔本……? 」
「妖怪が封印されてるとかなんとか、まぁ、いわく付きの本ってことかな」
「……開いてもいいですか? 」
「チャレンジャーだね、いいよ。多分大丈夫、いや、きっと、そうなる」
「非断定系ですけど……」
僕は、それでも好奇心を抑えきれずに本を開いた。
そこには、沢山の妖怪の絵が書かれていた。
いわゆる百鬼夜行というやつの絵だろうか。
ちなみに、妖怪は出てこなかった。
「妖怪の図鑑っぽいわね」
お姉さんは言う。
僕はそのままページをめくり続ける。
「どれも、メジャーな妖怪ばかりですね。数もそんなにないし」
「そりゃあ、この町限定の本だからよ」
「え、? どうして分かるんですか? 」
「そりゃあだって、あとがきに書いてあるじゃない…………あっ……」
「……この本、開いたことあるんですね」
「その、……興味本位で……」
はぁ……、
僕は聞こえたかも分からないほど小さなため息をして、またページをめくる。
すると、そのページには沢山の食器やら、物が歩いて行進をしていた。
百鬼夜行……歩いているのは、九十九神か。
「九十九神、付喪神、……うーん? 」
「九十九神がどうかしたの? 」
「いえ、妖怪なのに神様って付くんだなぁって」
「神も妖怪も変わらないわよ」
「凄い暴論ですね」
流石にそろそろ帰ろうと窓の外を見ると、もう真っ暗だった。
その前に、さっきの本を片付けようと本を重ねて持っていくと、何やら分厚い本の間から、栞の様なものが落ちた。
拾う前に、どうしても夜遅いのに連絡してないのが心配になってきたので携帯のマナーモードを切る。
すると、切った瞬間に電話のコール音が響く。
勿論梓からだ。
みよちゃんの件で僕と梓、そして秋は半ば同棲のような生活をしている。
しかし、踏み込むのを拒む僕は、出来るだけ家にいないようにしているせいで、あまり関われていない。
「もしもし、渚かしら」
「あぁ、」
「それで、どこにいるのかしら? 」
「えーっと、本屋にいて……」
「分かったわ。待ってるわね」
「……追求しないのか? しかも、神輿の件も手伝わないで本屋にいってるのに……」
「あなたがそうするなら、何か理由があるのでしょう? 夫を縛りすぎるのも妻としては良くないわ」
「僕は夫じゃない! 」
「今の所はね」
若干の恐怖を覚えつつもこれが梓の優しさ何だなと再認識する。
しかし、これ以上心配をかけさせるわけにも行かないし、僕はこっそり落ちた栞を手に取って、お姉さんに礼を言い、店から出た。
暗い夜道の中、街灯の下で栞に書かれた文字を読むと、
『やっと……みよが完成した! これで今年の祭りは派手になるぞ! 』
そう、書かれていた。
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