第20話 逢坂探検隊 報告会

「つまり、特に手がかりは無かったと……」


 僕は部屋の真ん中で、ため息を着くかのように、その言葉を発した。

 僕達、逢坂渚探検隊は梓の家で各班の成果を報告しあっている所だった。


 しかし、僕達男班は特に成果を得られなかったし、特に女班の方では……


「元はと言えば、あなたが町人にご飯をねだるからでしょうに!」

「元はと言えば神輿もお祭りをやる神社もわらわのものじゃぞ! 敬うのは当たり前であろう」

「いえ、秋様は全ての町人から貰うまで帰らないと豪語していたわ!」

「何じゃ、梓だって町にいた男子生徒から何か貰っていたのじゃないか!」



 梓と秋が言い争いという名の罪のなすり付けあいをしているのを、今回の被害者である小森さんと水瀬さんが冷たい目で見ていた。


 町を歩くだけで何が貰える人達……そりゃあ性格がねじ曲がっても仕方ないとは思った。

 デフォルトのステータスだけは高いメンツなのだが……



「私は何も貰ってないし……水瀬は地味に喫茶店の常連さんに妙に好かれてるし……」


 小森さんは愚痴をこぼす。

 貰えてる方が特殊だと思うけど……しょうがない、


「咲斗、こういう時はお前が慰めてやれ」


 僕は咲斗に声をかけて、背中を押す。


「え? あ、あぁ」


 咲斗は小森さんのそばへ寄る。


「結」

「何よ? 咲斗」

「確かに魅力ではそこの三人に負けてるかもしれない! 特に胸とか……でも俺はお前の魅力をちゃんと知っ……ぐはっ、!」


 咲斗は小森さんの後ろ回し蹴りを喰らって吹っ飛んだ。

 多分致命傷。



「こんな世界なんて滅べばいいのに……」


 小森さんは、吹き飛ばされ向かいの壁にめり込んだ咲斗を見て、溜息混じりに言った。



「『明日世界が滅べばいい』なんて待ちの姿勢でいるから駄目なのよ。自分から滅ぼしに行かないと」

「お、おい、そんな危ないものを持ってこっちへ来るでない! ひえぇ! 神殺し!」


 僕と小森さんは、その秋の言葉の後に聞こえた悲鳴に、文字通り震えた。





「そう言えば、みよちゃんは? 」


 そういえば、さっきからみよちゃんの姿が見当たらない。


「うーん、さっき外に出ていったのを見た気がするけど……」

「……分かった。ちょっと見てくる」

「りょーかい」



 僕は部屋から出て、庭の方へと向かう。

 長い廊下を歩いていると、ここが豪邸だということを再認識する。


 庭へ出ると、予想通り庭も広々としていた。

 もう外は暗い時間ではあるので、気をつけないと転倒してしまいそうだ。


 すると、言った側から足を踏み外して、僕は前方向に倒れてしまった。


 しかし、幸運な事に前は芝生で作られた場所だったので怪我は特に無かった。

 まぁ、足を打って半分涙目になってる事を除けば、なんてことは無い。

 僕が涙目の目を誰もいないのに必死に隠そうとしていると、後ろからこんな声がした。


「何やってるのよ。これだから人間ってやつは愚かで救い難いのよ」

「それは僕の台詞……じゃなかったな」


 そう言って僕を文字通り上から見下してきたのは、そう、幼女神様のみよちゃんだった。


「それで、何をしてるのよ? 」

「見てわからないか? 」

「そうね、芝生に口付けをしてる男子高校生を見てね……地球という存在に興奮する特殊性癖の持ち主……ってとこかしら」

「酷い!」

「じゃあ、何かしら?」

「転けたんだ」

「つまらない回答ね」

「現実なんてそんなもんさ」


 みよちゃんはなんとも言えない表情を浮かべる。


「……ほら、いつまでそうしてるのよ」


 みよちゃんはそう言って、手を差し出す。

 ツンツンしてたのに、いきなり優しさを出すのはずるいと思う。

 僕も手を出して、みよちゃんの手をギュッと握る。


「よいしょっと」


 みよちゃんに手助けされて僕は立ち上がった。


「ありがとう」


「別に、礼なんて言われるまでもないわ」


 やっぱりツンツンしているのは変わらないらしい。


「とりあえず、そこら辺の座れるとこに行こうか」

「……戻らないの? 」

「折角今来たんだから、戻っちゃ意味ない」

「そう……」


 僕とみよちゃんは少し歩いて、座れそうな木製の長椅子に腰をかけた。


 みよちゃんも隣に座ってくれはしたのだが、どちらも話すことがなくて微妙な雰囲気が漂う。

 僕は不意に初期の頃の学校生活を思い出した。



 すると、みよちゃんは着物の袖口から金色の髪飾りを取り出した。


 だけど、みよちゃんは髪飾りなんてしていなかった気がするけれど……


「それ」


 僕は髪飾りを見て言う。


「これ、入ってたの。ずっと」

「……付けないのか? 」

「だって、私のものか分からないもの」

「でも、君の懐にずっと入ってたんでしょ」

「私は私になる前の記憶が無いのよ。神様になる前のね。だから、私は記憶の蓄積がない。それはね、弱い事なのよ」


「弱い? 」

「ええ、だって知は力だもの。あなたもそうでしょう? 」

「僕は正義だと思ってるけど、力だとは思ってない」

「……何が違うのよ? 」

「正義は弱くなきゃいけないんだ。だから正義は力を持ってしまえば正義じゃなくなる」


 だからこそ、正義を掲げる聖人達は力を持つことを嫌う。

 権力を放棄する。


「知は力じゃないなら何かしらね」


「うーん、防御ってところかな」

「防御? 」

「あぁ、無知は罪だけど、知識が多いからといって罪を免れる免罪符なわけじゃない。ただの予防線だ」


「……あなたは大人みたいと思っていたけど、違ったわね。子供の社会への反感の具現化みたい。いえ、貶してるわけではないわ。珍しく褒めてるの」


 子供の社会への反感の具現化って……

 ただの反抗期じゃないか。


「子供心ってこと? 」

「まぁ、そうね。でもね悪いとは思わないわ。そして、子供心が死んだ時、その死体を大人と言うのよ」

「大人は死体ですか」


 凄い表現だ。


「でもね、その大人が死んだ時、大人は子供に戻れるの」



 みよちゃんはそう言った後、髪飾りをしまった。



 見た目的に子供っぽいのは神様の方だけど、神様から見れば僕達は子供なのだろうか。

 達観した者の視界というのに少し興味はある。


 まぁ、でも今日のみよちゃんは少し素直になってくれた気がする。

 少しはみよちゃんと打ち解けられたのかな……


「ほら、流石にそろそろ行きましょう。遅くなると皆心配するわ」

「そうだね……戻ろうか」


 そうして、僕とみよちゃんは立ち上がった。

 そして、皆の所まで戻ったのだが……



「ねぇ、渚……? 」


 玄関で、僕は目の前にいる美少女に、そんな言葉を言われた。

 いや、その美少女は僕の彼女であるところの梓だった。


「どこへ行っていたのかしら……? 」


 梓の目は笑っていない。


「いや、外の空気を少し……」


 ザスッ!


 そんな音がした後、僕の背後には包丁が刃渡り半分ほどまでくい込んでいた。

 梓はそれを片手で引き抜くと、刃こぼれを気にする。


「え、えーっと、渚お兄さんはお忙しいみたいなので、お先に失礼するわ……おやすみなさい」


 そう言って、みよちゃんは逃げるように寝室へと向かった。


「渚、……今夜は長い夜になりそうね」


 僕は、今泣いていいのだと思った。

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