32
「山口って佐山さんと仲良いの?」
「え? なんでそんなこと気になる?」
「いや、昨日さ、下駄箱で話してるの見かけたからさ。」
「あ、そうなの? 仲良いよ。アイツもバスケ部だからさ、一緒にバスケしたり。」
「え? バスケって男女混合なの? 女子バスケとかあるでしょ?」
「あるけど、佐山は背が高いし、バスケも上手かったからさ。普通に俺たちと一緒に試合してたよ。」
「へぇ。あのさ、噂だと先輩の誰かと付き合ってるって聞いたことあるんだけど、分かる?」
「そんなことないと思うけどな。だって俺がいた時は佐藤と付き合ってたしさ。」
「え? そうなの?」
「俺も辞めてからのことはあんま知らんし。てか、なんで気になるん? もしかしてアレだろ?」
「アレって? 別にアレじゃないけどさ。なんか最近よく見るっていうかね? なんか……」
「いいよ! いいよ! 俺からも色々聞いとくからさ! 付き合ってなかったら教えるよ。」
「うーん。じゃ、まぁ、別にアレじゃないけど、分かったら教えてね。」
「ははは! 聞いとくわ!」
てか、今彼氏がどうこう聞くのまずいんじゃないか? 噂が本当だったら大変だ。変なこと頼んじゃったかもしれない。山口はなんか、勘違いしてるしさ。
「あ! そういえば今度さ! みんなで回転寿司行くことになったんだけど、来ない?」
「行けると思う。てか、いつそんな話してたの?」
「ケータイで連絡取り合ってたんだけど、青木は持ってないじゃん? それで誰かが誘うことになってたんだよ。」
「いつ頃? 俺はいつでもいいけど。」
「うーん。今度の日曜かな? 昼ご飯だから、時間ちょっと早めになるけど、青木は大丈夫だよね?」
「うん。どこの寿司屋? この辺り有ったっけ?」
「国道沿いにあるの分かる? 一度目立つ場所に集まることになってるから分からなくても大丈夫だろうけど、遅れちゃった時のためにさ?」
「あぁ、なんとなく分かると思う。あれ? 二つなかったっけ?」
「今は一つになってるよ。片方はペットショップになっちゃってる。」
「へぇー。」
詳しい時間などを聞いた。バスは通ってないだろうから自転車で行くことになるんだろう。だが、今の俺はもう完全に乗れる。暇な時は遠くの方まで目的もなく走って行くこともある。
その後授業中に、山口から時間などが書かれたメモを回された。これはありがたい。これなら忘れることなく、寿司屋に行けるだろう。ついでに山口の携帯の番号も書いてあった。そういえば知らなかったな。
「最近走ってない? やっぱり塾、忙しい?」
「それもあるんだけどさ。寒すぎて外に出れないんだよね。暖房の部屋が快適すぎる。」
「ははは。それ分かるなぁ。なんか、雨も多くなってきたし、土手だと足元がガタついてることもあるからら、僕もコース変えたしね。」
「たまぁに行っても会えなかったのはそれがあるのか。」
「早く冬終わんないかなぁ。風邪も流行ってるみたいだしさ、ちょっと冬、嫌だな。」
「白木くんのクラスでも休んでる人いるんだ。」
「まぁ、でも、なんていうかな。」
「ん? どうしたの?」
「昨日さ、あの、クラスの女子がずぶ濡れで入ってきてさ、僕もびっくりしたんだけど、みんなもびっくりしてさ。それから保健室に行かせたんだけど、早退せずに教室に戻ってきてね? もちろん服は着替えてたんだけど、それでも寒そうだった。」
「それって佐山さん?」
「そう。やっぱり噂になってたんだね。ちょっとホラーだったもん。入ってきた瞬間は。」
「へぇ。佐山さんは今日休んでるってこと?」
「うん。そりゃ風邪ひくよ。あんなにびしょ濡れだったらさ。」
そりゃそうか。今日は休むに決まってるよな。
もちろん噂は噂だ。俺はその先輩とやらに何をされたわけでもないし、何かをしたところを見たわけでもない。でも、なんだろうか、なんか、俺、その人めっちゃ嫌いになってるんだけど! どうしよう! はぁー、むかつく! あり得ないだろ、マジで。外寒いもん。廊下に出るだけで寒いのに、これを外で、濡れたまま? あり得ん。
これは俺が佐山さんに特別な感情を抱いているからじゃなくて、義憤で燃えてる。うぉぉぉー。
「え? 彼氏今いないって?」
教室から帰ってくると山口が話しかけてくる。どうやら今は彼氏がいないらしいが、いないのにどうやって聞いたんだろう。
「今日休みじゃないの? どうやって聞いた?」
「休んでるからか、すぐ返信きたわ。なんか風邪ひいたらしいね。」
「あ、まぁ、ありがと。いないのかぁ。」
「これで俺も応援できるわ、頑張れよマジで! 佐山は気が強いからさ、結構大変だぞ!」
「あの、バスケ部に亀井って人いた?」
「カメちゃん? いるよ。懐かしいなぁ。でも……なんで知ってんの? もしかして知り合い?」
「いや、佐山さんと付き合ってるって噂聞いたからさ、それで気になって。」
「へぇ。まぁ、あの二人仲良いからそんな噂立つのも分かるな。」
「付き合ってたとかはありえる?」
「ありえはするけど、ほぼありえないよ。カメちゃんずっと彼女いるから。しかも、めちゃくちゃラブラブだったし、今もツーショットの写真がアイコンになってるしね。」
「へぇ。」
ん? どういうことだ? 彼氏はいないし、先輩とも付き合ってない。となると、どうなるんだろう。俺が噂に踊らされただけかな。でも、そうなるとなんで傘持ってこなかったんだろ。
よく分からん。これはもう俺がどうこうするようなことじゃないんだろうな。でも気になる! 亀井さんが浮気してるとか? それとも、ラブラブだった彼女と別れて、佐山さんと付き合ったとか? なんかよく分からん。
こんなに首突っ込むことじゃない。だからもういいかな。俺も自分の生活がある。大した生活じゃないけど。
はぁ。モヤモヤしたまま、何も分からないまま、忘れちゃうんだろうな。聞きたい。そりゃ聞きたいけど、流石に無理。うわぁ。気になる。
これは俺が佐山さんを好きだから気になってるのか、それともゴシップ的に気になっているのか分からない。根本的に好きかどうかも分からないんだからしょうがないか。
「ただいま……」
「おかえり! 元気ないね? もしかして、彼氏いた?」
「いや、いなかったらしいけど。うーん……この話もうおしまいにしない? なんか悪いことしてる気がしてきちゃった。」
「えぇ! そんなぁ。僕は今日ずっと佐山さんに彼氏がいるかどうかのことばっかり考えてたのに……」
「僕から調べたりするのはもう終わりにしたいです。もし告白するとしたら、そんなこと知らない方がいいと思うんで。」
「お、告白する?」
「分かんないですけどね。このモヤモヤの理由が単に気になってるからなのか、それとも……」
「好きだから?」
「……俺が佐山さんのこと好きだと思います?」
「うーん。好きなはずだけどね。」
「だって、何も知らない。」
「一目惚れって言葉もあるじゃん?」
「ずいぶん昔にした一目惚れを、未だにしてるってことですか?」
「難しいね。恋煩いだ。」
「とにかく、この話はなしにしましょう。疲れるんで。」
「はーい。しょうがないなぁ。」
好きってなんだよ! 青春すぎてキモくなってきた。ウザ! これはこれで嫌だな。昔に戻りたくなるなぁ。はぁ、嫌だな。めんどくさい。なんで自分の気持ちが分かんないんだろ。もっと明確だったらこんなことで悩むことないのに。
別に恋愛だけじゃないぞ! 将来のことだってまだなんも決まってないし、それに、やりたいことすらよく分かんない。これじゃ生きていけない! なんとかしないと。
恐ろしく面倒くさい人生。その一部を垣間見た気がする。これは序章だ。これからドンドン、他にも面倒くさいことがある。想像できるだけでも、就職や、結婚、子育てに、他に何かあるかな。介護とか? うわぁ。マジであんま考えたくない。でも考えたところでだな。
とにかくこの際好きでもなんでもいいや! 三年になるまで待とう。もっと佐山さんの人となりが分かってから考えよう。
今日も眠れなかった。はぁ、本当に面倒くさい。
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