26
学校で白木くんに久々に会った。せっかくなので夢を聞いてみる。
「白木くんって将来の夢とかあるの?」
「いきなりだね。うーん、ないかな。まだまだ先のことだからさ。」
「そうだよね。俺もさ、ないんだよね。中三にそろそろなるから、ちょっとね?」
「まぁ、でも普通にサラリーマンとかになるんじゃないかな?」
「白木くん足速いしさ、ランナーになったら?」
「でも、どうやったらなれるんだろうね。部活やってないとダメかな。」
「じゃ、高校からだね。」
クラスメイト達にも聞いてみよう!
「栞さんの将来の夢って何?」
「ウチ? 私は書店とか出版社とか、何か本に関わる仕事がしたいかなって。それぐらいじゃない? 全然具体的じゃないけどさ。」
「そ、そうなんだ。へぇ、やっぱり本がいい?」
「まぁね。他にもやりたいことはあるんだけどね。」
「山口は? 将来の夢。」
「俺は何か海外とかで仕事したいわ。アメリカンドリームとかを掴みたい!」
「海外で何すんの?」
「やっぱり、お店とかさ開きたいよね。それが無理だったらどうしようかな。」
「もし、海外で働くようになったら行くわ。」
「栞も森川も来てな?」
「森川は家継ぐの?」
「分かんね。俺東京行きたいからさ。普通に。」
「じゃあ東京で店開いたりとか。」
「まぁ、東京だな。そこでなんかするわ。」
そこそこ考えてるような感じ、上田さんが一番具体的だった。それぞれふわりと、やりたいことがあったみたいだけど、俺は一ミリも思いつかないな。
本も読み始めたのは最近だし、ランニングもあんまり得意ではない。親は何やってるかよく分からんけど、それの跡を継いだりとかできないかな。
「青木は何かある? 夢って。」
「ないんだよなぁ。何かそろそろ考えないとだけどさ。」
「ユウトってなんか将来ヤバそうだよね。一か八かみたいな顔してる。」
「なにそれ? どんな顔?」
「大富豪か、ホームレスかみたいな感じ。」
「富豪になるように頑張るよ。」
「ははは! 栞! そんなことないよ! 青木面白いからきっと上手くいくって!」
おじさんはニートであってホームレスではない。でも一応聞いてみようかな。
「うーーん。本当に一瞬だけだよ? 一瞬だけね?」
「そうだったんですね。まぁ、そんな驚かないですけどね。もう。」
「三日だけ! 三日間だけだから!」
「本当は何日なんですか?」
「うっ、五日間。五日だけだから!」
上田さんの読みは半分当たっていた。俺はホームレスになったことがあるらしい。でも五日ならいいか。いいのか?
「でも君は大丈夫なはず! 安心していいよ! 多分。」
「そんなことはいいんですよ。みんな結構将来のこととか考えててヤバいんですよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「白木くんも俺とおんなじ感じだったけど、高校から陸上で有名になるんですよね。ちょっとどうしよ。」
「いいんじゃない? なんとかなるよ。」
どうしようか悩んでいてもしょうがない。スーパーで夜ご飯の材料を買ってこよう。最近は自転車で行くようになったので、家でゆっくりする時間ができた。おじさんと話したりする機会も増えたりしたが、結局は読書をすることが多い。
「今日の夜さ、何が食べたい?」
「あ! それならお好み焼き食べようよ! せっかく洗ったんだしさ。」
「ちょっと調べてみるか。」
一言にお好み焼きと言っても色々あるらしい。キャベツを生地に混ぜて焼くものと薄い生地で具材を包むもの。調べると生地に混ぜた方が楽そうなのでそっちにした。
キャベツ、豚肉、あと長芋を買えば大体は出来るらしい。細かい青のりやかつお節などもあるから忘れないようにメモをしておこうかな。
長芋ってあったけど、すり下ろす道具がないな。摺り下ろしてあるものがあればいいけど。
「それじゃ行ってくるから、ホットプレート用意しておいてよ。」
「オッケー! いってらっしゃい!」
スーパーの駐輪場に自転車を止め、買い物カゴを持って中に入った。
メモを片手に材料を買い漁る。長芋が長いやつしかない。摺り下ろしのとろろみたいなやつがどうしても見つからないので、困りながら色々見て回っていると、弁当のコーナーで蕎麦の横にカップのとろろがあった。これでオッケーだ。玉ねぎなどの日常使いの野菜も買ってスーパーを後にした。
「ただいま。」
「おかえり! 準備できたよ、後は焼くだけだね。」
「いや、切ったりしないと、手伝ってくれる?」
「もちろんじゃん! やろうやろう!」
キャベツとかを混ぜて後は焼くだけになった。油を引いて、キッチンペーパーでそれを広げる。そこにお玉ですくった生地を適量、お皿に収まる円になるように入れる。
ジュージューと音がして、美味しそうな匂いがしてくる。おじさんはその生地の上に豚肉を乗せ、ひっくり返した時に鉄板で焼けるようにしている。
音の変化とかは分からないので時々フライ返しで裏を確認する。もちろん空いてるスペースに別のお好み焼きを作りながら。
確認しようとフライ返しを入れた時にその感触から焼けたことがわかった。念のため見てみると茶色い焼けた色になっている。ここからが大事だ。
お好み焼きの底の奥の方までしっかりと入れ込む。出来るだけ中心に力が行くように、入れてからも微調整を続けた。おじさんがじっと俺を見てるので、緊張する。
手を外側へ、クルリと回すと、お好み焼きが綺麗に、とは言えないがひっくり返った。はみ出してしまった肉を下に挟んだり、形を整えたりして、綺麗にする。
「案外出来るもんだな。」
「いやぁ、うまいね。あ、こっちも焼けてるみたいだけど。」
「おじさんもやりますか?」
「いや、そんなに上手いならこっちもやってよ。」
「分かりました。」
さっきと同じ要領でお好み焼きをひっくり返すと、今度はめちゃくちゃになってしまった。どうやらまだ熱が入り切っていなかったらしい。ちょっとショックでそこからはおじさんに任せることにした。
「焼けてるから、ソースとかかけちゃうよ。」
プレートの上でソースとマヨネーズそしてかつお節、青のりを乗っけて、よく見るようなお好み焼きになった。それを箸で切って、食べやすいように分けた。
さっきまで焼かれていたお好み焼きは熱い。口に運ぼうと唇につけると、火傷しそうになってしまう。それを覚ますために、ほんの少しだけふぅ〜と息を吹いた。
口に入れるとソースとマヨネーズの酸味のような香りが鼻にやって来た。それを噛むとキャベツのザクザクとした食感が未だ残っているのが分かる。ソースの強烈な味の後ろからついてくるように、生地や肉の味が口の中いっぱいに幸福感のように広がって行く。
長芋のおかげか、本当に柔らかい。噛んでる時にフワフワとするような感じが分かった。箸がお好み焼きを掴んでは口へと運んでいく。いつまでも熱々の美味しいお好み焼きが楽しめた。
「上手いっすね。熱いけど。」
「やってよかったなぁ。本当に。すごく楽しいね。」
お好み焼きがお腹に溜まって、ものすごい満腹感を覚えた。
足りないかと思って、焼きそばを用意していたのだが、必要がなかった。
「これ片付けんの大変ですね。どうしようかな。」
「僕がやっておくよ! 買い物は君にさせちゃったからね。」
「あ、どうも。じゃあ、テーブル綺麗にしときますね。」
「宿題とかあるんでしょ? 大丈夫! それもやっておくからさ!」
「でも拭かないと汚れちゃう。」
「あぁ、そっか。」
台所でおじさんがガチャガチャ音を立てて、ホットプレートを洗っている。結構めんどくさかったからありがたいな。しかし、美味しかったなぁ。コードの中の線が飛び出しているのがちょっと怖かったけど、味には関係ない。
今度やるときはちゃんとしたの買おうかな。あんまり高くないといいんだけど。
おじさんが服の肩の辺りに泡をつけたまま戻ってきた。指摘すると恥ずかしそうに手で泡をすくった。その泡を流すためにまた台所に戻って行ってしまう。あの泡が大変さを物語っている。やっぱり、やってもらえて良かったなぁ。
親が帰ってきた日から料理とかするようになった。そのおかげで料理の楽しさも大変さもちょっとだけ分かった。
おじさんがコーヒーを持って帰ってくる。それを飲みながら宿題を頑張ろう。
お腹にいっぱいになると眠くなるなぁ。おじさんが宿題も代わりにやってくれたらいいのになぁ。
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