25

 

 お正月も終わり、日常が段々と帰ってくる。それと一緒に塾が本格的に始まった。去年ぶりのみんなと顔を合わせると照れ臭いような気もするが、なんとなく嬉しい。


「あけおめ。年明け何してたぁ? ウチさぁ、寝ちゃってたんだよね。」

「あけおめ。俺は、テレビ見てたよ。それぐらいじゃないかな。」

「そうなん? 俺たちは家族でカウントダウンしてたけど普通しないの?」

「しないっしょ。流石にそれはヤバすぎ。」

「二人とも今年の目標とかある?」

「あぁ〜。ムズッ! でも来年受験だしさ。今年はなんもやる気ないなぁ。」

「色々あって一つには決められないなぁ。それそこ受験もあるし、時間を大事に使わないと!」


 なんか今から受験のことで頭がいっぱいになってる感があるな。俺も気にはしてるけどそこまでは考えてない。


「ユウトは何が目標? つか、目標なんてないよね。普通。」

「たしかにないなぁ。なんか考えとこうかな。」

「そういえば青木って趣味とかあるの? あんまりそんな話しないよね?」

「うーん。読書とランニングぐらいかな。趣味だけ見るとめちゃくちゃ健康的だな。」

「あ、そういえばあれ読んだ?」


 栞さんに本を借りること回数は減った。そのかわり自分でショッピングモールやら書店やらに行き、そこで買うようになっていった。それでもまだ借りていたりするので、たまに感想を聞かれるが、どうしても読めない本があったりするので困ってしまう。


「ごめん。まだ読めてない。なんかさ、どうしても読み進めれないんだよね。」

「分かる。まぁ、面白くなるの途中からだしね。別に無理に読めって言ってるわけじゃないからさ、無理だったら無理でいいよ。」

「いや、多分読めると思う。でも……ちょっと時間かかるかも。」

「別にいつでもいいよ。もう誰も読んでないからさウチでは。」


 それからも山口達とそこそこ話してから別れた。いつ服を買いに行くかの具体的な日程も決まってきて、本当に買いに行くんだなと思ったが、実感は湧かない。しかし、久しぶりに会うとなかなか話が弾むんだな。みんなも元気で良かった。そんなに時間経ってないからまぁ元気か。


「ただいま。」

「おかえり! どうだった? 塾さぁ、大変じゃない?」

「そこまでじゃないよ。別に。」

「そうなんだ。じゃあさ。ちょっと手伝ってくれない?」

「いいけど何を?」

「そんな難しいことじゃないよ!」


 おじさんについて行くと部屋のふすまの中から物が溢れ出していた。その中でホットプレートを指差し、洗おうと言ってきた。


「なんで、こんな物引っ張り出してきたんですか?」

「いやぁ、食べたくたい? お好み焼き? 僕好きだったんだよなぁ。」

「食べたいですけど、こんなに散らかしたら大変じゃないですか。」

「もちろん仕舞うのは僕がやるよ。でもホットプレートさ、さっき見たら箱に入れてたもののホコリが被っててね? それを払ってくれない?」

「まぁ、洗うってことですか?」

「ホコリ付いたまま水洗いしたらダメだよ? まず取ってから。」

「分かりました。やっときます。」


 ビニールの袋からホットプレートを取り出して見ると、けっこう汚れている。これを洗っても使えないような気もするな。コードは中の線が飛び出してしまっているし、危ないと思う。


「あの、これ結構古いですけど、大丈夫ですかね?」

「え、ダメかな。多分大丈夫だけどね。」

「そうなんですか? ちょっと怖いなぁ。」

「だって僕が……未来でもやったことあるしさ。」

「へぇ、それなら多分、大丈夫ですね。綺麗にしときます。」


 持ち上げてベランダに出て行く。適当にはたいたり、色々したら一応綺麗になったので、部屋に戻り水洗いをする。

 鉄板を取り出してごちゃごちゃと洗っていると、キッチンで暴れたように、シンクにぶつかっている。

 はぁー、めんどくさ。そこまでお好み焼き食べたいとは思わないなぁ。難しくはないかもしれないけど、めんどい。


「一応終わりましたよ。これでいいですかね。」

「え! ちょっと待ってねーそっち行くから……うん、どれどれ……なかなか綺麗じゃん! これで今日はお好み焼きだね!」

「材料とか無いですよね。何買えばいいかも分からないし、どうしようかな。」

「じゃあ、これでいつでもお好み焼きが出来るようになったってことで、じゃあおつかれ! コーヒーとか飲む?」


 そういうとお湯を沸かし始めた。まだ水滴を拭いてないからどこにもおけないんだけど。まぁいいか、お好み焼きを楽しみにしておこう。


「砂糖無かったのか……せっかくなら欲しかったけどいいや。」

「なんでいきなりお好み焼きだったんですか? 今日テレビで見たとか?」

「いや、寒くなってきてね。鍋とかやりたいなぁって思ってたらふとそれのこと思い出しちゃってね? それだけだよ。」

「ふーん。」


 時間があるから色々と考えるんだろう。コーヒーをすすりながら何となくテレビをつける。


「君の将来の夢は何かなぁ〜? みんなに教えてくれる?」


 アナウンサーが来年小学生になる子供に話を聞いている。その子が何を言うのか気になったので、チャンネルを変えずにいるとサッカー選手と答えた。


「君の将来の夢は? せっかくだから教えてよ。」

「え、俺ですか……決まって無いですね。」

「うんうん。そうだよね。でもこれは本当に決めといた方がいいからね? マジ!」

「決まって無いとニートになりますか?」

「うっ、みんながみんなそうなるかは分かんないけど、君の場合はなったね。」

「はぁ、でも何も思いつかないな、何がいいと思います?」

「それは自分で考え無いと!」

「だから聞いてみたんですけど、ダメですかね? なんかヒントとかくれないですか?」

「そんな、クイズじゃないんだからさ。正解とかないよ。やりたい事が将来の夢でしょ。」


 困った困った。幼稚園でも紙に何回も書かされた覚えがある。その時にも困っていた。最終的にどうしても書かないといけない時には、隣の子の夢をパクった。

 俺は今までスポーツをまともにやったことがないし、何か大好きな物があると言うわけでもない。ずっと夢なんて持たずにここまできてしまった。それじゃあいけない年になって来てるんだろう、十年後には俺も社会人だ。多分。


「どんなことをやりたいか、じゃなくてね。どんなことが得意かを考えるといいよ。」

「得意なこともそんなにないですけどね。」

「やりたいことって仕事にならないから。普通はね。そもそもそんな職業なかったりとかさ。」

「俺に出来ることってなんですかね。」

「それはこれから作っていけばいいじゃん! まだそんなに若いんだからさ! 今からならミュージシャンにでも小説家にでもなれるよ!」

「でも、サッカーの選手とか、野球選手とか、なれないようなのもありますよね。」

「たしかにね。まぁでも、だからこそやりたいことじゃなくて得意なことを作っていけばいいんじゃない?」


 何か深いようなことを言ってるけど、就活とかしたことあるのかな。でも何か将来について考えなければいけないのはたしかだし、このままで良いとは俺も思ってない。

 今度みんなに聞いてみようかな。そんなことを聞くのちょっと恥ずかしいけどみんな優しいからちゃんと答えてくれるはず。


 小説家になろうかな。それともミュージシャン? それから意外な才能が見つかって野球選手になったりとか、後はマラソンで世界記録を作ったり、それから株で成功して億万長者とかね。よく分からないけど何かを作る社長になったりとか、俺も知らない大富豪の親戚がいたりとか。


 どれもこれもバカらしいが、考えている時間は楽しかった。


 本当の自分の人生より、楽しい。

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