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「じゃあ明日、駅前のカフェで待ち合わせな!」
山口と服を買うことになった。待ち合わせ場所はカフェ、服を買うだけでも恐ろしいのにカフェにまで行くことになるとは。明日が来ないでほしい。ちょっと楽しみではあるけど。
「あの、後で待ち合わせの人が来るので、カウンターじゃなくてもいいですか?」
「はい。それでしたらこちらのテーブル席の方でお待ち下さい。」
思ったよりはお洒落ではなかったが、それでもカフェだ。チェーン店だったこともあって、老若男女いろいろな人がコーヒーやら軽食やらを楽しんでいる。まだお昼には時間も早いので、ブランチと言ったところだろうか。
とりあえずブラックのコーヒーを頼んでみたが、風味がインスタントとは比べ物にならない。別の飲み物を飲んでるみたいだ。
食事も取ろうかと迷ったが、もう一度店員さんを呼ぶのがなんとなく躊躇われたので、やめといた。
もうカップの半分を飲んだ。早めに来てたので、まだ来ないのは仕方ない。だが、落ち着くはずのカフェでも俺にとってはそうじゃなかった。時間の進みがゆっくりに感じて、山口が遅れているんじゃないかと時計を何度も見てしまう。
背を後ろに伸ばさないと見えない場所に時計はあるので、怪しい人みたいになってるかもしれない。そんなことを考えながら時計の針を見ていると声を掛けられた。
「お、早いね! 待った?」
「いや、そんなに待ってないよ。」
「でもコーヒーめちゃ減ってるよ。なんか悪いね? もう行こっか?」
「すこしゆっくりしてったら? コーヒーまだ半分あるしさ。」
「じゃ、コーラでも飲もうかな。すみませーん。」
来たコーラは思ったより小さかった。なので、待たせないようにコーヒーを飲むペースを早める。お互い同じくらいのタイミングで飲み終わったので、お会計を払った。
「あ! それいつの間に買ったの!?」
「本とか買いによく行くようになったから、あったほうが便利かなって。」
「へぇー、ちゃんと買えるようになったか確かめようと思ってたけど、そこまでいってるか。」
切符ではなくてカードで払う。これなんでタッチするだけでいいんだろう? 技術の進歩はよく分からない。山口も同じようにタッチで改札を通る。前も使ってたっけ?
「俺さ、服とか自分で買ったことないんだけど、どうやって選ぶもんなの?」
「そうだなぁ。持ってる服と頭の中で合わせてみたりとか、でも別にそんな、気に入った服買えばいいだけだからさ。」
改めて山口の服を見てみると明らかに親が買った服ではないことが分かる。触ると気持ちよさそうなカーキ色のジャケットに、白になんか英文が書いてあるTシャツ。ズボンはすっとしていて、ダボダボしてない。サイズがぴったりだ。
「そのジャケットカッコいいよね。自分で買ったの?」
「森川とさ、一緒に行った時に似合うよって言われてね。」
「へぇ、でもちょっと寒そうじゃない? この季節だと。」
「だから買いに行くんでしょ! 誘ってくれてありがたいわ、マジで。」
「ダウンとか? 他に何があんだろ。」
「いうて俺も詳しくないから。森川が一番詳しいんだけどなぁ。」
ショッピングモールにつくと、山口に連れてかれて、マネキンが並ぶ店に入っていった。なんとなく、自分とは違う世界に思えてしまったが、山口はもうすでに何着か触って確かめている。
「ホントにこういうとこ来ることないからさ、なにすればいいか分かんないわ。」
「まぁまぁ、俺に任せとけって! 青木に似合うやつも沢山あるからさ。それでもしあれだったら、別のとこ行けば良いだけだしね。」
「そっか。じゃあ、気楽に選ぼうかな。」
「でも、着なかったら結構マジでもったいないから真剣に考えた方がいいぞ!」
「まぁ、とりあえず自分で選んでみようか。」
これからの季節は何がいいんだろう。やっぱりダウンとかなんかそこら辺かな。でもそれすら着たことないわ。
山口が似合ってるかどうかの確認をしてくる。似合ってるというと店員さんにサイズを聞いてから試着室へ向かった。どんな風になるのか興味があったので、前まで着いて行く。
「これどうかな? サイズはいいんだけど、地味かもな。」
「うーん。今着てる服と比べてみると、大分地味だね。」
「そうだよなぁ、すみません。これの色違いってあります?」
「こちらの棚にございますので持ってきましょうか?」
「それじゃ持ってきてください!」
すこし丈が短い、黒っぽい灰色のコートを試着してたけど、なんか似合ってるような、微妙なようなそんな感じだった。てっきり山口みたいな奴はどんな服でも似合うもんだと思ってたけど、そうでもないんだな。
「じゃあ、この色買います。サイズ一緒ですよね?」
「はい! それじゃお会計の方に?」
「先に会計しとくね? いやぁ、いいのあって良かったわ。」
今度は真っ黒のコートだ。確かにはっきりとした色で、微妙な感じは無くなった。でも俺にはちょっと着れそうにない。
やっぱりダウンにしようかな。それならどんな人が着ててもおかしくないはずだ。俺には冒険をする勇気はまだない。
「ダウンとか買いたいんだけど、どんな風にしたらいいかな。」
「ダウン? それならここじゃない方がいいね。ちょっと出ようか?」
「お店によって色々違うんだね。」
「まぁ、じゃないとこんなにお店がある意味がないしな。てか、ちょっとお腹空かない? 軽く食べたいな。」
「オッケー、なに食べよっか?」
「たこ焼きとかで良くね?」
「じゃあそれで。」
なかなか食べる機会がないけど、食べるとめちゃくちゃ美味しいよな。近くにたこ焼き屋できないかな。そこそこ高いからちょっと困るか。
「普通のやつでいいよね? じゃあ、たこ焼き二つで!」
席を取っておいてと頼まれたので、適当な場所を陣取った。山口がお盆の上に二つたこ焼きの舟を乗っけて辺りを見渡している。立ち上がって手を振ると気付いたようでこちらに向かってきた。
「ありがとね。いくらだった?」
「600円だったかな。まぁ適当でいいよ。」
「小銭じゃ足りないわ。なんか飲み物買ってくるけどなに飲む?」
「じゃあ、お茶で。」
自販機でお茶と水を買った。それを山口のところに持って行くともうすでに食べている。500円玉とお茶を渡し、自分もたこ焼きを食べ始めた。
熱いので、一口で食べ切ることは出来なかったがそれでもタコには届いた。外側がしっかりとしていて、中はトロトロとしている。そのトロトロの部分に触れると熱くてたまらない。
出汁の風味やソースの香りなどが上手いこと口の中で一つになって美味しい。なんか最近、粉物よく食べてるな。
「久しぶりに食べたけど美味いね。」
「そうなの? 俺いつも食べてるわ。楽でいいんだよねぇ。」
山口は食べ終えると慣れた感じで近くのゴミ捨て場に、たこ焼きの舟やら、ペットボトルやらを捨てた。これからは俺の服を買うことになっていたが、わがままを言って本屋から行くことにした。
「お前って結構本読むよね。俺も上田に勧められることとかあるけどあんま、純文学とか好きじゃないんだよね。」
「でもいつも読書の時間に読んでるじゃん? あれってなに?」
「映画化した奴とかさ。あと、話題になってる奴とかかな。昔の本ってなんか疲れるんだよねぇ。」
「山口もなんか買ってたらいいじゃん?」
「漫画買いたいけどさすがにやめとく。もう服買っちゃったしさ。早くバイトしたいなぁ。」
本屋で気になってた本を何冊か買った。俺はあんまりお金の心配とかしたことないけど、普通の中学生は好き勝手物が買えるわけじゃないよな。当たり前のこと忘れてた。
「それじゃお前の服買いに行こうぜ! めっちゃ待たせたんだから、クソダセェやつ選んでやるわ。」
「そんなに待った? でもカッコいいの頼むよ。俺、服に関してはなんも分からんから。」
「確かに今日もサイズ合ってないしダサいもんな。」
「ははは。めちゃストレートに言うじゃん。」
山口とも軽口を叩けるような仲になった。裏があるんじゃないかってちょっと思ってたけど知れば知るほどいい奴じゃん。
本来、自分とは全く関係なさそうな人にこうして触れ合えているのが不思議だ。
俺はあの頃のまんま、芯の部分ではなんも変わってないはずなのに。
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