未来の俺がヤバすぎるので今日から本気を出す。

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「あ、髪切ったんだ。カッコいいね。」

「そう。あの、森川のとこで切ってもらったんだよ。クラスメイトの森川。」

　髪を切るとみんなから話しかけられる。白木くんも話しかけてくれたが、それ以上に嬉しいことがあった。

「あ、髪切ったんだね。似合ってるよ、青木くん？」

「どうも……」

　沈黙が流れる。何喋ればいいか分かんないな。佐山さんにも声をかけられてしまったが、どう返答していいのか分からない。

「そういう時はありがとうって言っとけばいいんだよ。」

　森川が会話に入ってきた。ありがてぇ。

「リカが切ったの？　上手いなぁ。」

「俺じゃねぇよ。てか、マジでそれやめろ。」

「リカいいじゃん？　ね？　青木くんもそう思うでしょ？」

「俺？」

　どっちの味方をすればこの場が収まるんだ。てか、リカって森川のこと？　なんでリカなの？　理科が得意とか？　そんなわけねぇか。

「てか、なんでリカなの？」

「モリカワでしょ？　だから間を取ってリカ。良くない？」

「いや、お前も興味持たなくていいから。」

「青木くんってさ、みんなになんて呼ばれてんの？」

「普通に名字とか、名前で呼ばれてるけど。」

「あだ名とかないんだ？　つけてあげようか？」

「やめとけ。こいつロクな名前つけないからさ。マジで一時期クソめんどくさかったわ。」

「うーん。アオキユウトね。アオキユウト……アオキユウト……じゃあ、キュウトとかは？」

「え？　それって本気で言ってる？」

「ダメ？　確かにキュウトはないか。アオト……うーん。なんかパッと思い浮かばないなぁ。」

「思い浮かばないなら、やらなくていいだろ。マジでこいつは。」

　危なかった！　キュウトって正気？　佐山さんってこんな人なの？　素直な人だとは思ってたけど、ここまで、気を使わずに言えるんだな。

「ダメだ！　私も青木くんのことあんまり知らないから思い付かないや。」

「佐山さ、ちょっと失礼じゃないか？」

「だって知らないんだもん。でもごめんね？　いちお、謝っとくよ。」

「いや、別に気にしてないよ。」

「ほらぁ！　ね！　リカは気にしすぎ！　絶対そうだから。」

「青木がお前に気ぃ使ってんだよ！　てか、リカってやめろ。」

　この二人でこんなに仲良いんだね。知らなかった。いや、佐山さんが誰とでも仲良いのか。

　あの事件のせいで、佐山さんには男友達しかいないのかと思ってたけど、一緒のクラスになってみると男女関係なく、いろいろな人と話しているところを見かけたりする。

　この前も白木くんと話してるところを見たし、交友関係がめちゃくちゃ広い。しかし、こんな綺麗な人に話しかけられると、普通の人は緊張してしまう。でも、そんなの関係なしに、ドンドン距離を詰めていくのだろう。

　おじさんが佐山さんのことをあそこまで好きになった理由もちょっと分かった。誰に対してもこの感じで接するんだろうな。おじさんもあだ名とかつけられたのかな。

「リカさ、私の髪も切ってよ？　グッチのはいつも切ってるんでしょ？　良いじゃん別にさ？」

「別にいいだろ。いつもウチに来て切ってんじゃん。」

「いや、リカに切ってもらいたいんだよね、お願い！」

「あれだろ？　どうせタダで切ってもらおうとか考えてんだろ？　てか、長い髪切んの大変なんだよ。」

「練習でいいからさ！　ね？　リカぁ？」

「その名前で呼び続ける限り絶対にないからな。」

「えぇー？　なんで？」

　しかし、二人とも容姿が整ってるなぁ。側から見てるとカップルにすら見えるけど、これにキレる人がいるんだよな。

「ユウト？　いる？」

「あ、栞さん？　どうしたの？」

「森川も来てくんない？　あのさ、森川は知ってると思うんだけどね。」

「何のこと？　俺が知ってるって……あぁ、勉強会のこと？」

「そう。ウチたちさ、今んとこ志望校一緒じゃん？　それで一緒にやんないかってさ。」

「ケータイで話し合ったってこと？」

「そう。てか、森川言ってなかった？」

「悪りぃ、忘れてたわ。」

「まぁ、今日の放課後からさ、ウチのクラスでやろうかなって考えてんだけどさ、予定空いてたら来てね？」

「あぁ、じゃあ行くわ。あれ？　一組だよね？」

「うん。一組。よろしくね？」

　携帯って便利なんだなぁ。俺がいない間にこんな話が立ち上がっているとは思いもしなかった。でも、みんな偉いな。まだ、一年も先のことをこんなに早く……て、あと一年しかないの？

「今の子って上様？」

「え？　何の話？」

「いや、上田さんでしょ？　上田さんだから上様。」

「うん。そうだけど、知ってるの？　一年の時一緒だったとか？」

「山口と遊びに行くとさ、よく会うから仲良くなったんだよ。一年の時には、別のクラスだったかなぁ？」

　上様って上田さん嫌がりそうだけどな。そんなことないのかな？

「テキトーなあだ名つけんのやめとけ。友達なくすぞ。」

「リカは友達じゃないの？」

「いや、だから、それを無くすんだよ。」

「それって？　よく分かんないなぁ。」

「いいからさ。キレるやつもいるからやめとけ。」

「リカはキレる？」

「キレるかよ。いや、でもやめろよ？　それとこれとは別だからな？」

　リカ、イイヤツ。三年で佐山さんにキレる人がいるっておじさんが言ってたけど、これのせいかもな。ナチュラルな、悪気のない煽りをめちゃくちゃするタイプだ。本当に悪気がないかは分かんないけどね。

　放課後になると、上田さん達のクラスにカバンを持って、森川と向かった。

「森川もここから近い高校の志望だよね？」

「まーね。色々とちょうどいんだわ。近いし、進学もいろいろなところ行けるみたいだしさ。」

「行きたい大学あったりするん？　流石に早くない？」

「前に言ったかも知れないけど、俺東京行きたいんだよね。だから、東京の大学ならぶっちゃけどこでもいいわけ。」

「へぇ。」

「でもさ？　流石に適当なとこ行くのに東京で一人暮らしってわけにもいかないじゃん？　地元で探せよってなるだろうからさ。だからそこそこの大学ならどこでもいいのよ。」

「なんで、そんなに東京行きたい？　なんかあるの？」

「まぁ、一番は店だよな。洋服とかさ、あと、アクセサリーとか小物？　雑誌とか読んでるとな、オシャレな服とか沢山あるのに、地元だと中々見つからなくてさ。それで、東京ならあるんじゃないかって。」

「そうなんだ。」

　みんなそれぞれ夢があるんだろうな。山口はアメリカンドリームだっけ？　それにも英語力みたいなの必要だろうし、やりたいことの為の勉強になってたりすんのかな。でも、アメリカンドリームってマジで言ってんのかな。

「お！　来たな？　じゃあ、これ席くっつけちゃうからさ、ここに座ってよ。」

「お待たせ。先にやっててもよかったのに。」

「待たせて悪いね。座っちゃっていい？」

「ウチらもさっき終わったばっかだから、全然待ってないよ？」

　四つの机を一まとめにして、大きなテーブルを作った。そこで、それぞれの宿題やらを広げ始める。

「ウチら、塾の時間があるからさ、一時間くらいやったら終わりにしようか？」

「一時間なが！　まぁ、しょうがないか。」

「ワークどんぐらい進んだ？　英語ヤバかったんだけど分かった？」

「英語なら俺に任せとけ！　これあれだよ。一年の頃のやつじゃん？」

「うそ？　まだ習ってないやつじゃないの？　完全に抜け落ちてるわ。」

「あれ？　てか、塾にフリースペースみたいなのなかったっけ？　ここでやるよりそっちの方が良くない？」

「それも考えたんだけどさぁ。でも、静かすぎて集中出来ないってみんなが言うんだよねぇ。」

「いつもリビングでやってるから、騒音があった方がいいんだよな。」

「ウチ、絶対静かじゃないと集中出来ないんだけど。」

「そっち派だ。静かな方がいい。」

「じゃあ、二対二になってるわけだ。」

「てか、早くやらね？」

「オッケー。」

　蛍光灯がついた夕方の教室で、陽が差し込んでいるなか、机をくっつけてみんなで勉強する。

　それぞれが自分の課題に取り組んでいるのだけど、ものすごい一体感があった。

　一人でやるよりも何故か、集中出来るような気がした。

　友達っていいかもなって、本気で思った。