6
「ただいま。」
「おかえり! どう? 別に大したことなかったでしょ?」
「いや、でも、友達に合わなかったら危なかったよ。切符の買い方、分かんなかったしさ。」
「え! 友達いるの!? 知らなかったわぁ〜」
「山口にあってさ、手伝ってもらったんだよ。それと上田さん? 上田栞さんが荷物を持ってくれたりとかしてさ。」
「そんな人、僕、覚えてないよ!? え、誰だっけ?なんで僕も知らない友達がいるの!?」
「俺も話したのは今日が初めてだからね。おじさんが知らなくてもしょうがないよ。」
「なんか、もうすでに変化が現れてるなぁ。そのまま頑張れ!」
ドサッと荷物を玄関近くに置いた。色々な経験ができてよかったかもしれない、疲れたけど。俺は買い物リストを眺め、買うことが出来なかった物を再び見てみるが、どこで買えばいいのか分からない。ので聞いてみた。
「あの、向こうで買い物リストを見直してみるとジャージ一式とか書いてあったんですけど、これってどこで買うもんなんですか?」
「スポーツ用品店に売ってるよ! ショッピングモールにあったはずだけど、買わなかったの?」
「あぁ、そういえばありましたね。でも両手が塞がってたので、また今度行きますよ。電車の乗り方もわかったから。」
「僕もね、今日だけで全部買えるとは当然思ってないよ。でもそこに書いてあるものは全部、君のためになるからさ。」
今、買えてないものはジャージ一式、帽子、花束、ステキなプレゼント、お洒落な服、そしてスマホ。マジで花束なんて何に使うんだ?あと、プレゼントってなんだよ。誰に送るんだよ。
「花束とかプレゼントとかって何に使うんですか? なんも思いつかないんですけど。」
「いずれ分かるよ、あんまり焦りすぎちゃダメだからね。」
「まぁ、今日は疲れたんでもうお風呂入っちゃいます。」
「もうお風呂沸いてるから早く入っちゃいなよ。」
勝手に風呂を入れて、勝手に入ったのか。買ってきた袋の中から石鹸とネットを取り出して、お風呂場に入った。ネットの中に石鹸を入れ、ゴシゴシと擦るとコマーシャルで見るような泡ができた。インチキだと思っていたけど、こんなカラクリがあったのか。出来た泡を顔や体に撫で付け、全身を泡が覆った。それをシャワーで洗い流して、湯船に浸かる。外が寒かったので、より温かく感じる。まだ今日は宿題が残っていたが、とんでもない眠気が襲ってきた。湯船から上がると眠気を覚ますように冷水を浴びて、気合いを入れ直す。
髪をバスタオルで拭いていると、タオルも買ってきたことを思い出した。まだ玄関近くに置いてあった袋を漁って、5枚組になっている白いタオルを無理やり引っ張り出して、髪に巻きつけた。
「いつか髪も切らないとね?」
「え、何ですか? 急に、」
「だっていつも目に入ってるじゃん? それじゃあモテないよ!」
「あ、まぁ考えときます。」
「夜ご飯は食べた? レトルトとかならあるけど、」
「じゃ、カップ麺食べます。」
「オッケー!」
お湯を沸かしている間は宿題に取り掛かる。すこししたらおじさんがカップ麺を持ってきてくれたので、それを食べながら問題を解いていたが、おじさんは退屈なようで手持ち無沙汰にしている。
「あの、テレビつけてもいいですよ。」
「え、いいの!? でも、邪魔じゃないかな。」
「いえ、気にしないんで、大丈夫です。」
「じゃあ、ごめんね、うるさくして。」
「雑音があった方が集中できますから。」
「えー、僕は全然そんなことないけどな。静かな方がやりやすくない?」
「とにかく付けてください!」
俺がテレビをつけた。おじさんと同じで、俺も静かな方が集中出来る。進むペースは落ちたがそれでも何とか終わらせた。日付も変わろうとしているし、そろそろ眠ろうかと思っていたけど、知らない間に計算ドリルがテーブルに置いてあった。
「これ、今からやるんですか? もう眠いんですけど、」
「まぁ一ページでもいいからやってみなよ! 数学は基礎からやらないとダメだって言うじゃない。」
「聞いたことはありますけど、小学生の計算ドリルですよね。そこまでさかのぼる必要ありますかね?」
「僕も分からないけど、やって意味無いことはないと思うよ。」
数ページやって眠くなってきた。昨日普通に寝とけば良かったわ。流石にこれ以上は眠たくて出来ないことをおじさんに伝える。俺は寝室に行って眠った。
翌朝、リビングに行くと、おかゆが出来上がっていた。おじさんが作ってくれていたらしい。
「おはよう! おかゆあるから食べてね?」
「ありがとうございます。今日も徹夜ですか?」
「まぁね、もし君さえ良ければこれから朝、起こしてあげようか? いくら早い時間でも大丈夫だから遠慮なく言ってよ!」
「じゃあ、これからよろしくお願いします。」
おかゆを食べながらなんとなく会話をしてからチャチャと支度を済ませて家を出たが、外はすこし曇り気味で雨が降るかもしれない。もしものためにと傘を持っておいた。
顔を泡だてて洗うとスッキリとしたが、それでも朝は苦手だ。寝ぼけたまま、通学路をいつものように登校して校内に入る。すこしすると上田さんがやってきた。
「あ、おはよう、栞さん」
「おはよー。結構来るの早いんだね? ギリギリに来てるイメージあったけどさ。てか、あれ読んだ?」
「ごめん、まだ読めてないんだよ。昨日は疲れちゃって。」
「まぁ、そりゃそうだよねぇ。気が向いたらちゃんと読んでよ? あたしのオススメなんだからさ。」
「でも、今日持ってきてるから、読み進めようかなぁって思ってるよ。」
「あ、そう? そこまで長くないし、頑張れば今日中に読み終わるんじゃないかなぁ。」
「俺あんまり、本読むの慣れてないからそんなすぐには読めないかも……」
「まぁ、明日から休みだしさ。面白いから読んでよ。お、山口も来たねぇ。」
山口がやってきて、茶化してきた。
「おまえら、ずいぶん仲良いな。二人で帰るって聞いた時はびっくりしたけど、そんなに仲良かったっけ?」
「いや別に? こいつが大変そうにしてたから助けてあげただけだよ。」
「でも今、何か話してたじゃん?」
「あたしが本オススメしたんだけど、読んだか聞いてみただけ。」
「そうだよ。本屋で何買おうか迷ってたら、上田さんが勧めてくれて、」
「お前、上田さんって言われてんの? 確かにそこまで仲良くないのか?」
「あ、ごめん。栞さんだったね。」
下の名前で呼ぶように言われていたことを忘れていた。ついうっかり苗字で呼んでしまったことで、すこし上田さんはほんの少し不機嫌そうにしていたが、そこまでは気にしてないようだ。
「まぁ別にいいけど? でも下の名前で呼んでくれた方がこっちもいいから。」
「ははは! そんなに栞も気にするなよ! 青木もまだ慣れてないんだろ?」
「今度から気をつけるよ。すぐ慣れる。多分。」
チャイムが鳴っても、相変わらず先生はまだ来ていなかったが、それぞれが自分の席に時間通りに着席していた。どうしてこんなに素直なんだろう? もっとゆっくりしててもいいような気もする。
「おーい、日直、号令頼む。」
「起立、気を付け、礼、着席。」
「じゃあ宿題集めるから、後ろから回してくれ。」
今日も宿題をノートの束に加えて、前に回した、鈴木先生は何も言わずに受け取り、自分の机の隅に置いた。
「そろそろ、持久走があるよな? それのコースを作りにPTAの方が来ているから、廊下などですれ違ったら挨拶するように、いいな?」
「「はい」」
そういえば持久走が近い、去年は上手いことサボったけど、今年は走らないといけないだろうな。おじさんに怒られそうだし。そうだ。あとでおじさんに二年生の時に持久走をしたのか聞いてみるか、多分サボってるんだろうな。
六限目まで授業をそこそこ真面目に聞き、そこそこ真面目にノートをとった。帰ったら小説を読み進めようかな、学校ではほとんど読めなかったから。
山口や上田さんに別れを言って、学校を出て行った。
土手道をいつものように帰宅しているとPTAらしき人がいたので、頭を軽く下げた、確かこの道が持久走に使われるので、整備などしているのだろうか? 今までこういう行事の時は適当にやってたけど、今年は頑張って走ってみようかな?
明らかに自分の人生が良い方向に傾いているのを感じる。おじさんが俺のところに来てくれて良かったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます