30

 

「卒業式の練習とかめんどくさくね? ウチ誰も知り合いとかいないからダルイわ。マジ。」

「俺はさ! 昔の部活の先輩とかお世話になった人たくさんいるから、しっかり見送りたい。」

「部活やってたの? 俺全く知らなかったんだけど。」

「え! 知らないなんてことある!? だって二年の始めまでやってたじゃん!」

「え。なんで辞めたの?」

「怪我だよ! え! ホントに知らなかったの!?」

「怪我してたっけ? てか何部?」

「バスケだよ! 足首だから気付きにくかったのかなぁ。」

「なんかごめんね。その頃俺、ボケッとしてたから。」

「たしかに昔と比べると変わったよね、ユウト。前は宿題とか一切やってなかったしさ。本を読んでるのも見たことなかったし。」

「受験だからさ。しゃんとしないとって。」


 卒業式か、ホントに誰も知らないな。先輩って怖いイメージしかないな。背も高くて声もデカくて、垢抜けてる感じもあるし、違う世界の人みたいに思える。


 三年生が卒業するってことは俺たちが三年になるってことだけど、いやだなぁ。てか、クラス変わるのがそもそもいやだな。白木くんと一緒になれたら嬉しいけど、他のクラスの知り合いなんてそれぐらいしかいない。


 あ。佐山さん……佐山さんと一緒のクラスになったら仲良くなったりするのかな。俺、あの人のこと好きだけど、どんな人か知らないから、いい機会かもしれない。


 いつかは告白しないといけないのかな。おじさんはずっと出来なかったって言ってたけど、思ってる以上に告白って不可能だな。そもそも、二人きりになるとかそれ恋人しかできないじゃん。その状況をどうやって作るんだよ。


 一緒のクラスになる前提で色々妄想してたけど、可能性だけ考えるなら、ならないほうがあり得るよな。佐山さんは別にいいけど、白木くんと別のクラスだったらちょっとしんどいな、怪我のことも言ってないし。


「三年のね。あの亀井って先輩いるよね? あの人、佐山と付き合ってるんだって!」

「ヤバ〜。やっぱりちょっとアレなのかな? ね!」


 話し声が聞こえてくる。クラスの女子からだ。てか、え! マジで! 付き合ってるなら告白出来ないじゃん。そういう問題じゃないか。てかアレってなんだよ。なんかあるの? あの人って。


「今朝も下駄箱でさ! 先輩と会ってるとこ見ちゃったよ! 佐山さん泣いてて笑ったわ。」

「それじゃ、ホントじゃん。やっぱりアレだね。ね!」


 だからアレってなんだよ! アレなの? アレなのか? それともアレ? あれ? 何考えてんだっけ? そうだ! 佐山さんだ。佐山さんが三年生と付き合ってるらしい。一大事やで。ホンマに。


 授業はなんとなく上の空のままだった。聞いてはいたけど、耳の中をスケートのようにスーッと滑っていく。声は聞こえど姿は見えず。


「ただいま! 佐山さんって付き合ってるらしいじゃん! 告白とか出来ないよ。」

「え……そんな……付き合ってたの?……」

「知らなかったんだ。だいぶ落ち込んでるね。なんでそんなに好きになったの? 幼稚園の頃のことだけだよね。」

「いや、三年の時一緒のクラスになったんだけどね。その時にホントに優しくて、何度か話しかけてくれたりとか、なんていうか女神みたいな感じ。」

「なんかそこまで思うのちょっとキモいよ。ストーカーになりそう。」

「そこはちゃんとわきまえてるから。だから告白も出来なかったんだし。」


 わきまえると告白が出来ない。それなら何も考えず、言えばよかったのに。無責任にそんなことを思った。てか、三年でクラス一緒になるんだ。それちょっと複雑だなぁ。せっかくだし、アレについても聞いてみようかな。


「佐山さんってさ、どんな人? なんかクラスの女子から嫌われて……じゃないけど、なんか言われてたから。」

「もうめっちゃいい人! 色んなところに気がつくし、それでいて、ちゃんと自分がしっかりしてるしね。」

「よく分かんないけど、悪いこと言われるような人じゃないってこと?」

「まぁ、でも言う人はいたよ。なんだっけなぁ。なんか一回めっちゃキレられてたんだよなぁ。」

「え、なんで?」

「うーん、確か、バカにすんなとか言われてたような気もする。」

「へー。バカにするような人なの?」

「そんなことないと思うけどなぁ。いい人だよ?」


 迷宮入りだ。でもやっぱりちょっと嫌われるようなところがあるのかもしれない。てか陰でこんなこと話し合ってるの大分キモいな。まぁ、自分相手だし、いいか。


 先輩と付き合うと目立つからな、そこが関係してる可能性はある。亀井先輩ってどんな人だ? イケメンとかだったら嫉妬もありそう。


「一応聞くんですけど、これでも告白した方がいいですかね?」

「え……なんでそんなこと僕に聞くの? 君も好きなんでしょ?」

「えぇ、まぁ、多分?」

「好きじゃないなら告白しない方がいいよ。僕のためにしてくれようとしなくていい。ホントに。」

「うーん。今のとこ、想像出来ないですね。そんな度胸ないんで。」

「でも、本当に好きになった時は告白しないとダメだよ。未だに夢に見るからホントに。」

「へぇ。」


 好きでもないのに告白は流石にしないと思う。俺もそこまでダメ人間じゃないからな。でもおじさんとしてはこのままで本当にいいのかな。俺と初めて会った時も佐山さんの話してたし、そんなに好きになるほどのことがあったのかな。


「それじゃ、なんか大分気が楽になった気がします。告白してもしなくても良くなったの有り難いなぁ。」

「でも、いつかはするんじゃない? 僕はしたことないけどね。」

「じゃあ、俺もしないかも。」

「上田さんとかはどうなの? 好きじゃないの? 趣味すごい合うじゃん。」

「上田さんかぁ。数少ない女友達なんで、なんか変なことになったらいやだなぁ。」

「ふーん。そっか。」


 ニタニタと気持ちの悪い顔でこちらを見てる。勘違いしてるみたいだけど、栞さんのことを恋愛対象として見たことは今まで一度もない。仲良い友達なんだから、そういうのはない。


「あぁ! 付き合ってたのか! あの時の僕はバカだったなぁ。告白してオッケーされた時のこととか考えてたのに。」

「……どんなデートとかする予定だったんですか?」

「それがねぇ。なんも思いつかないの。不思議とね。やっぱり僕じゃダメだったのかな。」

「考えてたって言ったじゃないですか?」

「クラスのみんなが噂とかするのを妄想してたの。僕たちはお互い付き合ってるらしいことを隠してて、でも、なんとなく仲の良い僕たちの関係が噂になる妄想。」

「へぇ。」

「デートとかも出来ないの。なぜなら、バレたら大変だから。学校中の噂になっちゃうでしょ? あんな美人と僕みたいな人が付き合ったら。」

「そうですね。」

「それでさ! 僕が保健室に行った時なんか、佐山さんも保健室に来たりとか、二人で早退して、それで、二人で一緒に帰り道を歩いて!」


 なんか事実みたいに言ってるけど、妄想だよね? 佐山さんも大変だよ。こんな人にそんな妄想されたら。頭がお花畑で出来てるのかもしれないな。このおじさん。


「それでね。高校生になったらお互い違うとこに行くわけ! そのせいで別れちゃうんだけど、僕たちは何も恋人らしいことはせず、ずっと隠したままで、その純粋なままで、いられるんだよねぇ。」

「ちょっとキモくないですか? 全部妄想ですよね。」

「それはちょっと思うけど、なんか楽しくなると止められないんだよね。」

「てか、その関係なら別に佐山さんじゃなくても良くないですか? だって恋人らしいことしないんですよね?」

「分かってないなぁ。君も佐山さんが好きなら分かるはずだけどなぁ。」


 今になってみれば、そこまで好きじゃなかったのかもな。あの時は間違いなく好きだったけど、でも、彼氏がいるって分かったら諦められる程度の好きだったんだ。


 俺って人を好きになれたりするのかな。おじさんもなんか嘘くさい。本当は誰でも良いんだけど、分かりやすく綺麗な佐山さんを好きな人として選んでるんだろう。

 あんまり人のいないとこで噂話とか好きじゃないけど楽しいのは間違いないな。


 他にもどんな人がクラスメイトになるのか聞いてみようとも考えたが、面白味が無くなると思ってやめた。三年生になるの嫌だったけど、ちょっと楽しみになってきたな。






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