37

 

「えー! マジで! ヤバくない!?」

「そうだよね! ヤバイー!」


 どこからかクラスの女子の噂話が聞こえてくる。あのことがあってから、二週間ぐらい経ったのかな。もうすでに佐山さんは日常に戻った、それはこのクラスでも同じだった。


「そろそろ三年だね。別のクラスになるの嫌だな。」

「ウチもね、みんなと別れちゃうの嫌だな。」

「あのさ、春休みになったらクラスのみんなでファミレス行くことになってるんだけど、青木も来るよね?」

「え、知らない間にまたそんな話が決まってたの?」

「いやぁ、青木ケータイ持ってないからさ、連絡遅れちゃったな。悪いね。」

「いや、しょうがないね、ならね。てか、ファミレスってどこの? まぁ、行けるとは思うけど。」

「ここから近い場所にあるじゃん? あのぉ、ちょっと付いて来てよ。」


 山口について行き、廊下に出た。廊下の窓から何かを指差すと、あそこにだよと言う。ギリギリ、ファミレスが見える。あとで確かめよう。

 帰りにちょっと回り道をして、場所を確認しておいた。ここかぁ。俺も見たことあるファミレスだった。入ったこともあるし。



 先輩を見送る卒業式はただただ退屈なだけだった。体育館に集められた後は、よく知らない人がなぜか感動して涙を流している姿を見せられた。ちなみに山口も泣いていた。


 山口はそのあと、先輩の群れに入っていって、色々と言いたいことを言っていたみたいだ。あの中に亀井さんがいるんだな。そのまま見ていると、佐山さんも群れの中に入っていった。


 普段は背が高く見える佐山さんもバスケ部の中に入るとそうでもなく見える。彼女は先輩一人一人にお礼を言ってから、出ていった。ちなみに佐山さんも泣いていた。


 その後、俺たちにも別れがやってくる。クラスで最後集まって記念写真を撮った。このクラスともお別れか、そして俺はもう三年生になる。受験も近づく、果たして、時間が過ぎていくことで良いことはあるのだろうか。永遠にずっとこのままでいたい。


 マンションの窓の外をみると、季節が変わるのと一緒に景色も変わっている。俺はクラスでの集まりに遅れないように支度を始めた。


「今日は外で食べてくるんで、おじさんは適当になんか食べててください。」

「うん。僕、そういうの行ったことないんだよねぇ。クラスの集まりとかさ、呼ばれたことはあったんだけど、めんどくさくてね。」

「……いや、自転車乗れなくてね。の間違いじゃないですか?」

「うっ、まぁ、そうかもしれないけど。もう、行くよね。いってらっしゃい。」

「いってきます。」


 自転車で向かうと途中で、上田さんに会った。


「あ、上田さん?」

「え? ユウト? てか、なんで名字呼び?」

「や、ごめん。つい。」

「別にいいけど、てか、一緒に行く?」

「じゃあそうしようか。」


 自転車に乗ってファミレスへ向かう。三年になっても一緒のクラスでいられるかな。もし違ったとしたら、話すことも無くなくなるんだろうか。塾では会うけど、それでも少なくなることは間違い。


「栞さん! 三年になったらさ、クラス一緒になれると良いよね!」

「そうだね。本のこと話せる人あんまいないしさ! ウチね? ずっと本ばっかりだから、山口とかもさ、活字嫌いだって言ってたし。」

「塾で会ったらまた本借りていい? 必ず返すから。」

「いいよ。てか、返してないのあるくない? それも返してね!」

「ははは。まだ読み終わってないんだ!」


 自転車に乗っていると自然と声が大きくなってしまう。普段は声を張り上げない、しおりさんと、大きな声で会話をする。こんな風に普通に話せる女性は俺にはいない。女性に限らず、本の話を出来る人はいない。


 最近では俺からも本を貸すようになった。それを栞さんは必ず読んでくれるし、感想も言ってくれる。おんなじところでおんなじことを思っていることも多かった。それを言い合っていると、不思議と楽しい。山口との会話とは違う楽しみがあった。


 ファミレスには沢山の自転車が止まっていた。少し覗き込むとクラスメイトの顔も見える。


「結構集まってるね。入ろうか。」

「オッケー。」


 中に入ると店員さんに声をかけられる。クラスメイトを指差して、近くの席にしてもらった。


「お! 来たな!」

「山口結構早いね。いつ頃きた?」

「ついさっきだよ。てか、そっち座ってもいい?」

「いいよ。ドリンクバーとかでも頼む?」

「俺の分は頼んであるから、二人でいいよ。」

「食べ物とかさ、頼んだりした? それともみんな集まってから?」

「軽いやつは頼んだけど、しっかりしたのはまだだな。ピザあるから食べたら?」


 ドリンクバーとアイスを俺は頼んだ。栞さんはコーヒーを頼んだけど、砂糖やミルクなどを取りに書く必要があるので一緒にドリンクバーのコーナーに向かった。


「ユウトは何飲むの? ウチ炭酸とか苦手だからコーヒーにしたけど。」

「普通にコーラ飲もうかな。色々飲めるから飲めるだけ飲もう。」


 もうすでに十人は集まっている。その中には森川や、佐山さんと喧嘩してた細田もいる。

 細田は来ている人に水を配っている。ずっと座らないであちこちを歩き回っていた。誰が主催したのか知らないけど、仕切ってる彼女が幹事的な役割なのかもしれない。


 細田さんも噂さえしなければいい人なのかもしれないな。ファミレスでの様子を見てそう思った。


 それからも段々と人がやってきて、二十人くらいの大きなグループになった。一応、乾杯みたいなものを席ごとにして、みんなが本格的にご飯を頼み始める。てか、一斉に頼んだら絶対迷惑だよな。なんか悪い。


 俺は特に何も頼まずテーブルのピザとか、ポテトとかを摘んで、適当に時間を過ごしていた。みんなで集まっても結局、話すことは学校と対して変わらなかった。


「ポテト美味しいな。ずっと食べれるわ。」

「青木はメイン頼んだ? それともまだ来てないとか?」

「俺はいいかな。あんまお腹空いてないし、あと一斉に頼んだら大変じゃん。」

「確かにな。じゃ、後で頼もうか。」


 ボケーッとテーブルに座りつつ、周りを見ていると細田さんは色んな席をあっちこっち動き回っている。何をしているのか知らないけど大変そうだった。


「伝票来た? 一回集めちゃうからさ! 来たら持ってきてよ!」


 細田さんが俺たちのテーブルにやってきて、そんなことを言った。割り勘の準備をしてたのか。

 そんなこんなで時間は過ぎていった。俺もなんだかんだお腹いっぱいになったし、お会計は向こうで勝手にやってくれるみたいだしで、来てよかった感じはするかもしれない。まぁ、最後の思い出にはちょうど良かったな。楽しかったし。


「ユウトはこのまま帰る? 途中まで一緒に行こうよ。」

「そうだね。てか、結構暗くなってきちゃったな。」


 空は真っ暗だ。自転車のライトだけじゃ明かりが少ないので、ちょっと怖い感じもする。俺も一人で帰るよりは誰かと帰りたい。


「ユウトさ! もしね? 違うクラスになってもさ。」

「うん。何?」

「本を借りたりとか、貸したりとかしたいなって!」

「俺もしたいかも。」

「そうだよね? だからさ。遊びに来たりとかしてね。私のクラスに!」

「うん、もちろん! 絶対行くからさ!  あ……ごめん……道こっちだからさ。ごめんね? じゃあまたよろしく! おやすみ。」

「おやすみ!」


 クラス別になったらか、うわぁ、あんまり考えたくないかもしれん。冷静になったら誰かとは違うクラスになるもんね。佐山さんは一緒らしいけど、もし、山口と上田さんが違うとこ行っちゃったら話し相手居なくなるかもしれない。


 塾では会えるけど、そうじゃないんだよな。塾っていうより学校で話したいんだよ。

 考えてもしょうがないし、今は三年になるのを待つしかないか。まだ本、借りっぱなしのもあるし、いつか返さないと。


 一人での道は暗かった。自転車のライトが少し先を照らした。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る