33
良かった。今日が晴れてて本当に良かった。昨日、天気予報士が、なんだかどっちつかずのことを言っていたので、不安だったが晴れてよかった。
今日は塾のみんなと回転寿司を食べに行くことになっている。なぜそういうことになったのかは知らないけど、呼ばれたので行く。
こういう時のためのケータイだな。でも、今んとこ必要ないようにも思えるが、買い物リストに書いてある以上はどこかで使うんだろう。あれだけが今の俺にとっては確かなものだ。
「大丈夫? みんないる?」
誰か分からないが、保護者がついてきている。これっておごってくれるってこと? それなら有り難いが、見たところ少なくとも十五人はいるので、流石にこれを全部ということはないか。
「これって奢り? 一応お金持ってきたけど。」
「いや、割り勘。だけど大目に払ってくれるんだって。」
「へぇ、てか、なんで集まることになったの? なんかあったっけ?」
「引っ越す奴がいるから送別会的な? 青木は最近来たからあんま知らないかもしんないけどさ。」
「そっか。まぁ、そんなこともあるか。」
となると俺はただ寿司を食べに来たみたいになるな。引っ越すことを知らなかったやつに言いたいことも、言われたいこともないはず。まぁ、適当になんか上手いこと、やっとこ。
「山口は仲良かったの? その子とは。」
「俺? 俺は仲良かったけど、あんまり遊んだことはなかったな。でも森川はよく遊んでたらしい。」
「へぇ。でも山口と森川はいつも遊んでんじゃん。その子といつ仲良くなったんだろ。」
「幼馴染なんだって。家が隣らしい。」
「あれ? うちの中学?」
「森川の家って、結構遠いじゃん? だから別のとこ行ったんだって。」
「たしかに美容院から学校遠いな。」
保護者が先導して中に入っていく。日曜のお昼ということもあって、中は混雑していたが、予約をしていたらしく、テーブル席にすぐ座れた。
グループが三つに分かれた。森川とか、引っ越す子と仲が良かったグループ、山口といつも遊んでる人たちのグループ。そして、俺とあんま知らない人たちのグループ。
俺は山口と上田さんと森川は同じクラスだったってこともあり、仲が良かったけど、それ以外の人はほとんど知らない。
遊びに誘われることもあるが、冬の寒い中、外に出ていくのはダルいし、みんなで集まって遊ぶより、一人で読書なんかをしてる方が気が楽で良い。正確に言えば一人じゃないけど。いや、正確に言うと一人なのか? どうでもいいわ。
なので気まずい。知らない。まぁ、寿司が食べれるならなんでもいいや。
俺以外はみんな付き合いが長いので、そこそこ会話も弾んでいた。ちょうどいいタイミングで相槌を打つことを忘れずに、寿司をタッチパネルで注文する。
頼みすぎると、操作が出来なくなり、お待ち下さいと言われるので、自重しながら好きなものを食べる。誰かが気を使って頼んでくれたフライドポテトがあったので、それを摘みながらお寿司を待っていた。これって会計の時、どうすんだろ? 席ごとに割り勘なのかな。
同じ席の人とも、ほどほどに仲良くなり、お互いの家の場所などを話していると、同じマンションの人がいた。
彼は三階に住んでるらしく、どうやら俺のことを見たこともあると言っている。帰り道が同じはずなのに合わなかったのは、彼が友達と一緒に回り道をしてから帰るからだった言う。
そこからは気まずさは無くなり、その彼とマンションの話に限らず、色々な話をした。漫画は何が好きとか、テレビがどうたらやら兄弟がなんとか、それからたわいもない話をずっと続けた。
そのうちお腹もいっぱいになってきた。最後に何か頼もうとタッチパネルを触っていると、保護者の方から、そろそろ帰るからそれで最後にしてね。と言われた。それなら別にいいかと思い、手を引っ込めると、話が弾んだ彼が躊躇いながら、アジの寿司を頼んでいた。
会計のボタンを押して、届いた伝票の値段を見る。それぞれがお金を出し合っていると、またもや保護者の方が来て、三千円を出してくれた。お礼はみんなで言った。
お金を一度しまい、また計算し直して、会計に向かう。代表して、誰が払うかをジャンケンで決めることになった。
俺は一人勝ちをしたので、先に店を出た。
外では山口が話している。混ざる気はなかったが、もう帰っていいのかも分からなかった。
なんとなく、ボーッとしていると、山口が話してきたので、それに応える。
「うまかったな! 思ったよりお金出してもらってなんか申し訳ないわ!」
「うん。でも、送別会って割には普通の食事だった気もする。」
「ははは。でも森川とか、仲良い奴はちゃんと話せたみたいだよ。さっき、みんなで帰っていくの見たわ。」
「家近いんだもんね。帰り道も一緒か。」
「この後みんなで遊びに行くことになったんだけど、青木も行く?」
「うーん。最近、お金使ってばっかりだからやめとこうかな。流石に気になってきた。」
「お前の場合は生活費も自分でやってるんだもんな。金欠になったら大変か!」
「誘ってもらったのに悪いね。また学校で。」
「じゃ! またな〜!」
ずいぶんと元気だな。自転車でどこに行くんだろ? この辺りになんかあるのかな。
一緒のグループの人たちが会計を終えて、外に出てきた。同じマンションに住んでいるって言っていた奴と帰り道が同じなので、自転車で並んで帰った。
国道沿いだったので、車の音が大きくて声が聞こえにくい。静かな住宅街への道に入ると、さっきの続きのように、意味のないような話をした。幼稚園はどこだったとか、普通の会話。
家に着き、お互いに自転車を止め。エレベーターに一緒に乗る。彼は三階で降りた。一応、何号室かだけ聞いておく。
しかし、今までなんで気付かなかったんだろうな。そりゃ結構デカいマンションだから、知り合いがいてもおかしくないんだけど、気にしないと気にならないもんだな、今まで気付かなかった。
「ただいま。」
「おかえり〜! 寿司美味しかった?」
「美味しかったよ。おじさんも食べに行けばいいのに。」
まだ外は明るかったので、ランニングに行く。いい天気だし、走りたい気分だ。白木くんはいるかな? いそうな気もするけど、まぁ、行ってみれば分かるか。
土手で吹く風が、自分の横をすり抜けていく。この前の雨で濡れた地面はところどころ、ぬかるんでいた。走るには最悪だったので、前に何度か走ったことがある。近くの広い道路で走ることにした。
ここでは景色の変化がほとんどなくてつまらないのだけど、しょうがない。足をとられるよりは、つまらない方がいい。
そこそこ走った後に、夜ご飯に使える食材が少なくなっていることを思い出して、家に帰る。そこで軽くシャワーを浴びた。髪や全身が乾くまで、宿題をやっていた。
「コーヒーとか飲む? 入れようか?」
「よろしくお願いします。」
「あ、紅茶もあるけど、どっちがいい?」
「うーん。じゃあ、紅茶で。」
最近買ったヤカンに水が入る音がする。ショッピングモールはなんでもあるので、暇な時に立ち寄るようになってしまった。勉強用の本や、小説などを買うついでに、見て回ると、どうも面白いものばかりで、ついつい買ってしまう。
この間は、パスタをレンジでチンするだけで出来上がるタッパー? を買ったが、結局、フライパンに水を入れて茹でることの方が多い。それだけのために取り出すのがめんどくさいのだ。
「紅茶持ってきたよ。頑張ってね!」
「どうも。」
日常というものがちゃんとしてきた気がする。これが普通の人間の生活なんだろうか。
やりたいことが分からないのは、すでに叶ってしまっているからかもしれない。夢がいつのまにか叶ってしまったのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます