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今日も休みらしい。
風邪が長引いて、今日も佐山さんは休んでる。本当に風邪だけなんだろうか。まぁ、関係ないけど。
「なんか最近風邪流行ってるよねぇ。ウチさ、お母さんが寝込んじゃってて、マジつらい。レトルトばっかりだし。」
「じゃあ、栞さんも危ないね。気を付けてね。」
「そんなこと言ってもさぁ。何すればいいんだろ。はぁ、ウチ、結構長引くから嫌なんだよねぇ。」
「そういえば、あれ読み終わったから今度返すわ。なんかずっと読んでなくて悪いね。」
「やっとぉ? 何ヶ月前だっけ? 面白かった?」
「いや、めちゃくちゃ面白かった! あのさ、途中で出てくるやついるじゃん? あれが出てからだよね。」
「わかるぅ、そうなんだよねぇ。それまでずっと意味わかんないしね。」
何だかんだ楽しめた小説の感想を言い合った。
「ここまで分からなかったやついるか……それなら次行くぞ。」
休みがちな生徒が多いせいか、授業のペースはゆっくりになっている。そろそろ学級閉鎖でもするんだろうか。でも、インフルエンザじゃなくても閉鎖すんのかな。
「いやぁ、森川まで休むとはな。俺ももうそろそろヤバイかも。」
「俺なんか、いつも風邪ひかないんだよね。多分今年も大丈夫だと思うけど。」
「へぇ、馬鹿は風邪ひかないっていうしな!」
「は! なにぃ? 山口もまだひいてないじゃん! そういうお前も馬鹿なんだろ?」
「ははは。お前よりは頭いいわ!」
実際、山口は頭いい。成績もいいし、それ以外でも要所要所で地頭みたいなものの良さを感じたりする。でも、子供っぽいところがあるので、嫌味な感じは一切ない。そこが友達が多い理由なんだろうな。なんでもかんでもそつなくこなすのに、抜けてるような空気が漂っている。不思議だ。
「先輩もさ、風邪ひいちゃってね。集まることになってたんだけど、ダメになったんだよ。」
「先輩って、亀井先輩? それは残念だね。」
「カメちゃんさ。結構、体弱いみたいで、俺が部活やってた時もよく保健室行ってたわ。」
「へぇ、どんな人なの? 亀井先輩って。」
「マジで、いい人だよ。俺が怪我した時もウチのクラスまで来てくれたことあったしね。てか、見たことあるんじゃね? 背が高くてさ、イケメンの? 分かる?」
「いや、見たことないんじゃないかなぁ。」
「部長だからさ、なんか部活動の発表? みたいなのでさ? 分かんないか。」
「うーん? あの、ちょっと色黒の人?」
「あ、そっちじゃない。カメちゃんは真っ白の方。」
「あー。なんか思い出したかも、なんか文化部だと思ってたかも。」
俺は部活に興味がなかったので、しっかりと見たことはなかったが、比較的背が高いバスケ部は目立っていたような気もする。
やっとなんとか、亀井先輩らしい人を思い出してきたが、やっぱり、分からない。うーん。昔の俺は全く部活に興味なかったからなぁ。見てもいなかったかもしれない。
人柄はいい人らしいな。もう考えないって言ったのにやっぱり気になるなぁ。あの、下駄箱で立ちっぱなしの、瞳と全身を濡らしていた姿はどうしたって消えようがない。
ガッツリ目が合ってたしな。これは誰でも気になる。しかも山口と仲がいいとなると尚更、気になる。これはどうしたらいいのかな。てか、これ以上何か分かることなんてあるかな。あ、佐藤って人について聞いてみるとか?
「えっと、佐山さんと付き合ってた佐藤ってどんな人?」
「うーん。俺、あんま話したことないけど、とにかくバスケは上手かったなぁ。」
「珍しいね。なんで話さなかったの?」
「練習中にバスケのことで怒ったりすることが多かったから、怖かったんだよねぇ。だから、佐山があいつと付き合うってなった時、びっくりしたけど、表裏とかないからさ、佐藤は。そこが良かったのかもね。」
「なるほど。」
「なに? ずいぶん納得した様子だけど、どうした?」
謎は全て解けた。シンプルすぎて見落としてただけだったんだ。
佐山さんは佐藤と付き合ってた。しかし、何かしらで喧嘩して、雨の中、佐藤は佐山さんを置いて、学校に向かった。そして、学校に着いた佐山さんはびしょ濡れのまま立ち尽くしていた。それは、佐藤と顔を合わせたくなかったからだろう。
佐山さんが未だに学校を休んでる理由はそれかもしれない。同級生となれば顔を合わせることもあるだろうから、それが嫌なのだ。もちろん本当に風邪が長引いているのかもしれないけど。
大体が頭の中で出来上がったけど、これ、分かったところでなんでもないな。ホントに意味ないわ。だって、佐山さんと話したことないから、意味ない。
「佐山さ! 先輩と別れたショックで、仮病使ってるんだって!」
「ヤバ! 馬鹿過ぎでしょ。だって、そんなことで学校休むなよ。」
また噂話だ。君たちはホントしょうもないなぁ。そんなことを話して一体、何になるんだい? 全く、そもそも佐山さんと亀井先輩は付き合ってないっていうんだから笑えるよね。はははははは。
「ただいま! あのさ、全部分かったよ! マジで!」
「おかえり。何が分かったの?」
「佐山さんに関してのやつだよ。聞きたい?」
「まぁ、聞かせてくれるなら。」
「佐藤ってやつと付き合ってたことは言いましたっけ? そんで、そいつがひどいやつらしくて、山口が言ってたんですけど、すぐ怒ったりとかして、みんな怖かってたらしいんです。」
「うん。それでそれで?」
「で、佐山さんと誰かが雨の中で喧嘩をしてるのを見た人がいるんですけど、その見た人曰く、置いていっちゃったんだって。佐山さんを。」
「雨の中に?」
「うん。多分、相合い傘でもしてたんだろうね。そんな中で置いてかれちゃったもんだから、びしょ濡れになっちゃったんだよ。」
「ふーん。でもなんでそんな人と付き合ったんだろうね。僕が知ってる佐山さんはもっとしっかりした人だったけど。」
「それがあってから変わったんじゃないですか? だってそう考えると自然な気もしません? クラスの噂だと佐山さんはなんか問題があるらしいので、今回の件でいい子になったとか。」
「その前から山口くんとは仲が良かったんでしょ? なんか変じゃない?」
「まぁ、自分の中では解決したのでこれでいいです。」
別にはっきりいうと、どうでもいいしな。もちろん可哀想だし、その、雨の中で置いてったやつは許せないけど、俺に出来ることがなさすぎるから、知ったところで、俺の日常が何か変わるわけでもない。
それなら、なんでこんなに、気にしてたのかも分からないが、好奇心ってそういうもんなんだろう。結局、野次馬以上の何者でもなかったが、これでホントに終わりだ。
おじさんは佐山さんを神格化しすぎている。佐山さんだって人間なんだから、変なやつと付き合うことだってあるし、なんでもかんでもうまくいくってわけじゃない。
そもそも、童貞のおじさんに女性の心なんて分かるんだろうか、何年も前のクラスメイトがどんな人かを鮮明に覚えることができるだろうか、出来ないはずだ。だからきっとおじさんが忘れているだけで、佐山さんにも悪いところがあるはず。
「まぁ、いいや! コーヒー飲まない? それとさぁ、最近鍋が食べたくて仕方ないんだよねぇ。」
「鍋ですか? カセットコンロないんで、多分無理かなぁ。買うってなってもちょっと怖いですしね。ガス?」
「たしかにカセットコンロは怖いね。なんかガスって怖い。」
「うーん。上手いこと出来ないですかね。なくても出来るような鍋かぁ。」
「しゃぶしゃぶとかどう? 台所で茹でてさ?」
「しゃぶしゃぶこそ、コンロでやるもんじゃないですか? よく分かんないですけど。」
「冷やしゃぶみたいに出来ないかな?」
「まぁ、でも、あったかい物は食べたいですね。」
おじさんは空気を変えようと楽しい話をしてくれた。人が誰と付き合っているかとか、誰と喧嘩したかとかよりも、今日や明後日、何を食べるのかの方が圧倒的に大事だ。
あー、お腹すいた! 今日は何食べようかな?
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