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「え! 一緒のクラス!! やったーーーー!」
「うわぁ。最悪。別々になっちゃったね。」
クラス分けの紙が校舎の入り口に貼られている。それぞれが良かっただとか、悪かっただとか言っているが、俺はどうだろうか。紙に近づき覗き見てみると、三組の中に俺の名前があった。
どれどれ? 誰がいるのかな? まずは佐山さんを見つけた。おじさんが言っていた通り佐山さんはクラスメイトらしい。それに、白木くんも居る。あ、森川くんもいるじゃん。あれ? 上田さんとか山口の名前が見当たらない。何回見てもみつからないので、別のクラスのところを調べると二人とも別のクラスだった。
これ困ったかもな。白木くんと森川は話すことあるけど、他に友達が一人もいないと言ってもいい。話せる人ならいるけど、どんな人とか全く知らないな。適当に人間関係をやり過ごしてきたせいか。反省しとくだけしとこ。
しかし、そう考えると俺にも友達が出来ている。しかも沢山出来ている。こうしてクラスが同じになったり、分かれてしまったりすることに一喜一憂出来ていることが不思議だ。
これまでは教師を見てた。教師がめんどくさいと早退が難しかったり、宿題の提出やプリントなどで怒られたりと小学生の頃からずっと教師のことを気にしてた。もちろん好きになることはなかったけど、それでも気になって仕方なかったのだ。
教室に入って行き、自分の席に着く。これから一年間ここで生活していくんだ。それで、もう終わりだ。
「白木くん席近いね。」
「ホントだ。これからよろしくね。」
佐山さんは遠い席に行ってしまった。チャイムが鳴ると若い女性の先生がやってきて、挨拶をする。今年はもう三年生だからなんとかとか、受験がどうとか、そんなことを言っていた。
今考えることじゃないけど鈴木先生っていい先生だったな。親とも連絡を取ってくれてたみたいだし、あと、喧嘩の時も止めてくれたし。先生って裏では結構気を使ってくれてるのかもしれない。この人もいい人だといいけど。
話が終わって、体育館へ行くことになった。そこで校長先生のホントにどうでもいい話を聞き流しながら、体育館の開いた扉から校庭を見た。
将来どうしようかな。高校は近くの、頭がいいとされてるところに行くつもりだ。けど、塾の先生が言うにはちょっと頑張らないといけないらしい。多分、本当はちょっとじゃないんだろうけど、気を遣ってそう言ってくれてる気がする。
頑張らないとな。今日は早く帰れるから、勉強でもしようかな。こんな風に、たまに気分が良く勉強に立ち向かえることもあるんだけど、基本的には辛い。頭が痛くなってくるし、興味がないことは覚えられない。
例えば地理とかは好きなんだけど、歴史は嫌いだったりする。世界地図をみるとやっぱり両親を思い出す。今どこで何をしているのかは分からないけど、だからこそ、思い出してしまう。
「校長先生のお話でした。次は三年生を代表して、松井さんによる挨拶です。」
松井って誰だろう、そんな子いたんだね。壇上に上がって行くのは背の低い、束ねてある黒髪がキラキラと光った女の子だ。ボケーッと見ていたが、マイクの前に立っても、松井さんは緊張しているのか言葉が中々出てこないようだ。
沈黙の間、鳥が鳴いた。ピーヨピヨッって感じで。そのうち口を開きはじめると綺麗な声で流暢に話し出した。多分、めちゃくちゃ練習したんだろうなってのが聞いてて分かった。
終わり良ければ全て良しだ。さっきまでの沈黙が演出だったかのように、まったく興味がなかった人まで、その言葉に耳を傾けた。俺もつい最後まで聴いてしまった。
教室に戻ってみると、その女の子がいた。クラスメイトなんかい! 周りに人が集まっていて人気者になっている、どんなことを話してるんだろう。
先生がやってきて、今日の予定は終わりだと告げた。せっかく白木くんと同じクラスになったので、途中まで一緒に帰ることにする。廊下に出ると上田さんが女子と楽しそうに話している。どんな話してんだろ。
「これからはさ、雨とか気にせずに走れるから良いよね。ランニングしやすくなってありがたいなぁ。」
「白木くんって雨の時もたまに見るもんね。買い物行こうとしてた時にさ、たまたま見つけてびっくりしたことあるよ。」
「カッパ着てね。でも着てても寒いよ。足元もびしょびしょになるから晴れてた方がいいよ。」
「俺はさ、大会が無くなってそのせいで目標もなくなっちゃってさ。走るのが、なんて言うか、走ることを忘れちゃったりするんだよね。」
「そうなんだ。でも僕も持久走大会の前よりは走ってないかも。」
「白木くんって走ってる時の目標とかある?」
「うーん。パッとは思いつかないかな。でも、目標立てるのはいいかもね、やってみようかな。」
白木くんとはランニングの話ばかりになってしまう。もっと他にも話したいことがあるようにも思えるけど、ランニングのことが一番、話が弾む。
白木くんが家に入って行くのを見送ると、黙って家に真っ直ぐ向かった。
「ただいま。」
「あ、おかえり! 佐山さんとおんなじクラスだったでしょ? いいなぁ、僕ももう一回中学生になりたい。」
「でもグループは違いましたよ。席替えしたら近くなったりするんですか?」
「そうだよ。でも、二学期になってからだったような気もするな。」
二学期か、まぁなんでもいい。今日は走ってから勉強するか、勉強してから走るかの二択だけど、走った後の熱をもつ感じで集中は出来ないと思ったので、先に勉強しよう。
勉強って言っても面白いことは何にもない。ワークを埋めたり、暗記しなきゃいけないものを気合いで覚えたり、これが役に立つかという疑問は置いといて、ひたすらに向き合うだけだ。脳味噌が熱を持ってくる。このままだと頭が爆発するぞー! ってなったので、走りに行った。
やっぱり白木くんがいる。ランニングに飽きたりとかしないのかな。てか、俺はもう大分飽き始めている。もっと複雑なバスケとか、サッカーとかやりたい。走るだけって面白くなくない?
そんなことを思っていても走ると止まらなくなる。楽しいとかっていうよりも、なんというか瞑想してるような感覚だ。悟りを開くために走ってるんじゃないかと、時々錯覚することもある。
「あ、来たね。お疲れ様。」
「白木くんもおつかれ。今日はどんぐらい走ったの?」
「今何時だろ? 家着いてから、ストレッチして、あと明日の持ち物とかを用意してからずっとだから、よく分かんないや。」
「多分すごい長いこと走ってると思う。すごいなぁ。なんかたまに思うんだけど、白木くんって飽きたりとかしないの?」
「飽きるとかはないかな。でもじっとしてると落ち着かなくてさ。それで走っちゃうんだよ。あれ? これ前にも聞かれたっけ?」
「え? 聞いてたらごめん。でも確かに落ち着かないっていうのは言ってた覚えある。」
あら? そうだったかな。まぁいいか。
「ランニングって面白い? たまに走ってるとさ、俺はなんで走ってるんだとか思わない? 俺、結構思っちゃうんだよね。」
「僕も思うよ! こんなに疲れてるのに、なんで走り続けるんだろうとかね。でもそこでゆっくりにしてみようかなぁとか、歩こうとしてみてもさ。なんか走っちゃうんだよね。」
「それは凄い分かるなぁ。歩いちゃう時もあるけど、悪いことしてる気になるよね。」
お互い呼吸が整ってきたので、それぞれが走る。前は一緒に並走する時もあったけど、喋ったりはしないので、自然と離れていった。白木くんに追いつこうとするとすぐ疲れるし。
帰る時に軽く手を振った。どれぐらい走ったのかは分からないけど、俺はもうヘトヘトだ。白木くんは今も走り続けている。やっぱり凄い人は中学生の頃から凄いんだな。
マンションに入る時の、五段しかない階段につまずきかけた。疲れすぎだろ。
はぁ……三年生になっちゃったよ。これから頑張らないとなぁ。
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